第46話 写真部に行こう1

「それで、雀君。写真部どこにあるか知ってるかしら?」

図書室を出てしばらく無言だった鈴華さんが、そう言ってこっちを振り返った。ああ、分かってなかったのに僕の前をずんずんと歩いてたのね。


「知らないですよ。」


「ふっ、奇遇ね。」

鈴華さんは、渾身の笑顔でそう言っていた。多分だ、多分だけど。僕の幼馴染から困ったら全力で笑っておいてって言われてるんだろうな。


「ここは、奇遇では、ダメなのでは。鈴華さん」


「まあ、大丈夫。何とか適当に歩いてたら行けるわ。」


「そんな、雑で良いんですか。」

そう僕が聞き返した時には、もう鈴華さんは、歩き始めていた。


「良いのよ。まあ、勉強しながら行くわよ。雀くん」


「……聞きに図書室に戻れば良いのでは?」

まだ、図書室は遠くないし、戻れば。


「嫌だわ。六角形先輩にいろいろ言われたくないわ」

鈴華さんも、そのあだ名が気に入ったらしい。


「確かに」

あの先輩は、反撃に出るだろう。うん、それはなんか嫌だ。


「それじゃあ、行くわよ。雀君」


「了解です。鈴華さん」

もう、進む以外の選択肢が無かった。


「じゃあ、問題出しながら行くわよ。雀くん」


「どうぞ。」


「أحبك」

鈴華さんが、なんか言った。えっ?英語?何?


「えっ?」

マジで、全く分からなかった。


「だから、أحبكよ」

鈴華さんの口調からテンションが上がっているのが分かった。絶対にからかいタイムだ。鈴華さんは、完全に僕をからかって楽しんでる。


「何語ですか?」


「アラビア語よ。」


あらびあ語?うん?予想外すぎる。

「分かる訳ないじゃん。テストに出ないですよね。」


「文句が多いわね。翻訳機で調べて、練習してきたのよ。」

鈴華さんは、首を少し傾けて不服そうな表情をしていた。


「要らないんですよ。そんな努力。」

ちょっと嬉しいなと思ってしまったのが、少し悔しかった。


「次行くわ。nakupenda」


「……分かりませんよ。何語ですか?」

そもそも、答えは何だろうか。


「スワヒリ語よ。これも、分からないのかしら。」


スワヒリ語?そもそも、何だよそれ。

「そんな、いろんな言語、分かったら、ここにいませんよ。」


「そうね、仕方ないわ。難易度を下げるわよ。」

鈴華さんは、やれやれと言いたげなジェスチャーをしていた。


「……まだ、問題あるんですね。」


「ええ、後2つ覚えてきたから、それまでは、付き合ってください。雀君」

鈴華さんは、じっとこっちを見てきた。


「……まあ、良いですけど。」

いや、だって断るのは、申し訳ないし。というか、絶対に成志さんってこれに付き合ってあげれるタイプじゃないから。無理でしょ。ふっ、なんだこの圧倒的優越感。


「ti amo」


何語だよ。

「もちろん、分からないです。てか、全部意味同じなんですか?」


「ええ、そうよ。今のは、イタリア語だわ。」


「……ええ。次は?無理ですよ。」

イタリア語なんて僕知らない。


「最後は簡単な問題よ。絶対に分かると思うわ」

鈴華さんは、そう言ってこっちを再びじっと見た。


絶対に分からない。分からない自信がある。

「……はぁあ」


「何その、全く信用してない感じ。まあ良いわ。雀くん。я тебя люблю」


知ってた。分かるわけないんだよ。

「???何それ」


「ロシア語よ。ロシア語ぐらい喋れるわよね。」


「喋れませんよ。僕を何だと思ってるんですか?僕、そんなグロバールに触れて生きてないですよ。」

僕は、狭い世界で生きているのだ。分かるわけないのだ。


「もう、逆に何が喋れるんですか?雀くん」

鈴華さんは、不服そうにそう言っていた。


「えっと」

まあ、日本語ぐらいだろう。絶対にこのタイミングで言うのは違うけど。まあ、


「日本語以外よ。雀君。」

先読みされてるし。それだったら、まあギリギリ。


「……じゃあ、英語で」


「仕方ないわね。出血大サービスよ。雀君」

鈴華さんは、そう言ってニヤリと笑った。


「お願いします」

普通に答えは気になるのだ。


「I love you、それで、答えを日本語でどうぞ。」


……マジで。ずっと、そう言ってたの?恥ずかしい。待って、答えを言ったら僕がそれを言うことになる?それは、恥ずかしい。

「……ずっと、それ言ってたんですか?」


「うん、雀君。それって何、私分からない。」

……ああ、これ、あれか。僕に言わせてってことか。死ぬほど恥ずかしいから無理。それに罠にかかった感じで嫌だ。絶対に恥ずかしい。


「……ちょっと、分からないですね。」


鈴華さんは、無言で立ち止まるとこちらに戻ってきて、僕の足を思いっきり踏んだ。

それから、不服そうな表情で

「……雀君の意気地なし、照れ屋。」

そう言って再び前を歩き始めようとした。


その時に、教室のドアが開きカメラを持った生徒が現れた。

「部室の前でいちゃつくのは、……うわぁ」


何かいろいろ言っていたがどうでも良い。

「「もしかして、写真部ですか?」」

好都合な展開だった。

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