第48話 消えた新聞1

あれ以上長くいても意味がないと判断して僕らは、写真部を後にした。新聞は作ってくれるらしい。そんな事で図書室にとりあえず戻る事にした。

「ねえ、雀くん」

突如、鈴華さんが立ち止まり、こっちを見た。


「何?」


「新聞消えてるわ。」

無表情で淡々と抑揚なく鈴華さんは衝撃の事実を述べた。こういう時はもう少し声を抑揚をつけて欲しいけど。まあ、鈴華さんだから仕方ない。


「えっ?」


「そんなことより、愛してるゲームをしましょう。雀くん。」

鈴華さんは、無表情で小さく欠伸をしながらそう言っていた。この人、僕が絶対に出来ないと分かっておちょくってる。


「急に新聞の興味なくなるのやめてくれませんか?それとしませんよ。そんなゲーム」


「つまらないわ。でも、まあ記事を書き直してくれるらしいから。もう興味ないわ。それに手紙とは無関係だったわ。」

鈴華さんは、無表情でそう言いながら歩き始めた。手紙の方を気にしていたとは思わなかった。少し以外だった。


「それを気にしてたんですね。」


「ええ、そうよ。何だと思ってたの?」

鈴華さんは、少し笑いながら上目遣いでジッとコッチを見て来た。


「気まぐれかと。」


「失礼ね。気まぐれの要素は8割しかないわ。」

鈴華さんは、笑いながらそう言って、ドヤ顔をしていた。


「ほぼじゃん。いや、新聞無くなったのは問題ですけどね。」


「良いじゃない、無くなったのだから。」

鈴華さんは、首を傾げていた。


あれ?何か認識に違いがある気がする。鈴華さんは、思考が回るタイプだし、つまり、何かを持って問題無いと判断してるはず。

「いや、まあ教師が回収してシュレッダーなら良いですけど。」

多分、鈴華さんは、教師がこの偽の新聞を見つけて回収したと思ってるのだろう。


「教師じゃないなら。犯人が回収したってことかしら。それは、無いんじゃない?犯人が掲示したのを片付ける意味分からないわ。」

一度わざわざ掲示した偽新聞を片付ける意味は、証拠隠滅とかだと思う。


「例えば、僕らの話を聞いてたとかなら。」

僕らが気がついたと分かったのなら、もしかしたら証拠を隠滅するかも知れない。


「それはないわ。この話を知っているのは、私たち二人と、作った本人ぐらいだわ。聞いていた人はいないと思うわ。」


「凄い自信ありげですね。」

滅茶苦茶ドヤ顔だった。


「私、警戒心は高いのよ。新聞を作った本人も、さっきまで、話してたわ。」


「共犯者がいたら……それか、六角形先輩がいますよ。あの人が犯人に喋ったとか。」

よく考えれば、この新聞の話を知っている人はもう一人いるのだ。犯人になり得る人物は、六角形の人うちの誰かだ。そして、その人物は全員、漏れなく六角形先輩の知り合いであり、後輩なのだ。あの人が世間話で偽新聞のことを言っていても可笑しくない。


「ありえるわ。それなら、面倒なことになったわね。それだったら、不運だわ。」

鈴華さんは、そう言ってため息をついていた。


「本当に、不運ですよね。」

最近いろいろ巻き込まれてる。まあ、鈴華さんの件は、僕が自分から首を突っ込んだし、むしろ結果オーライだから良いとしても、六角形の方に巻き込まれている気がする。


鈴華さんは、しばらく上目遣いでジッとこっちを見て、それから、ニヤッと少し笑った。

「全部、雀くんのせいよ。」


「濡れ衣って騒ぎじゃないぐらい濡れてるんですけど。」


「ふっ、冗談はおいておいて。まあ、面倒だけど、私は楽しいわよ。雀君」

鈴華さんは、ご機嫌に笑っていた。その渾身の笑顔は少し眩しかった。まあ、鈴華さんが笑ってるなら良いか。


でも、

「何ですか?急に」

そういう感じで笑うなら事前に通告してほしい。心臓に非常に悪いのだ。


「物事なんて、大抵突然よ。」

鈴華さんは、そう言って小さくノビをして僕の前を歩き始めた。さて、消えた新聞、未だ分からない、謎の手紙犯人。問題は山積みだった。

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