第88話 監禁2
「聞いてくれる?雀.」
委員長さんは,笑顔でそう言っていた.少し前なら何とも思わなかった笑顔が今はただの恐怖の対象でしか無かった.本当に,怖い.
「はい.」
とりあえず,返事をすると,委員長はさらに笑顔になった.笑顔ならその手の包丁を何処かにやって欲しいが,まあ無理だろう.
「まずね.君の洗脳を解こうと思うのね.」
洗脳ね.今,脅しで従わせている人がいうセリフとしては可笑しいが,そこを追及するとヤバいのでそこには触れずに,
「えっと,どうやって.」
適当に返答をした.
「まずは,君の彼女を名乗っている.春野 鈴華を君から引き離すの.もう,これはしたよ.」
「……何をしたんですか?」
引き離す為にしたのが僕の誘拐監禁だけだったら良いが,
「とりあえず,まず君を開放するために,君の代わりに別れようって連絡を送っておいた.」
委員会は笑っていた.
何してるのこの人.絶対に何かを言われる.いや,……まあ,絶対に探しに来てくれるか.鈴華が何処まで把握しているか知らないけど,でも,まあどっちにしても探しに来ると思う.絶対に納得しないだろうし.
「……はぁ」
「偉いでしょ,私.これでもあの女が近づいてくるなら,ちゃんと消してあげるよ.」
委員長は笑顔で包丁を振り回していた.
「……」
さて,どうしようか.そもそもここは,彼女の家らしいが,何というか生活感が少ない.物が少ない.まるで一人暮らしのようだ.でも,家の大きさは一人ぐらしのそれではないし.
「後はね,君の周りにいるあの,あほそうな男と女も遠ざけないとだね.君に悪い影響があるから.」
多分,幼馴染と親友の事だろう.そんな事より,本当に彼女がこんな暴挙に出たのは.鈴華の煽りだけだろうか?普通,それだけで.おそらくムカつきはするが,こんな暴挙に出るのだろうか.いや,出ても可笑しくないか?
「……」
「他にはね,君の知り合いになった写真部の人とか,後は.」
委員長は話を続けていた.楽しそうに……
覚悟を決めて聞いてみるか.まあ,このまま稼げる時間にも限界がある.
「あの.いつから一人暮らしですか?」
可能性の話だ.勘だし,適当だし,当たれば奇跡だと思う.適当な勘だ.
「……そんなことどうでも良いでしょ.」
委員長の笑顔は消えて無表情になり,口調を荒げていた.どうやら,当たっている部分があったらしい.流石に可笑しいもんね,だって委員長はもっと回りくどいやり方をするはずなのだ.
「えっと,答えてくれませんか?」
包丁がこっちを向いていたが,もう聞くしかない.僕は覚悟を決めた.
「うるさい,うるさい.君は私の為に生きれば良いの.君は私のことだけ見ておけば良いの.」
包丁を持った彼女は,覚束ない足取りでこちらに近づいてきた.
「嫌です.なんか君にあったかは知りませんけど,僕を何かの代わりにするのはやめてくれませんか.精神安定剤に勝手にしないでください.」
もう,遅いので言うことにした.絶対に悪手だ,相手を刺激するのは,でも何も言わずに刺されるのも嫌だった.
「あああああああ,ダメだよ.洗脳されてるの君は,しょうがないようね,手荒な真似はしたく無かったけど.」
委員長は,そう言って僕の目の前に立った.僕は覚悟を……
「まあ,こうなるよね.……無理無理無理嫌だよ.痛いのとか,本当に無理.」
覚悟なんて決まる訳がない,死にたくない.可笑しい,なんだよ,全部あの二人が僕を無理やり連れだすからだよ.ふざけるなよ.僕はいつも通りの鈴華が遊びにくる日常だと思ってたのに.何だよ.嫌だ,嫌だ.無理無理.
その時,窓ガラスが割れた.いや,誰かが無理やり割った.住居侵入とかガラス代とかあるけど,まあ,それは僕も一緒に弁償しようと思う.ヒーローがやって来た.
「何私以外とイチャついてるのかしら?雀君.もう,通報したわよ.」
鈴華が割ったガラス窓から入ってきた.
いや,待って逆上して.そう一瞬思ったが,委員長は諦めたのか,理由は良く分からないが,包丁を落として,その場に脱力したまま座っていた.
僕はその状況に安心して.
「……鈴華しゃん.」
噛みながら思いっきり泣いてしまった.仕方ない,怖かったのだから.
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