第75話 文化祭1
準備は円滑に進んでしまって,文化祭の日になった.
僕らのクラスは,シフト制らしく,気を聞かせてくれたのか,鈴華とは同じ時間になっていた.文化祭は2日間あり,今日は1日目,そして僕は,メイド服を着せられて,猫耳をつけられて,それから,メイクまでされた.
クラスの喫茶店は開始したが僕と鈴華は裏で喋っていた.
「雀ちゃん.本当に可愛いわね.」
鈴華は,そう言って笑っていた.誰が言っているんだかって話である.
「……鈴華に言われたら嫌味にしか聞こえないですけど.」
「それは,私が可愛いって言いたのかしら?」
「……それは,まあ,そういうことです.」
鈴華は可愛かった.シンプルに猫耳が似合うのだ.なんか猫っぽいし.本当に,ありがとう.
「素直でよろしいわ.鈴華ポイントを2万ポイントあげるわ.」
初めて聞くポイントシステムだった.でも,多分200万ポイントで1円とかのコスパが悪いポイントだろう.
「何ですかそれ?」
「私のポイントよ.1那由他集めたら,雀君に何かあげるわ」
那由多,不可思議,無量大数……つまり想像以上に集めるのが大変なポイントらしい.馬鹿みたいな数値だ.
「一生あっても溜まらないでしょ.」
僕がそう言うと,鈴華は,こっちを見て小さく笑った.
「一生かけてためなさい.」
それから,そう言ってドヤ顔した.
「そのポイントって失効したりしないんですか?」
「私の気分で失効するわ.」
つまり,一生ポイントをため続けろと,新手のプロポーズみたいなことをされた.
このレベルのことをいきなり言われると逆に理解が追い付かないで,恥ずかしくなることを回避出来た.
「無理じゃん.」
「おかしいわ.」
鈴華は小さく首を傾げていた.
「あっ,ここにいた.二人とも,ちゃんと働いて,後ろで無駄話してないで.」
そんな中で,普通の制服を着たクラスメイトの女子がやってきた.彼女は,確か午前中の責任者的なポジションだ.
僕と鈴華は一度無言で見合って,数秒後,鈴華が口を開いた.
「……接客とかしたことないわ.」
クラスメイトは,数秒黙り込んでから,小さく笑った.
「うん,みんなそう.まあそれを言ってくれて私はありがたい.前だったら,無言でそこに座ってただけだもんね.変わったね,春野さん.天野くんの影響かな?」
あまり,喋ったことがなかったクラスメイトだが,まあ悪い人ではない気がする.
「……そんな事ないわ.」
鈴華の返答はいつもよりゆっくりで,何か声が上ずっている気がした.
なんか,鈴華が真っ赤になっていた.えっ?何処で?
「「………顔赤い」」
思わず,そうつぶやいた言葉が,クラスメイトと重なった.
「違う,これは,そう言うのは聞いてないから.ノーカンよ.」
鈴華は,早口でそう言っていた.何というか,こういうのはあれだけど,ありがとう,クラスメイト.本当にありがとう.
数10秒後,鈴華は元の無表情に戻っていた.それを見てクラスメイトは
「まあ,こんな表情をしろとは言わないけど.いつも通り無表情で良いけど.ちゃんと注文は聞いてきてね.春野さんは,それでえっと,天野君は,まあ適当に頑張って
ね.」
そう言って僕らに働くように促した.
しかし,
「僕だけ雑じゃないですか?」
「最近,うちのクラスで天野君は適当に扱っても良いって法律が施行されたんですよ.」
どうやら,男子だけじゃなかったらしい.なんて,ヒドイのダロウカ.
「酷いですね.」
まあ,流石に冗談って分かるので笑って返した.
「まあ,それは冗談として,普通にしてくれれば良いよ,それじゃあ,二人とも頑張って働いて」
そう言ってクラスメイトは,他の場所に歩いて行った.
仕方がないので僕たちは,重い腰を上げることにした.
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