第51話 夕食
幼馴染以外の人の家で夕食を食べる日が来るなんて、思って無かった。
しかも、彼女の家でいきなり夕食を食べることになるなんて思ってもいなかった。
僕は、鈴華さんの隣の席だった。そして、目の前には、カレーがあった。
まあ、カレーって嫌いな人が少ないから、とりあえずカレーにしたのだろう。
カレーは好きだった。
「雀くん。食べて」
鈴華さんは、無表情で、こっちを見てそう言った。いつも通りだった。
「頂きます。」
そう言って、スプーンでカレーを取り口に運んだ。
辛さは中辛程度。程よい辛さだった。スパイスが強すぎることなく。
まあ、つまりは美味しかった。
しかし、正直なところ味どころでは無かった。
目の前でめっちゃくちゃこっちを睨んでいる。鈴華さんの妹と斜め前でニコニコしながら、こっちを見ている鈴華さんの母親のせいだ。
凄まじく緊張する。まあ、気にするな、落ち着け僕。
「雀君。美味しい?」
鈴華さんは、無表情でこっちを見てきた。
「うん」
美味しいと思う。いや、緊張で舌がおかしくなってるから、美味しさを過小評価しているかもだけど。かなり美味しいと思う。
「そう、良かったわ。夕食の後は、勉強会をしましょう。」
鈴華さんは、そう言って小さく笑っていた。
「……良いですけど」
「それじゃあ、さっさと食べましょう。」
そう言いながら、鈴華さんは、無表情で、カレーライスを食べ始めていた。
「うん。」
まあ、少し勉強して帰ろう。結局、今日は勉強してないし。鈴華さんとの勝負には、勝ちたいからな。いや、一緒に勉強すると意味無くね。
いろいろ、思ったが、とりあえずカレーライスを食べることにした。
「仲良しね、ふふふ」
鈴華さんの母親は、柔らかく笑っていた。顔は似てるけど、性格は似てないらしい。
「私は認めないんから。」
鈴華さんの妹は、相変わらずこちらを睨んでいた。鈴華さんの妹とは、良い友人になれそうだ。
夕食は、特に何の会話も無く、淡々と進んだ。
まあ、食事中は喋らないし、学校での鈴華さんとの昼ご飯の時もたいていこんなものだ。
とりあえず、夕食が終わり、何というかタダメシは、気が引けたので、皿を洗う手伝いでもすることにした。でも、後悔した。だって、鈴華さんの母親の手伝いになったからだ。
何故だろう?どうしてだろう。『普段は、皿洗いをしてるわ。料理の手伝いわたまにするわね。』って、鈴華さんが言っていたから、皿洗いの手伝いをしようとしたのに、鈴華さんは、『そう、私の代わりにありがとう。感謝するわ』……って笑顔で言ってどっかに行きやがって。
「娘と仲良くしてくれてありがとうね。」
「……こちらこそ、仲良くさせてもらってありがとうございます。」
気まずい、気まずい、気まずい。こういう時に、正解が分からない。
「ふふふ、良い子そうで、安心したわ。あの子、不愛想だから。」
「………」
何て返すのが正解なの?僕には分からない。
「あの子をよろしくね。」
……よろしくか……
「雀くん。まだ」
鈴華さんの声が聞こえた。
真横にいた。いつの間にか、横にいた。
上目遣いでこっちを見ていた。
「……でも、まだ皿洗いが」
「十分ですよ。手伝ってくれてありがとうね。鈴華ちゃんが寂しがってるから、言ってあげて良いですよ。」
鈴華さんの母親が、そう言うと
「寂しがってないわ。行くわよ、雀君。」
鈴華さんが、少し膨れていた。
無表情だったが、少し膨れていた。
それから、僕の裾を引っ張り始めた。
「待って。手を洗うから。」
「早くして。行くわよ。雀くん。」
僕は、急いで手を洗った。
鈴華さんは濡れたままの僕の手を引っ張り、そのまま引っ張られて行った。
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