第62話  登校3

結局、何も思いつかなかった。どうしようか、本当に。

そんなことで少し寝不足な朝だった。眠い。そんな中で、鈴華さんと登校していた。


「雀くん。明日土曜日よね。」

鈴華さんは、登校中に唐突に立ち止まりそう言った。


「そうですね。」

そりゃそう。眠い。思考がまとまらなかった。何の話だ。全く分からない。


「休みよね。」

鈴華さんは、当たり前の発言をしていた。謎の発言だ。


「そうですね。」

本当に眠い。ふう、起きないといけない。多分、何か理由があるのだ。鈴華さんだし、何か理由があるはず。


「明日は、土曜日。だから、雀君。言う事あるわよね。」

鈴華さんは、無表情でジッとこっちを見た。休みの日、学校がない。鈴華さんと会えない。あっ。


「……どっか行きますか?」

多分、こう言うことだろう。


「そうね。デートに行きましょう。」

鈴華さんは、無表情でそう言った。正解だった。デートか……。


「……本屋とかですか?」

僕の持っている武器は、いろいろ考えたが結局それだけだった。


「雀君の武器、それしかないのかしら。」

鈴華さんは、小さく笑っていた。


「……行きたいところありますか?」


鈴華さんは、無表情で数秒考えこむ仕草をしてから

「雀くんが考えなさいよ。」

そう言って、わざとらしくこっちを睨みつけた。


「いや、待ってください。僕も考えたんですよ。それを分かって欲しいです。鈴華さん」


「そう、でも何で?君がデートの先を考えるタイプじゃないことぐらい分かってるわ。」

鈴華さんは、小さく笑いクビを傾げていた。


「えっ、ああ、いやその。まあ、考えたんですよ。」

動揺してしまった。てか……いや、まさかな。


「そう。それで、何で丸投げになるのかしら。雀くん。」


仕方ないのだ、いくら考えても妙案が思いつかないのだから。

「いや、まず、動物園が思いついたんですよ。でも、鈴華さんは『獣臭いのは嫌いだわ、動画で十分よ』って言いそうだなって」

そういうイメージが容易に想像出来た。多分、動物は好きだけど、映像で十分って言うタイプだと思う。まあ、僕は、どっちかというとそうなので、動物園にはあまり行きたくない。


「流石だわ。動画で十分可愛いは得ることが出来るわ。」

正解だった。少しうれしい。


「それで、水族館を考えたんですよ。でも『魚はそんなに好きじゃないわ』か『魚は食べるものよ』って言いそう。」


「そうね、正解だわ。でもペンギンは好きよ。覚えておくと良いわ。雀くん」

鈴華さんは、無表情でそう言っていた。今度、ペンギンの何かを買ってあげれば喜ぶだろうか?見つけたら買っておこう。


「覚えておきますよ。」


「他には?無いわけ、雀くん。」

鈴華さんは、小さく首を傾げた。


「他にも、遊園地があったけど。遊園地は、まあ遠いから嫌だなって僕が思ったので」


「そうね。遠いわね。こんな唐突のお出かけには向いてないわ。」

遊園地は、もう少し綿密に計画を立てていく距離だ。金曜日に決めて土曜日に行ける距離ではない。そんな元気は僕にはないし、多分、鈴華さんにもない。


「うーん……」

もう、完全に何も思いつかなかった。


「私が考えるわ。雀くんって趣味とかない。」


趣味?

「無いですかね。まあ、読書もゲームもそれなりにしますし。ああ、運動はしませんよ。」


「うーん、そうね。私の家で、遊びますか?雀君。」

妹、父親……うっ、頭が。それに、この前はいなかった厄介な姉がいるし、うん。


「それは、嫌です。」

断固拒否したかった。


「何で?」

鈴華さんは、不思議そうに首を傾げていた。


「それは、嫌です。嫌なものは嫌なんです。」


「そう、じゃあ、雀くん家にする?」

うん、そっちの方がいいな。


「また、人生ゲームしますか?」


「そうね。今回は、写真部の二人も呼びましょう。いえ呼ぶわ。」


「ええ……あの二人ですか?」


「良いじゃない。大人数の方が人生ゲームは楽しいわ雀くん。」


「そうかもですけど。」

面倒な人達だし。


「それに、写真部と文化祭は協力してすることにしたから、その話し合いもするわよ。雀くん」

鈴華さんは、サラッとそう言った。文化祭か。


「ああ、図書委員の出し物か何かの話ですか?初耳なんですけど。」


「今、初めて言ったわ。」

鈴華さんは、上機嫌に笑っていた。写真部と協力するのか。確かにどっちも人少ないからな。


「それで、鈴華さん。ホウレンソウは?」


「ホウレンソウは野菜だわ。それと、私にサプライズなんて無駄よ。私は、それぐらいで照れたりしないわ。他の方法を考える事ね雀くん。」

鈴華さんは、そう言って再び歩き始めた。……1ミリも勝てる気がしない、どうしよう。てか、情報漏洩してるし。


「……素直に、サプライズを受けてほしいんですけど。」


「嫌よ。私は、雀くんが動揺している姿を優位な立場から見ていたいのよ。」

鈴華さんは、ここ最近で一番の笑顔でそう言った。


「性格悪。」

まあ、そういうところが鈴華さんだった。僕は無言で、鈴華さんの後を追った。



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