第73話 聞いてない

気づけば、文化祭まで残り一週間になった。

今までは、のんびり準備だったが、準備の速度は加速していた。僕も加速していた。


僕の仕事は、基本的に雑用だった。今は、していない。ちなみに走っている、今、雑用どころじゃなかった。教室を離れて、人が少ないこの場所までくれば……


「天野さん、その、すいません。」

前とはもう全然別人になったやつが現れた。まあ、ずっと教室にはいるから、ずっと現れているが、成志、お前、良くそっち側の味方を。


「えっ、何?おい、何?反省したんじゃないの?成志。なんで、お前は、そっち側に、ふざけないでください。」

そう、叫びながら逃げようとしたが、羽交い絞めにされて、動けなくなった。運動部が、何にこの人。


「反省してるから、こういう事をしてるんです。すいません、クラスのためです。」


「何言ってるの?離せよ。力強いですね。本当に。」

いや、本当にふざけるな。やっとクラスメイトを全員撒いたと思ったのに……


「前は、二股とか言って、すいません。……もう、勝てないことも、それに自分の愚かさも学びました。」

成志さんは、羽交い締めしながら、丁寧に謝罪していた。そういうことじゃない。てか、謝るなら見逃してほしい。


「じゃあ、今すぐこの手を放せ」


「それは、出来ません。誰か、足の方を」

そう、成志さんが叫ぶと別の男子のクラスメイトがやってきた。


「良くやった。成志。足の方は俺が持つ。そのまま運ぶぞ。」

そう言うとやって来た男子は僕の足を持ちあげた。完全に捕らえられた。最悪だ。本当に最悪だ。


「ふざけるな、乱暴、横暴ですよ。」

とりあえず、そう叫んでみたが、無駄な事は明白だった。


「鈴華と付き合ってるお前には、少し乱暴に辛辣にあたっても良いって法律が男子の中であるんだよ。」

そう僕の足を持つクラスメイトが叫んだ。


「僕のその国家に属したことないので治外法権が」

そんな横暴が許されてたまるか。


「「うるさい。クラスの決定だから文句を言わない。」」

そんな声が重なって聞こえた。僕は、ゆっくりと教室に運ばれていた。もう、逃げられないかも知れないが、抵抗をやめるつもりは無かった。


「ふざけるな、認めない。何で僕も店員なんだよ。なんで僕も猫耳メイドなんだよ。」

文化祭の出し物で僕も店員で衣装が猫耳メイドらしかった。


「多数決ですから、天野さん。俺も周りを見てクラスに協力していくって決めたんです。」

成志のやろうが、そんなことを言っていた。まあ、確かに多数決で今日、少し前に決まった風だった。


「黙れよ。言いがかり、頭悪い野郎がよ。もういいよ、前みたいに、もっと、クラスの中心で騒げよ、お前が成志。」

とりあえず、ストレスを成志にぶつけた。


「「でも、多数決で決まったことなので」」

僕を運ぶ人々の声が重なっていた。


「いや、おかしいでしょ。あの多数決、そもそも、僕のサイズが最初から用意されてるのが、おかしい。鈴華のあの表情。絶対に一枚噛んでる。」

多数決は僕以外のクラスメイト全員が賛成していた。いや明らかにまず、それがおかしい。それに加えて、何故か、準備にそれなりに時間がかかる僕の衣装がもう出来ていた。それに加えて、鈴華がニヤニヤ笑っていた。僕を真っ赤にするって、こういうタイプの辱めも入るのかよ。絶対に趣旨と違うタイプじゃないのかよ……はぁあ。


「はいはい。あっ、委員長。」

僕の言葉は軽く流されたが、委員長という声が聞こえた。運ばれ方的に天井を見ている僕の視界には移らなかったが声が聞こえた。


「天野さん『それなりに与えられた仕事はするんでしたよね』」


その委員長の言葉に僕は、

「えっと……はい」

それ以外、言えるわけが無かった。実際に言ったし、それにこの前の事があって、なんか、すごい罪悪感から、何も言い返せる気がしなかった。

しかし、女装はまだ良い、ギリギリ許そう、まあ文化祭だし、仕方ない。1000歩譲って、仕方ない。鈴華と同じ衣装が問題だ。鈴華と同じ衣装で並ぶとか、恥ずかしい。最悪だ。

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