第98話 デート4 なるほど

「雀君,どうして元気がないのかしら」

よく来る公園で,そう言ってノビをしていた.手には沢山の袋があった.もちろん,僕の手にもあった.


「……はは」

楽しさと疲れるは両立する.楽しければ疲れないなど,そんなのは幻想だと再認識した.


「私が隣にいるのよ,ニコニコ笑顔でいなさいよ.」

鈴華は,こっちを見て,小さく笑った.


「……疲れたので無理ですね.」


「そう,私は楽しかったから.君が疲れたおかげ私が楽しかったから,仕方ないわ.」


横暴だった.

「仕方ないんですか?」


僕が笑って言い返すと

「ええ,私がすべてよ.」

鈴華は,そう言って小さく笑った.


「ええ,そうだったんですか?」


「そうよ,常識よ.知らなかったのかしら.」

鈴華は,少し機嫌よさそうに笑っていた.


「楽しそうで結構です.それで次は?解散ですか?」

まあ,服とかの買い物は2か月は一緒に行かないと心に決めたが.


「違うわ.うちに来てください.一緒に夕食を食べるわ」


うん?今から,まだあるの.いや,一緒にいるのは楽しいけど,ここから鈴華の家族に会うのは辛くない?でも,家に帰るの無理なんだろうな.

「……母には,まあどうせ事前に連絡してますよね.」


「そうよ,カンが良くなったわね.」

鈴華は準備が良かった.


「……それで,えっと誰がいるんですか?」

まあ,諦めて行くとして,誰がいるかは大事だ.出来れば,鈴華姉と鈴華父はいない感じでお願いしたい.


「全員よ」


「うん?」

なるほど,そうか,今日は休みだもんな.


「全員いるわ.姉も妹も父も母も.全員いるわ.」

鈴華は,普通にそう言った.


「帰っても良いですか?」

思わずそう口が動いていた.


「良くないわよ.」

鈴華は,少し口を膨らませた.


「……ここからか……」


「大丈夫よ,席の配置は考えてるから.ちゃんと私と妹の知り合いの近くにするわ.大丈夫よ,父の隣とかにしたりはしないわ.」


「……もう,そういうレベルの問題じゃないんですけど.」

シンプルに,父親という人種は苦手だ.接し方が分からない,他人の父親だからなおさらだ.


「うるさいわね.行くわよ.今回はちゃんと認めてもらう事ともうひとつ大事な用事があるのよ.」


「何ですか?」


「……雀君のほぼ妹の事よ.」

……うん,ああ真紀と鈴華の妹の事かな.


「……ああ,なるほど.うん,今からですか?」

多いよ,労力が多いよ.


「そうよ,今からよ.それと少ししゃがみなさい.」


鈴華は,そう言って僕の目の前に立ちジッとこっちを見た.良くわからないので少ししゃがみこんだ.服選びでこんな疲れた日に,いや,これは僕の都合だけどさ,多いよ,そんな体力はないよ.

「だったら,服選びは今日じゃなくても良かっ」


鈴華は,その僕の言いかけた言葉を止めた.物理的に僕の口を彼女の口で封じた.

「うるさいわ.3回目は,雀君からすることね.」

それから,そう言って笑った.


……20秒ほどその場で固まった.マジか,不意打ち,3回目か.いや,その前に

「……あの,何で今.普通に恥ずかしいから,この後ずっと心拍が上がったままなんですよ.別れ際にしてくださいよ.いや,して下さいっていうのも,あああああ」

思考がもうぐちゃぐちゃにされた.疲れはいろんな意味で消えてなくなった.


「……うるさいわね.それは,私も同じで後悔してるわよ.」

鈴華は,顔を赤くしてこっちを見た.……鈴華もこのレベルだと照れるのか.可愛い.


「…やっぱり,鈴華の可愛さは,見た目や服装じゃなくて,中身だと思う.」

それは,口から勝手に漏れ出ていた.更に心拍数を上げるのは分かっていたが,気が付けば言葉にしていた.


「……す,雀君.さらに心拍上げにかかるとか馬鹿なのかしら.」

鈴華は,真っ赤になっていた.多分僕も真っ赤だと思う.

とりあえず,今すぐに鈴華の家に行くことが出来ないので,しばらくここで,心拍数を落ち着かせることで,同意した.

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