第58話 告白 前編
「……そんな訳ないでしょ。確かに喧嘩はしてたけど。」
事情を説明したのちに、写真部で、そう言ったのは、六角形の一人の宇都宮さんだった。
犯人候補のえっと……犯人候補の女子生徒の人は黙っていた。
「……あなたには聞いてないわ。それでどうなの?」
鈴華さんは、そう言って無表情で問い詰めていた。まあ、この表情だけ見るとめっちゃくちゃ怒っているように見えるが、多分純粋に、聞きたい相手が違うのになぐらいしか、この人は思っていないのだろう。
それでも、そんな意図がまだ接点が少ない二人には分かるわけもなく空気がピリつくのは必然だった。しばらくの無言の後で
犯人候補の女子生徒が口を開いた。
「その…」
彼女の言葉を全て聞く前には、それが謝罪であるということは分かった。言葉の出し方はもちろんだが、泣いていたのだ。それが告白だと言うことは誰にでも分かった。
だから、
「……私が、私がしました。私が全部したから。」
宇都宮さんのその叫びが意味なんて無いのは間違い無かった。
「何で庇うわけ?宇都宮さんは?意味が分からないわ。」
鈴華さんは、そう言ってゆっくりとこっちを見た。まあ、とりあえず犯人が分かった。
「庇っている訳では無くて私がしたんですよ。鈴華さんと雀君。ほら、えっと……その…てめえらが、無駄にイチャイチャしていたのにムカついて。」
宇都宮さんは、言葉を詰まらせながら、こちらをワザと挑発した。
「そんな煽りにはのりませんよ。僕も庇う意味は知りたいです。」
まあ、いろいろムカついたりすることもあるが、それは、もう終わって取り戻せないので置いておいて、それに多分大した被害も出てないし。
「……だから、蓮ちゃんはそんなことする人じゃないんです。そんな子じゃ。」
宇都宮さんは、そう言って下を向いていた友情か……
「黙ってて、空ちゃん、私がしました。お二人には迷惑をかけてしまって……お二人のことは巻き込むつもりは無かったんです。ただ」
犯人だった女生徒がそう言って声を上げた。それは、もうほとんど叫び声であった。
友情か…
「「つまり、標的は、宇都宮さん」」
ただ、巻き込まれただけ。友情か……
「そうです。お二人を巻き込んでるって分かって、怖くなって。それを言うのも怖くて。」
まあ、被害がとりあえず出てないので問題ないと僕は思っているが。
「鈴華さんは、どうしますか?」
「そうね。私は、問題ないわよ。でも一つ気になるは、二人は友人じゃないわけ?」
オブラートという概念が辞書から抜け落ちている、鈴華さんは、無表情でそう尋ねていた。まあ、確かに喧嘩にしてはやりすぎでしょ。
「……それは。」
犯人の少女は俯き、言葉を詰まらせていた。
「ただ、友人だと思っていたのが私だけだったことですよ。」
空気が地獄になった。この場にいる写真部二人は泣いており、鈴華さんは、その状況に無表情ながらも、うろたえていた。どちらも、何も言えずに二人は黙っていた。
『言葉にしなくても伝わる事があっても、言葉にしないと伝わらない事もあるのかな?』
「……理由は何なんですか?言葉にしないと伝わらないし、このまま終わりますよ。良いんですか?二人は?」
まあ、ブーメランだが、そこは後で考えよう。
「「良くないです。」」
写真部の声が重なっていた。
それから、犯人の浦崎 蓮の告白が始まった。
「私の逆恨みです。」
「逆恨み……」
言葉を繰り返すだけの宇都宮さんには心当たりはなさそうだった。
「ええ、この前、ちょうど体育祭の後で、空ちゃんが告白したって聞いて」
その話は、僕らに微妙に関係がある。
「もしかして……ごめん気が付かなくて。でも、私、フラれたよ。」
宇都宮さんは、そう小さく笑っていた。その表情は何を意味してるのか。僕程度には理解が出来ないと思う。
「違う。全然分かってない。」
「えっ……」
「はぁ、もう今更か。私が好きなのは、空ちゃんなの」
それは、犯人の浦崎 蓮の告白だった。
愛と憎悪は裏返しか。
「雀君。行きましょう。そうね。新聞の件は私たちは許すわ。でしょ。」
鈴華さんは、そう言っていた。何故か下を向いていた。
「ええ、まあ。2度としないで下さいね。後は2人で勝手にして下さい。」
まあ、うん、怒る気力は無かった。それに被害は出て無いし。
「えっ」
停止している宇都宮さんを置いて、僕らは図書室に向かう事にした。
そのはずが、途中で鈴華さんに手を引かれた。
そのせいで途中の廊下で立ち止まってしまった。振り向くと上目遣いで口を膨らませた鈴華さんが立っていた。
「言葉にして」
そうこっちを睨みつけてそう言った。
僕にも告白の時がやって来た。
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