第80話 文化祭6

「今日は疲れたわね.雀君.」

文化祭の一日目は終わり,僕はメイド服から解放された.鈴華は無表情で小さく欠伸をしていた.人によっては,1日目の片付け作業があったが,売り上げに貢献したとかで僕らは免除されたらしい.


「ええ,これ明日もあるんですか?」

しかし,疲れた.本当に疲れた.何の修行だよ.


「そうね,あるわね.」

鈴華は適当にそう返答していた.


「サボりません?鈴華」

赤信号もみんなで渡れば怖くないらしいし……いや,怖い気がするけど.


「怒られるわよ.」

うん,怒られるだろうな.クラスメイトから,まあ行きたくないけど仕方ないよな.ああ,怠いな.


「二人だったら怖くないよ.鈴華」

でも,まあ文句を言う権利ぐらいあるだろう.


「怖いものは,怖いわよ.雀君.」

そりゃそうだ.


「……はぁ」


「幸せが逃げるわよ.でも,今日は楽しかったでしょ.雀君.」


楽しかったよ,凄い楽しかった.

「楽しいとめんどくさいは両立するんですよ.」

でも,面倒で疲れたのも事実だ.絶対に1日で良いよ.長いよ2日は疲れる.


「そうね,なんか.写真部の幽霊部員に睨まれてわよね,雀君.」

あの六角形のうちの変な人にめちゃくちゃ睨まれた.意味不明だ.


「本当にね,本当に,めんどくさいし無視しよう.」


「そうね,相手にしたら疲れるは,適当に流すのがいいわ.ああ,そう言えば,雀くん.明日は今日より楽よ.私は.」


「ああ,そうなんですか?」

文化祭の日程はよく知らなかった.2日あるってこと以外の情報はゼロである.


「何も話を聞いてないのね.雀君.アホね.」

鈴華は,無表情でそう笑っていた.まあ,アホか.うん確かに.


「……それで,明日は何で暇なんですか?」

アホという鈴華の毒は事実なのでとりあえず受け止めることにした.


「まず,明日は舞台やステージのイベントがあるわ,だから少し人手を減らしてシフトを回すから負担が減るのよ.」


ああ,じゃあ,明日は今日よりも仕事が少ないのか.なるほどね.確かに楽だ.

「じゃあ,楽ですね.」


「いや,雀君は違うわよ.」


無表情な鈴華からは何も読み取れない.

「うん?」


「雀君は,ミスコンに出るわよ.」


「うん?そう言うのって高校ではやらないのでは?」

思考が追い付いていない気がする.


「生徒会のごり押しらしいわ.」


「うわぁ,要らない実行力.で,ミスコン?ミスコン?」


「そうよ.ミスコンよ.そう言ったわよね.」


ミスコン?

「僕ですか?」

出るなら絶対に鈴華でしょ.


「そうよ.」


「そうよ,じゃなくて.鈴華じゃなくて?」


「そうよ,私は断ったわよ.それで君のを了承しておいたわ.」

鈴華は,少しの笑顔でそう言っていた.


「何で?」

これより良い返答は無いだろう.


「面白いの好きでしょ.雀.女装した雀君を見て面白そうじゃねってなったらしいわ.」


「面白いのは,まあ好きですけど.てか,どこから情報が.」

どこから,実行委員会の人は,僕の情報をゲットしたのだろう.


「雀君,壁に耳あり障子にメアリーって言うわよね.」

鈴華は無表情で小さく首を傾げそう言った.


うーん,なるほど.

「知らない外国人の人いませんでしたか?」


「違うわよ,植物の芽に,有る,無しの有で,芽有(メアリー)よ.」

鈴華は,何故か少し怒るような口調でそう言った,


いや,伸ばし棒は?とか色々あるけどさ,うん.

「日本人のなんですね.ってどうでも良いですけど.」


「どうでも良くないわよ.本名はまずいと思って,君の名前はミスコンで,春野 芽有で登録してるわ.」

……本当に報連相.


「何で?まず,ミスコンって言うのは」

いろいろ言いたいことがあった.


「うるさいわ,まあ,明日の協力者の手配は完璧だわ.」

鈴華は,笑ってそう言っていた.


「理不尽.」

どうやらいろいろ言えないらしい.


「私は,君を自慢できる事と,考えてたボケが決まって満足よ.だから良いでしょ.雀君.」

謎のどや顔と開き直りだった.これ,相手が鈴華じゃなかったら,キレてる.


「何処も良くないですけどね.本当に.」

まあ,鈴華だから仕方ないし.自分の選択だしね.ふっ.


「まあ,頑張って5位ぐらいを目指してね.雀君.」


絶妙に頑張ればギリギリ届く可能性の順位が目標になっている辺りのガチ感を感じた.

「……次からは,直前に言うのだけ辞めてくださいね.」


「出来たらするわ.」

完全に出来ないやつの返事だった.

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