第72話 デジャブ?

平穏な日常で油断していた。

鈴華の衣装はまだ出来てないし、文化祭もまだだし、油断していた。

忘れ物をしては行けない。いや、しても良いが学校に教室に戻って来なければ良かった。でも携帯忘れたら取りに戻るでしょ。

鈴華に「私との運命のアイテム忘れるなんて最低よ。」って笑ってた帰り道が懐かしい。鈴華が待ってるから早く戻った方が良いしね。


「俺と付き合ってくれない?」

教室で知らない人が委員長に告白していた。

放課後の教室、夕日が差し込みまあ、それなりに絵になる光景だった。

いや、文化祭まで待てよ。まあ、青春がその風景からは溢れていた。

僕は、その光景に気が付き、思わず隠れていた。

デジャブ。


「……ごめんなさい。」

委員長は、断っていた。やばそうだし、忘れ物は諦めて、帰ろう。鈴華には、携帯は無理だったと説明しよう。僕の中から新聞の件でマスメディアはいなくなっていた。


「……ふう。」


「……本当に、ごめんなさい。」

まともそうな人で良かったね、委員長。まあ、帰るか。

その時、何かが鳴った。音的に多分携帯だろう。電話の着信音ぽかった。

空気はぶち壊れていた。


「「えっ?」」


「あっ、えっと携帯鳴ってますよ。」


「えっ、私じゃないですよ。」

二人の携帯じゃない。

僕の忘れ物は携帯……


僕の携帯かも知れない。鈴華が遅いと思って鳴らしてみたのかも知れない。

携帯の音は止まった。


「覗きって良い趣味してますね。」

心臓も止まった。本物のマスコミの写真部の宇都宮さんの小声が聞こえた。


「……いや」


「ああ、知ってますよ。鈴華ちゃんから、迷子になってるかもって言われて来たので。それに、ちょうど逃げたかったので。状況は理解しました。しょうがないから待ちましょう。」

迷子……鈴華はまあ多分待ってて暇だったのだろう。まあ、道傍で本は読めないしな。しかし


「……マスゴミ」


「大丈夫です心に秘めておくので」

そう言う問題では無いと思うが、まあそう言われると動けなくなるのも確かだ。僕もマスゴミだった。


「その、梨花さん。ちょっと変な感じになったけど。理由を教えてくれませんか?」


「理由…ですか?」

委員長は普段より丁寧な口調だった。


「その、俺は可能性はゼロ何ですか?」


「……そう言う事ですか。ごめんなさい。私好きな人がいるんです。」

まあ、実際は嘘でも何でも断るならそう言うもんな。いきなり彼氏にしてくる人はレアな気がする。普通、好きな人いるとか言うよな。まあ、鈴華のは結果オーライだけど。


「……そうですか。本当に…無理ですか?」

粘っていた。


「ずっと前から好きで、あっちは知らないと思いますけど。私は諦めないので」

委員長はそうハッキリと言った。凄いな嘘でも本当でも。強い意志を感じた。


「そうですか……はい。」

委員長に告白していた相手はトボトボと歩き出してこちらに教室の外に向かって来たので、とりあえず、通行人のフリをした。


しばらくして、さりげなく教室に入ろうとした時に

「……聞き耳はどうかと思うよ。今回は2人ですか?天野さん。」

教室からそんな声が聞こえた。バレとるがな。


「……すいません。携帯を忘れて」


「ああ、それが鳴ったんですね。」


「はい。……すいません。」


委員長は、僕が写真部の宇都宮さんと一緒にいるところを見て首を傾げた。

「えっと、新聞の件は」


「ああ、まあ被害なかったのでって事に。それは、そうと本当にすいませんでした。」

とりあえず、謝罪だ。


「えっ、あっ。まあ仕方ないから良いよ。なんかちょっと恥ずかしいね。」

委員長がそう言って愛想笑いを浮かべるとこの場の空気が終わった。


「「ははは」」

とりあえず、そう愛想笑いをするのが限界だった。さっさと鈴華のところに戻ろう。

この場にいることは無理だった。それと、マスコミは辞めよう。


「では、えっと、そのさようなら。」


「さようなら」

そう言って深く頭を下げて昇降口に向かった。


昇降口は写真部の前を通るので,途中まで宇都宮さんと歩いていたが、写真部の近くで


「……では、天野さん。今、写真に枢木くんいるけど。地獄だけどよる?」

宇都宮さんは笑いながら言っていた。

なるほど、だから、鈴華に言われてわざわざやって来たのか。確かに、丁度よい部室を出る口実だ。


「遠慮しておきます。早く戻らないと、鈴華に怒られますしね。」

そう言うと


「怒らないわよ。」

無表情の鈴華がいきなり現れた。

明らかに死角にいたので、多分、驚かせるつもりだったのかもしれない。多分、無表情で、そういう事する気がする。でも、自分の話題が出てきて、驚かすのは辞めたのだろう。


「あっ」


「最初から一緒に戻って来れば良かったわね。雀くん、暇だったわ。」

鈴華はそう言うと僕の手を掴む引っ張った。


「まあ、確かに。今度は、そうしましょ。では、帰りましょうか。」

そもそも、携帯を忘れなければ良い話なのだが。まあ、それは、多分、無理なので諦める事にした。

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