第86話 困惑2 (雀視点)

「……」

記憶に無かった.委員長とバッタリ出会ったことは,今日以外に1回あった.ゴールデンウイークの家族旅行(幼馴染と雄介もいたが)で県外でたまたま会っただけだ.


「3回目です.」

なんか委員長の様子が可笑しい気がした.


「……えっと」

必死に記憶を思い出していた.ゴールデンウイークの印象が強すぎて忘れたのか?


「1回目は,はぁあ.もう良いや.」

委員長は様子が可笑しかった.


「えっと.僕は人が待ってるので」

とりあえず,逃げることにした.体よく逃げよう,なんか面倒ごとの雰囲気を感じた.いや,これは面倒ごとの感じというか.


委員長は,こちらを睨みつけて僕の動きを止めた.

「私,君に中学時代に修学旅行で助けられたんです.」

……その話は,さっき聞いた.でも,


「……えっ」

タイムリー過ぎるし.


「思い出してくれると思ってたんですけどね.」

思考が纏まる前に委員長は言葉を告げた.


「……すいません.」


「私は運命だと思ってたんだよ.高校でびっくりしたんです.」


「……それは,すいません.」

とりあえず,謝ってこの場から立ち去ろう.


「いや,良いです.それは許してあげます.」

委員長は目を見開きこっちを見ていた.


「はぁ.ありがとうございます。良く分かりましたね.」

一つ思い出した.僕はあの頃,見た目が違うのだ.


「……分かるでしょ.恩人だよ.携帯なくして財布も落とした私を助けてくれたんですから.」


確か,そんなのだった気がする.いや,まあ暇で事情が分かったら見捨てる方がどうかしてるだろう.

「…………いや,もしかしたらあの時も言ったかも知れないですけど.確か,えっと,目的地に向かう途中の通り道でしたし.暇だったついでなので.」


「それは,君の立場でしょ.私は違うから.」


「えっと.気にしないでください.」

今すぐ走るべきだと分かっている.僕が走れば良いさっきまではそう思っていた.でもそしたら別な所が被害が受けそうで怖い.


「うるさい,うるさいな.君が真面目な人が好きって分かったから,真面目な委員長してるのに,何なわけ?」

遅かったのか.諦めるのは早い.鈴華は,最悪幼馴染がいるから大丈夫.


「……その友人が待ってるので」


「うるさい.私と君は運命なんだよ.運命なの,分かる?分かるよね.」

あっ,無理だ.


「その」


「大丈夫だよ.私が君に相談あるって言ったら分かったって言ってたからね.ちゃんと,アポ取っておいたよ.」

そうか,委員長としての信頼感か.他のクラスまでもか.


「ああ,いや.その」


彼女は,カバンから危険物を取り出した.

「今日は用事ないでしょ.ねっ」

カッターだ.有無など言わせるつもりがないらしい.


「……委員長さん.えっと.」

刺激させないように.


「梨花ちゃんしょ.委員会じゃなくて.」

……これは,僕が悪い.いや,これは刺激することになるな.もう,キレてるならそのまま聞こう.


「手紙は」


「そう,正解.私のこと良くわかってるね.流石だよ.すごいよ,そう,君は騙されてるのあの女に.だから,頑張ったのにな私.君を私だけのものにするためにさぁ,あの女も使えないし.あの男は役立たずだしさ」

想像よりヤバいらしい.落ち着け,意味が分からない状況だが取り乱すな,焦ればよりまずいことになる.あの二人は,まともだったほうなのか.


「えっと,その」

言葉が出なかった.表情などを落ち着かせるのだけで精一杯だった.


「うるさいわ.まあ良いわ,行きましょう」

彼女は目立たないように,見えないように,刃物をこちらに向けた.


「……後悔しますよ.今衝動的に」

そうだ,今まで動かなかったのだから,説得すれば.


「うるさいわ.黙って」

無理らしい.仕方なくとりあえず従うことにした.


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