第68話  登校とサプライズ

「おはよう、雀くん」

喉が痛い。少し、喉が痛い。疲れた。カラオケの次の日の月曜日、ドアを開けるとご機嫌の鈴華さんがいた。


「……おはようございます。」

僕は、少し気合を入れて声を出した。


「雀くん、プレゼント要りますか?」

鈴華さんは、無表情でそう言った。プレゼント?


「……何ですか?」


「のど飴です。」

普通に嬉しいプレゼントだった。のど飴は、確かに少し嬉しいでもさ、


「ありがとうございます。でも、その優しさがあるなら、少しは昨日歌っても」

そもそも、昨日、あんなに歌わなければ、喉が痛くなる事も無かったのでは?いや、そうでしょ。


「それと、これは、別よ。あと、はちみつレモンも用意したわ。」

鈴華さんは、明らかに、手作りっぽい水筒を見せてきた。ええ、もうさ、そんなこと言われたら……


「うわぁ、喉に優しそう。」

うん、これは、僕のダメなところかも知れない。いや、本当に甘いな僕。


「でしょ。流石だわ、私。」

鈴華さんは、ドヤ顔をしていた。とりあえず、のど飴を舐めた。後ではちみつレモンは飲もう。


「……そうですね。」

飴を舐めながら、そう笑っておいた。


「次は、いつ、カラオケ行きますか?雀君」

鈴華さんは、首を傾げていた。


「えっと、楽しいんですか?本当に。」

僕も、首を傾げた。


「ええ、楽しいわよ。」

鈴華さんは、キョトンとしていた。


「全然分からない。聞いてるだけが楽しいんですか?鈴華さん」


「ええ、楽しいわよ。うーん、それなら、今度、買い物に付き合ってくれる。雀くん。」


買い物?

「ああ、本屋ですね。」


「……それだけじゃないわ。なんか失礼ね。じゃあ、服を買ったりするのに付き合って貰うわ。」


服を買う……2年前ぐらいに、真紀と、実質、妹の幼馴染の妹に買い物に連れていかれたときに、滅茶苦茶怒られたことを思い出した。

「……それは、ちょっと却下で」


「何でよ。雀君。」


「いや、絶対に、僕、どっちが良いって聞かれても『別にどっちでも』っていう気がします。」

昔は、それで怒られた。絶対に、今回も同じことを僕は言う、言ってしまう。そういうものだ。


「……君は、そう言うわね。そしたら、君に両方買って貰うから問題ないわ。」


出費が、終わりを迎えるだろう。

「なおさら、行きたくないですけど。」


「駄目よ、行くわよ。雀君。」

決定事項らしい。


「……再来週まで待ってください。」


「何で。」


「テストの順位で親に小遣いを請求するので」

資金を用意しよう。言わない努力をするよりも現実的だ。


「そう言う制度なんですね。」


「まあ、うちの学校バイト禁止ですからね。」

お金は、すねをかじるしか無い。


「そう、私の家も」

パッとよそ見をした、鈴華さんは、足元を疎かにして、前に倒れそうになっていた。その時、意外にも僕の身体が動いた。


「危ない、鈴華」

反射で叫びながら、こけそうになったの鈴華さんの手を掴み、引っ張り上げた。

ああ、びっくりした。


パッと鈴華さんを見ると、真っ赤な鈴華さんがいた。

「えっ」

何が起きているか全く理解できなかった。いつも、無表情のクールな鈴華さんが真っ赤になっていた。だって、笑う時も、凄い表情変化してないし、こんなに表情が変化しているのはレアだった。てか、可愛い。


「あっいやこれは、違うの雀君。その不意打ちはダメって。君がいきなり呼び捨てしてくるのを想定なかったから……忘れることね。」

鈴華さんは、饒舌にそういろいろ言ってから、真っ赤な顔でこっちを睨みつけた。


「……いや、無理ですよ。えっ、可愛い鈴華」


「……雀君。」

鈴華さんは、真っ赤な顔で、頬を膨らませて、僕の足を軽く踏むと、プイと効果音が付きそうな感じにそっぽを向いた。


「まあ、これで、僕にも勝てる可能性が出てきました。」


「何の勝負よ。もう、私先に行くわ」

鈴華さんは、そう言って、少しふくれながら、僕の前を歩き始めた。僕は、その後ろを上機嫌について登校した。

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