第59話  告白 後編

あれから多分、1分は経過した。

なぜ、1分経過したかは、シンプルに、恥ずかしくて言えなかったからである。

恥ずかしい。いや、分かっているのだ。鈴華さんとは、付き合っているのだ。つまり、フラれる事は無い。だから大丈夫なのだ。それは知っている。でも、何か怖いのである。


「雀くん」

鈴華さんは、ムスッとした表情でこっちを見た。


「分かってます。ふう。言います。」


「……」

鈴華さんは、無言で無表情で僕の目をジッと見ていた。やめて欲しい、恥ずかしいからそんなに目をガン見しないでほしい。ああ、熱い。今日は猛暑日か?ふう。そうだ、言わなければ伝わらないこともある。だから、僕は言うのだ。


「えっと、その。鈴華さん」


「はい」

鈴華さんは、小さく笑った。少し夕日が落ちてきた学校の廊下はいつもの者とは思えなかった。心臓がなりまくった。本当に、普段の態度のせいか、すぐに言い出せないこと、そのものが恥ずかしくなってきた。


「鈴華さん。その」


「……雀君。ビビり」

鈴華さんは、無表情でそう言っていた。


「言います。言いますから。行きますよ。ふう」

そうだ、ただ思っていることを言うだけだ。それだけだ。僕に出来ないはずがない。

ただ、鈴華さんに、可愛いとか、学校生活が楽しくなったとか、そんなことを言え良い。それだけだ。言えない訳がない。


「チキン。雀じゃなくて、鶏だわ」

鈴華さんは、そう言ってジッと睨んでいた。上手いこと言われてしまったが、反論は全くできる気がしなかった。


「す、鈴華さん、あ……りがとうございます。」

死にたい。恥ずかしい、言おうとした言葉も、それをギリギリでやめて修正した自分自身も恥ずかしい。


「そう、私は、あ・い・し・て・るわ」

鈴華さんは、当てつけのようにわざとらしくそう言って、こっちを見て小さく笑った。


「……」


「……まあ、今回はそれで許してあげるわ。雀くん。次はもっと頑張りなさいよ。」

鈴華さんは、そう言うと堂々と学校の中で携帯電話を取り出して、僕の恐らく真っ赤になっている顔の写真を撮った。それから、ニヤリと笑うとしばらく携帯を操作してから、携帯のホーム画面を見せてきた。


「…やめて」

悪魔かと思った。画面には真っ赤になった僕がいた。


「そうね、気が向いたら変えるわ。それと…雀くん、少し立ち寄る所が出来たわ。」

鈴華さんは、そう言って少しご機嫌に笑っていた。


「何処ですか?」


「写真部よ。」

鈴華さんは、そう言って小さく笑った。戻るの?何で?絶対に嫌だよ。


「えっ。何でですか?」


「後ろを見れば分かるわ。」

振り返るとカメラを持っている。写真部が二名いた。あの二人は、何を考えてるのだろうか。いつからいたのだろうか?そして、あの後、どうなったのだろうか。いや、早くね、動き。


「どうなったんですか?」


「「友達から始めることにしました。」」

元々友達じゃんとか、そんなことを言うほど野暮では無かった。まあ、それどころじゃないんだけどね。


「なるほど、それで、どうしてカメラを」


「「とりあえず、写真を撮りに行こうと」」

なるほど、写真部だもんね。なんか黙ってジッとしてるのも気まずかったのかな?


「それで、写真は撮れましたか?」


「「写真は撮れてません。」」

よし、僕の写真は撮られてないと。よし、セーフ。


「それなら良かったです。行きましょう、鈴華さん」


「待って、雀くん。写真『は』ですよね。つまり、」

名探偵かよ。何で今発揮するかなぁ鈴華さん。本当に。


「「動画を撮ってました」」


「……嘘でしょ。」

写真の5倍はヤバいでしょ。悪魔かよ。職権、部活権乱用だ。ああ、それは、鈴華さんもしてるから、そんな強く言えない。


「では、動画を貰いに戻るわよ。写真部で受け渡しで良いわよね。雀くん。『雀くんの告白失敗動画』を貰いにいくわよ。」


それは、まあ絶対に避けたい。避けなければならないので、覚悟を決めた。まあ、いきなりじゃ無ければ僕にも出来るって信じてるから、ふう。

「良くないです。……分かりましたこうしましょう。僕がテストで勝ったら、告白をしっかりします。僕がテストで負ければ、鈴華さんが決めてください。だから、本当に動画は貰わないでください。それとそこの二人は、動画を消してくださいね。」

テストの後に、告白の続きをすることにしよう。時間を稼ぐ事と動画を消すための一石二鳥だ。


鈴華さんは、こっちをジッと見て、上機嫌に笑っていた。楽しそうで何よりだよ。

「ふっ、仕方ないわね。雀くん。二人は、そうしてくれる。」


「「分かりました、鈴華さん。動画消しておきますね」」

二人は、そう言うと動画を消して、それを僕に確認を求めた。


「はぁあ、テスト勉強頑張るか。」

とりあえず、テストを頑張るために、その場から走り去り図書室に向かった。テストは一瞬で終わる気がした。


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