第40話 お家デート?2

「雀君の家ですよね?」

部屋を出た時にそんな、鈴華さんのいつものようなあまり抑揚のない声が聞こえた。


「そうですよ。今日デートの予定だったのかな?だったら、雀も言えばいいのに」

どうやら、幼馴染がドアを開けたらしい。


「いえ、違います。予定は無かったです。」


「そう、まあ何でも良いけど。雀くんでしょ。雀君は、たぶん、今、上で私の彼ぴと一緒にいると思うよ。」


「この家フリーパスなの?セキュリティー大丈夫。」


「違いますよ。セキュリティーは大丈夫です。母が悪いので。とりあえず。おはよう、鈴華さん」

二人の会話が何往復かしたころに僕はなんとか玄関にたどり着いた。


「来たのね。雀。じゃあ、私は人生ゲーム探しに戻るから。」

幼馴染は、再び人生ゲームを探すために去っていった。


玄関に来た僕を鈴華さんは、じっとこっちを見て

「雀君、足元震えてるよ。どうしたの?」

笑いながらそう言った。これ、理由、分かってるな。


僕の両足は筋肉痛の影響で、ぎこちない感じの歩き方になっていた。

立ってるだけで、割とプルプル震えていた。

「筋肉痛ですよ。」


「ふふ、知ってるわ。だから、プレゼントを持ってきたわ。」


そう言うと鈴華さんは、袋から湿布を取り出して手渡された。

「……湿布」


「必要でしょ。」


必要だが、家には置いてある。

「それ、渡しに来たのんですか?」


「ええ、それでついでに、勉強会でもって思ったわ。良いでしょ。」


「そうなんですね。良いですけど。朝ごはん食べてからでも良いですか?」

朝ごはんが先だった。空腹だ。


「良いわ。でも、私が言うのも変だけど。幼馴染とかの、相手しなくても良いの?」

鈴華さんは、首を傾げていた。


「えっ、いや、勝手に来てるだけなので、あの人たち。それとも、人生ゲームしたいなら4人でしますか?」


「うーん。それも、アリね。そもそも、家に人生ゲームなんてあるのね。」


「ああ、いや。」


「だって、雀君って、人生ゲームを出来るほどの兄弟姉妹もいなければ、そこまで親しい友達もあまりいないじゃない。」

鈴華さんは、無表情で、ド正論ストライクを投げ込んできた。

その通りだ。僕は普段は家でほぼ一人だし。確かにそうだが、


「酷いですね。まあ確かに、うちに来る友人は、今は二人、昔は一人ですよ。」


「3人では?私は?」

鈴華さんは、小さく首を傾げていた。いちいち動きが可愛かった。


「いや、恋人って別枠換算では?」

知らんけど。


「そうなのかしら。それで、なんで人生ゲームがあるの?」


「昔から、幼馴染がよく、人を連れてきたんですよ。」

小学校、中学校時代。僕には凄く親しい友人はいなかったが、今もだが普通にしゃべる人はたくさんいる。そういう人を良く、幼馴染は家に連れてきた。


「うん?」


「だから、幼馴染が友達を連れて遊びに来たんですよ。」


「それで?」


「それで、まあ、とりあえず買っておいただけですよ。なんか、遊ぶやつあったほうが良いかなって。」

人が来ても何もないのは、困るから買ったのである。ただそれだけだ。


「……つまり、人を呼んでくるの楽しみにしてたの?雀くんは」

そんなことはない。面倒なだけだし…それに気まずくなるのもあれだし。


「いや、違う。困るから。」


「……人生ゲーム何個持ってるの?雀君」


「3個」

小学校1年、小学校4年、中学1年に買ったから確か。


「……雀くん。めんどくさいね。素直に楽しみだったで良いのよ。」

鈴華さんは、少しにやけた顔でこっちを見ていた。


「何がですか?違いますから。」


「まあ良いわ。雀君。」


「リビングで待ちますよね?」


「私は、何もしなくても良いの?人生ゲーム探しに行かなくても良いの?なんか探してるじゃない。」


「ああ、大丈夫ですよ。そのうち、見つかりますよ。」

まあ、最悪僕が探せばすぐに見つかるし。それに、幼馴染が勝手に探し始めたんだし。


「そう、それなら、私はリビングで本を読んで待つとするわ。」


「そうしてください。リビングに本は置いてますから。持ってきてると思うけど。」

僕は、朝食を食べよう。その後、湿布でも貼るか。


鈴華さんは、何故かこっちをじっと見ていた。

「……ねえ、それ、私が来た時を想定したりしてますか?」


……いや……

「……違いますよ。たまたま、読みたいと思っただけですけど」


「ふっ、雀君めんどくさいわね。」

鈴華さんは、ご機嫌に笑っていた。


「普通ですよ。」

めんどくさいか。まあ、こんなものだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る