第56話 多分何か吹き込まれた1

ここ3日、鈴華さんの様子がおかしい。女子会の後の変化だから。絶対に100パーセント、幼馴染に何かを吹き込まれている。

放課後、図書室に行く前の事だ。


「雀。何、ボーっとしてるの?ふふふ。」

鈴華さんは、そう言いながらニコニコ笑顔で僕の目の前にやって来た。いや、可笑しい。そもそも、僕の席にやってくる前に笑顔の練習してるし。何かゆるふわあたりの雰囲気を目指してるっぽい。


「いい加減何が目的か。教えてくれませんか?鈴華さん」

いや、何かゆるふわを目指して奮闘してる感じは面白かったから、飽きるまで放置でも良いかなって思ってたけど。どうやら、僕は普段の方が好きらしい。


「目的なんて無いわよ。あっ……雀とお話したいだけよ。ふふふ」

ふふふって言ってれば良いって思ってそう。


「素が出てますけど。」


「うるさ……もう、何でそんなこと言うわけ?雀」

一瞬、無表情だったが、必死に笑顔を鈴華さんは作っていた。まあ、これはこれで可愛いが。


「……キャラ変は無理がありますよ。いい加減、教えてくださいよ。鈴華さん」


「…はぁあ、そうね。私には無理だったわ」

鈴華さん少し膨れ顔でそう言った。その表情が少ししか変わらない感じが鈴華さんだ。


「いや、良く分からないけど。頑張った方だと思いますよ。」

反射的にそう言っていた。


「そうね、流石私だわ。」

ドヤ顔の鈴華さんも可愛かった。まあ、そんな事はどうでも良い。


「それで、何をしてたんですか?鈴華さん」


「それは、言われたのよ。ギャップが大事って。」

ギャップ?ギャップ萌えって事。あの幼馴染、余計な事を吹き込んだな……あっ、いやまあ……余計な事だな。でもギャップ萌えを鈴華さんは間違ってるでしょ。


「……マジで、聞かなくても良いと思いますし、そういうことでもないと思いますよ。」


「私、間違っていたわけ?」

小さく首を傾げていた。


「ええ、ギャップっていうか。やってることは猫かぶりですよ。鈴華さん。差を見せる事がギャップですよ。多分。」

完全に別のキャラを演じるのは、違うでしょ。出来て無かったけど。


鈴華さんは、数秒こっちを見て、それから眼を見開き。

「猫被り?ニャン」

そう言いながら無表情で猫のポーズをしていた。


「………」

何これ、天然?

破壊力おかしいと思う。

可愛いし、狙ってるのこれ?

ああ、熱い。


「顔赤いわよ。雀君。どうかしたの?」

無表情で鈴華さんは、首を傾げていた。ああ、この天然。


「何もしなくても鈴華さんは大丈夫ですよ。」

ギャップ萌えとか考えなくても、鈴華さんは十分に、


「が?雀君」

鈴華さんはそう言ってニヤッと笑っていた。うん?あれ?これ何か誘導されて言わされそうになってない。


「何もしなくてもギャップあると思いますし。そんな無くても。」

思った時には途中まで言葉を発していた。

何処までだ?

いや、多分、さっきの反応はリアルな気がする。つまり、僕の反応を見てか。


あの幼馴染は、多分僕と鈴華さんの性格を読んで、アドバイスをて事はあの人の手のひらの上ではないか。


「無くても何?雀くん」

鈴華さんは、ニヤッと笑っていた。ああ確信犯だ。


「ちょっと待って。何を吹き込まれた。鈴華さん」


「惜しかったわ。雀君、言葉にするって大事よ。」

鈴華さんはそう言ってじっとこっちを見た。それはそうだけど。恥ずかしいものは恥ずかしい。


「言葉にしなくても伝わる事があるでしょ。鈴華さん」


「そうでも無いわよ。だから私が言うわ。」

鈴華さんは、楽しそうに笑っていた。本当に楽しそうで何よりだよ。


「恥ずかしいのでやめて下さい。でも、良いですね。何か平和で」

まあ、何も解決して無いけど。


「そうね。テスト勉強しに行きましょう。雀君」


「はい。」

僕らは図書室に向かった。


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