第71話 読書でもしていてください1

「ねえ、雀君。ねえ」

油断していた。鈴華は、この時間帯に話しかけて来ることはないから完全にボーっとしていた。結局、呼び方は君付に戻すらしい。まあ、僕は、呼び捨てで良いか。


「……今日は、やけに話しかけて来ますね。」


「いつもこんな者よ。何を言っているのかしら」

鈴華は、無表情でわざとらしく首を傾げていた。


「いや、いつも、この少し長い休み時間は、読書してますよね。」

いつもこの時間は、鈴華が本を読んでいるから、大体、僕は、ボーっとしているか。本を読んでいる鈴華を眺めているかしている。


「今日は、雀君と話す気分だったのよ。」

鈴華は、無表情だった。


「はぁ。それで、何でしょうか?」


「じゃあ、まずは、報告をするわ。」

報告か。まあ報連相があるだけで良いのか?


「報告ですか?」


「ええ、枢木さんが私たちにめちゃくちゃキレてるらしいわ。」


枢木さんて六角関係の仲の一人で、宇都宮さんのゆかいな仲間たちの一員でしょ。えっ、家に押しかけて来た時は普通だったし、ええ?

「何で?」


「分からないわ。私たちが余計なことを吹き込んだせいで、宇都宮さんが、おかしくなったって言ってるらしいわ。」


えっ

「いや、元々あの人は、可笑しいですし。幼馴染の関係が終わったのは、僕らに責任があるとしても、せいぜい、1割ぐらいですよ。」

おかしい人がおかしくなったら、それはもうまともな人になったのでは?


「そうね。これが、1個目よ。2個目は、私たちの文化祭の衣装決まったわよ。猫耳メイドよ。」


猫耳メイド……てか

「いつの間に決まったんですか?」


「知らないわ。そういう連絡が来たのよ。決定しましたって。」


事後報告。

「あれ?このクラスって民主主義じゃなかったですっけ?」


「違ったらしいわ。でも良かったわね。猫好きでしょ。雀君」


猫は好きだけど……。

「……そうですけど。」


「これは、幼馴染情報ですよ。これは、聞いたわ。それじゃあ、本題に入るわよ」


ああ、この前の幼馴染と雄介読んだ時の話が完全に漏れてるじゃん。

「まだ、なんかあるんですか?」


「今までは、言ってしまえば業務連絡よ。」


「それで、何ですか?本題って」


「愛してるゲームをしましょう。雀君」

鈴華は、無表情で、少し大きな声でそう言った。一瞬教室がざわついた。

ああ、今絶対にわざと大きな声でいったなって、確信出来た。


「嫌です。絶対にしないですよ。鈴華」


「分かったわ、私からね。」

鈴華は、そう言うとニヤリと小さく笑った。


「何も分かってないですよね。」


「愛してるわよ。雀君」

鈴華は、僕の目をジッと見て、それから、それなりの声量でそう言った。


普通に恥ずかしかった。真正面からそう言われるのも、大きな声で言うせいでクラスメイトから見られるのも、どちらも恥ずかしい。

「………良く言えますね。」


「事実だからよ。それに、これぐらいは、もう余裕だわ。」

鈴華さんは、無表情だった。


僕が恥ずかしくなっているので、もう、完全に今朝の宣言を実行されそうだった。

「何が余裕何ですか?」


「こっちの話よ。それで、雀君の番よ。」


あっ、そっか言うのもあるのか。この貴族の遊びみたいなゲーム。

「あっ、ちょっと用事を」

僕に用事などなかった。


「仕方ないわね。ずっと、こっちのターンってことにしましょう。」

鈴華は、こっちを見て笑いながら、そう言った。

うん?永遠に、言われ続けるの。それも死ぬほど恥ずかしくね。


「いや、それもダメですからね。もう、本でも読んでてください。鈴華」


「それは、私と話すのが楽しくないのかしら?」

鈴華は、笑いながらそう言っていた。


「いや……本を読んでる鈴華がその、好き……なので」

まあ、これが僕なりの愛してるゲームの回答という事にしておこう。


「そう、それなら仕方ないわね。この方法はやめておくわ。雀君」

鈴華は、そう言うと本を読み始めた。でも休み時間はもう終わりそうだった。


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