文化祭

第70話 仕返し1

「おはよう。雀。」

鈴華は、そう言って目を擦っていた。眠そう。夜更かし?珍しい気がする。読書?でも、早朝早く起きて読むタイプな気もする。


「……眠そうですけど、大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。ちょっと考え事してただけだから。」


読書じゃないのか。

「そうですか。なら良いですけど。おんぶして運びましょうか?」


「嫌よ。おんぶは嫌よ。」

鈴華は、抑揚のない声で、でも表情はいつもより少し柔らかかった。


どっちだ?

「えっ、ああ、ごめんなさい。」


「……おんぶは恥ずかしいわ。」


本当にどっちだ?機嫌が悪いのか良いのか分からない。

「……えっ、罠ですか?」


「……違うわよ。やっぱり無理ね。」


無理?

「何の話ですか?」


「こっちの話よ。ゆっくり頑張るしかないわね。」


全く何のことか分からなかったが、聞いても答えてくれそうに無かったので、

「……まあ学校行きましょう。」

とりあえず話を変えた。


「そうね。雀」


話題。何か話題をだそう。

「はい、行きましょう。今日は、鈴華の好きな体育があるね。」

とりあえず、冗談でも言ってみることにした。


「……嫌いよ。本当に」

鈴華は、無表情で、少し不機嫌そうに言った。

あっ、なんかやらかしたな、僕。でも何をだ?


「……知ってますよ」


「違うわ、分かってないわ。雀は」

ええ、そんなに体育が嫌だったのか。そうか、そうなのか。じゃあ、体育祭の二人三脚は、頑張ってくれたのは、凄い頑張ったのか。凄い。

語彙力が飛んでいた。


「ごめん。」


鈴華は、ジッとこっちを見て、ため息をついた。

「本当に、可笑しいわよ。雀は」


いや。

「おかしいのはお互い様だと思いますけど。」

僕も可笑しいと思う。いや、鈴華との今の関係を構築する。この現状は大体全部おかしいと思う。それに両方おかしいから、この関係は生まれたと思う。


「……今、そんな正論は要らないわ。」

鈴華は冷たくそう言った。ええ、もしかして、不機嫌?

でも、表情は、どっちかと言うと期限が良い時の少しニヤリと笑っているときの感じだし。分からない。


「……今日は、謎ですね。鈴華、機嫌が悪いんですか?機嫌が良いんですか?」


「……雀くん、モテないわね。」

鈴華は無表情だった。


なるほど、うん。つまり、何かを察する必要があると。そういうのは、得意じゃない。だから、察することは諦めて、思ったことを言おう。うん。それがいい

「まあ、モテる必要は今は特にないですけどね。」


「それも、そうね。雀は、私だけ見ておきなさい。」

鈴華は、そう言ってドヤ顔していた。

心臓が多分一瞬、止まった。激重発言だったが、まあ、言葉に従うことにしよう。


「朝から、何馬鹿みたいにイチャついてるんですか?こっちは、死ぬほど大変なのに、枢木さんが、凄い暴走してるし。」

不穏な事を言いながら、写真部のエース?宇都宮さんがいきなり現れた。まあ、あれは、同好会だけど。最近、てか今年出来たらしいし。


「「あっ、六角形犯罪者」」

声が揃った。


「……確かに、そうかもだけど、凄まじい暴言ってことを忘れないでくださいね。てか、二人って名前呼び捨てで呼び合ってましたっけ?」

ニヤニヤしていた。いつから、この人は、話を聞いてたのだろうか。マジで、週刊誌に向いている人材だと思う。


うん?呼び捨て……

「あっ…」

鈴華が、謎の感じだったのは、僕が呼び捨てに無反応だったからだ。いや、多分、自分が照れたのに、何もこっちが反応しないからか。


「あっ…」

鈴華は、僕が気が付いたことに気が付いたのか、一瞬こっちを見て、それから、走りだした。顔は、もしかしたら赤くなったかも知れないが、一瞬で見えなかった。


「えっ、コケますよ。」

僕は、そう言いながら、とりあえず追いかけることにした。


「うるさいわ。雀。絶対に、今週中に雀を真っ赤に染め上げるわ。」

鈴華は、今までの中で1番感情的にそう言った。


「……いや、ちょっと待って」

まずいことは、理解した。


「死ね。あほカップル」

そんなマズゴミさんの声が聞こえたが、偽物の新聞を作られるよりましなので、余裕で許しまくり、スルーしつつ、いつもの3倍は速く走っていそうな鈴華を追いかけた。

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