幕間〈3〉 「椿」



 深く、愛した人がいた。


 私にとっての『世界』はきっと、その人のことだった。


 でも、世界は彼の犠牲を必要としていた。

 彼はいつも血に塗れ、傷だらけだった。


 だから私は、世界を呪った。

 世界は、確かに壊れた。私の望み通りに。私の望む『一番』を道連れに。



 与えられたのは永遠の孤独と、無数の憎悪。

 そしてその上で世界は、私の眼の前で彼を奪い続けた。



 呪っても呪っても呪っても呪いきれない。

 憎んでも憎んでも憎んでも、憎みきれない。

 死にたがりの世界などいつでも壊れてしまえば良い。望み通りに死ねば良い。

 それをしないのは彼が此処に帰ってくるから。

 それだけで、全てを許せる気さえするから。

 だから、私にはきみさえいてくれればそれでいい。

 だから、私にはきみ以外、何も必要じゃない。



 ――――なのに。

 なのに、それなのに。それなのに!


 きみはどうして、死のうとするの?

 きみはどうして、いつも何処か遠くに行ってしまうの?



 独りで、勝手に、身勝手に。



 世界が続く限り、きみが死を選ぶのなら。

 世界が続く限り、世界がきみを死なせるのなら。

 この地獄が、きみの犠牲でしか終わらないというのなら。

 それでもきみが、世界を救い続けるというのなら。


 ならば私は、もう一度罪を犯そう。

 ならば私は、災厄の魔女になろう。




 そうして――――きみも世界も私も全部、殺してしまおう。


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