第94話 来訪者4

重い空気だった.主に,入ってきた二人のせいだが.この2人は,当たり前かも知れないが,凄まじく責任を感じていたらしい.まあ,2人が気が付けば,僕が攫われることは……まあ,遅かれ早かれだし,僕も全く悪くないわけではないし,まあ,でも,あの事件で友人と写真部の幽霊部員からヤバい人に格上げされた人の関係は対して変わらない.片方は元々強固だし,片方は元々そんな関係性があったわけではないし.

「……」


「……」


でも,二人は無言で正座で座っているので

「えっと,気まずいですけど.」

思わずそう言っていた.


「「すいませんでした.」」


二人は,声を揃えて頭を下げた.別に大丈夫でも良かったが,彼らが言って欲しい言葉は

「いや,まあ,良いけどさ.もう少し考えて欲しいですよね.」


「「仰る通りです.」」

二人の返答的に,どうやら言ってほしかった言葉を間違ったらしい.


「明日から行くから,安心してください」


「「流石です.」」

二人の回答はNPCみたいになっていた.何というか,まあ仕方ないのか.


「うるさいな.もう,帰れよ.怒ってないから.」

思わず,二人を見ていてそう声を張り上げてしまった.僕の隣に座っている鈴華は,その僕を見て小さく笑っていた.


「「すまなかった.」」


「気にしないでください.ああ,でも,今度一つ頼み事を聞いてもらいますよ.」

この二人が何処まで自責の念を消せたか知らないが,とりあえずクリスマスの件を手伝って貰って,それで完全に無しにして貰おう.


「「任せてください.」」


「帰れ.」

このいつもと違う二人と話すと気がおかしくなりそうだった.


「終わりで良いのね,じゃあ,帰ってついでに他の人にも帰るように言ってくれるかしら.」

鈴華は,僕の言葉を聞いて,そう言って無表情で手で追い払うような動作をしていた.


「「……学校で」」


そういう二人に

「うん.」

僕は,手を振った.まあいろいろあった.とりあえず,明日から学校に行こう.



来訪者は,鈴華以外が全員帰還した.鈴華は,僕の部屋で本を読むでもなく,勉強をするでもなく,僕の隣に座っていた.


数分経過して鈴華は,僕の目の前に移動した.

「……ねえ,雀君.少し良いかしら.」

鈴華は,僕の目を真っ直ぐ見て,無表情でそう言った.


「何ですか?」


「……えっと.雀君.」

鈴華は,そう言いかけて停止した.何かいつもと様子が違った.それからゆっくりと彼女は僕の目から視線を逸らした.


「どうかしましたか?」


鈴華は,何故か深呼吸をして

「雀君.」

謎に僕の名前を呼んだ.


「はい.」

思わず,反射的に返事をしてしまった.


「その……雀くん」

いつもは,あまり言葉につまらない.鈴華が言うのを躊躇っていた.まさか,別れ話……いや,それはない,それだったらもっとさっさと見切られてるだろうし.じゃあ,何?


「大丈夫ですか?鈴華」


鈴華は,深呼吸をして僕の目をじっと見て

「雀君……今週末,デ,デートをしましょう.おかしいわね,なんか私,暑いわ.」

そう,いつもとは異なる,震えまくりの声で顔を赤くして,そう言った.


「えっ.」

可愛い以外の思考が飛んだ.


「その,えっとね,計画はもっと前から考えてたの,そのカラオケに,ああ今言っちゃ駄目だわ,えっと,あああ,可笑しいわね,想定では,もっとあっさり言えはずだったのに,それに,デートぐらい何回もしてるわよね.可笑しいわね.その,えっと行くわよね?雀君.」

鈴華が早口で顔を赤くして言っていた.


「……もちろんです.」

断る選択肢などこの世界に無かった.


「そう,それなら良かったわ.」

鈴華は,逃げるように立ち上がり帰ろうとしていた.


「待って,……ねえ,鈴華.僕からも良い?」

言うなら今しかない.


「にゃんですか?」

鈴華は甘噛みをした.


「クリスマス,開けててくれない.」


「わ,私,クリスチャンじゃないわよ.君もそうでしょ.」

鈴華は,もうよく分からないことを言っていた.


「……そうですけど.良いですよね.」

まあ,キリストさんには,申し訳ないがクリスマスは口実でしかない.


「でも,良いわよ.楽しみにしておくは,私は手強いわよ.」

鈴華は,少し落ち着いたのか,無表情を装ってそう言っていた.今なら勝てる気がする.それに,クリスマス,僕はある意味で最後の戦いに臨むことにした.

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