第89話 多分勝てない
あれから,鈴華の目の前で泣きじゃくり,警察に泣きながら説明をして,親がやってきて,家に帰った.その頃には精神は落ち着いていた.
「何で?」
鈴華も家にやって来た.時刻はもう,すぐ夜の12時になるところだった.
「何でって何かしら」
鈴華は,無表情でジッと見てきた.……鈴華がいつもの5倍イケメンに見える.
「何で君もまだいるわけ?」
流石に明日学校あるし.
「……上書きよ.監禁された分の上書きよ.ずっといるわ.」
鈴華は笑ってそう言った.
「要りませんけど,その上書き」
本当に,本当に.
「必要よ.」
鈴華は,謎に決めポーズしていた.多分,僕を心配してくれているのだろう.ガチで震えて泣いていたときは優しく見守っていた.根は優しいのだ.ほうれん草は足りないけど.
「明日学校ですし.」
「黙ってください.雀君.」
「えええ」
少し理不尽な鈴華に少し驚きつつも,いつも通りの感じに安心した.
「私に別れるって言って大量に文章を送ってきた君に拒否権はないわ.」
鈴華は少し不機嫌にそう言っていた.嘘でも嫌だったらしい.……まあ,うん.
「あれは僕じゃないんですけど.」
「君のことは嫌いだ,僕は小学生は好きじゃないって言ってたわよね.」
そんな文章を送られていたのは初耳である.絶対にバレルだろ.委員長が無計画で今回の行動を取ったのだと再確認出来た.
「言ってはいませんよ.僕の文章じゃないですから.」
小学生は好きでは無いし,ロリコンでもない.僕はただ鈴華が好きなのだが,言ったら凄い負けた気とかするし,いろいろ言われそうなので,これは言わないでおくことにした.
「知ってるわ,君はロリコンですもんね.」
「違いますよ.」
だから,ロリコンではない.
「……そんなこと言っても良いのかしら.泣いて抱き着いてきた動画流すわよ.」
……どうやら,鈴華は動画を撮っていたらしい.なるほど,なるほどな.
「悪魔か,何かなの?はい,ロリコンです.てか?動画取ってたの?」
まあ,冗談かも知れないが,鈴華なら動画を撮っている可能性もあった.
「当り前よ.まあ,冗談はさておき,もうすぐ帰るわ.心配したのよ私.」
それは,知っている,この時間まで僕をジッと見ていることと,窓破壊でその気持ちは十分伝わっている.
「僕も泣きそうになりました.」
「泣いてたわよ.良かったわ,本当に,良かったわ.大好きよ.」
鈴華は,そう言って最大級の笑顔を浮かべた.
顔が赤くなった.なんと言うか,僕はたぶん,どう流れても鈴華さんに……その前に聞いておきたいことがあった.
「……ふう,聞いても良いですか?何で僕はそんなに好かれてるんですか?」
ずっと,不思議だった.初めの告白でここまで好感度があるとは思っていなかったのだ,それがずっと不思議だった.
「……恥ずかしいこと聞くわね.そうね,大事なのは実は2回目だったかもしれないわ.」
鈴華は珍しく顔を赤くしてそう笑っていた.そんな恥ずかしくなることは無かったと思う,よく分からないというか携帯電話を探すのを手伝ってもらった以外の記憶がない.
「2回目ですか?」
「ええ,そうよ,覚えてないわよね.ニワトリ君」
確かに僕の記憶力は鶏並みだった.覚えていれば良かったのかな.委員長の事もちゃんと……
「……僕はどうすれば良かったんですかね.委員長の事.」
思わず,そんな言葉が漏れた.
鈴華はそんな僕を見て
「知らないわよ.私も前に嫌がらせされてたらしいじゃない.まあ,彼女がどんな状況でも,私たちに嫌がらせしていい理由に監禁していい理由にはならないわよ.大丈夫よ.」
そう言うとゆっくりと僕の頭を撫でた.
「でも,僕が火に油を……」
僕の口は勝手に動いていた.後悔している.それがエゴでも,後悔するぐらいしか僕には出来なかった.
鈴華は,その僕の言いかけた言葉を止めた.物理的に僕の口を彼女の口で封じた.
呆然としている僕を彼女は見ながら
「黙って私を見ておけば良いわ.」
そう言って笑った.カッコよかった.
「……」
「顔赤いわよ.じゃあ,私は帰るわ.また,それと,明日は,学校休んで良いそうよ.」
そう鈴華は言い残して去っていった.
1人になった僕は
「……絶対に勝てないじゃん.」
そう呟くしか出来なかった.
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