第38話 二人二脚

二人三脚の時間になった。

放送委員の実況が、校庭に響くなか、僕らは、片足を結ばれた状態でグランドにいた。そして、他の3組から、睨まれていた。僕らの組の後には、幼馴染と友人のペアがいて、僕らにアホみたいに手を振っていたので、アホみたいに手を振り返していた。

「雀くん何で、こんなに睨まれてるわけ?」

鈴華さんは、不思議そうに首を傾げていた。


「何ででしょうね。」

説明も面倒なので適当に誤魔化しておいた。二人三脚だが、僕らの学校は校庭、1週だった。普通半周じゃね、長くねとかいろいろ文句はあるが、それを叫んだところで何ににもならない。

そんな事をしていたら、

「位置について、よーい」

そんなスタートの合図と、ピストルの音が聞こえた。

その合図とともに、他の3組は、声を合わせながら走り始めた。

それに対して、僕はしゃがみ込みで、足を結んだ紐を外した。


『えっ、一組走っていません。何があったのでしょうか。』


放送席のそんな放送の声を無視して、少し距離を取られた他の3組を見ながら

「鈴華さん、おんぶとお姫様抱っこどちらが良いですか?」

そう尋ねた。


「おんぶで、走りやすいでしょ。さっさと追いかけるわよ」


鈴華さんは、そう言うので僕は彼女の前にしゃがみこんだ。


二人三脚の練習は全くしてなかったが、こっそり、一人で重り(友人)を持って走る練習していた。しかし、あの友人は、どうして、詳しいこと特に何も僕が言っていないのに、あの練習に付き合ってくれるのだろうか。怖いな。

まあ、準備はしていたのだ。二人三脚は最悪、鈴華さんを持って二人二脚をすることも考えてたし、途中からそうするつもりだった。

鈴華さんのケガは想定外だったけど。それだったら、まあ、最初から僕が運びながら走れば関係ない。怪我人を無理やりは競技参加はどうかなって思ったけど、鈴華さんもノリ気だし。


絶対に失格だろうし、一位にはなれないが、レース自体を壊せば、あの先輩の兼も、勝負しているあの6組の兼もブチこわせるだろう。このレースで勝って告白する奴はいないでしょ。


それに、結果的に僕は、面白いし、思い出になるし、完璧だ。


「了解です。」

僕は、いろいろ考えを頭で巡らせながら、そう一言いうと彼女をおんぶして走り始めた。


『二人三脚ですよね。えっ』

放送から、そんな混乱している声が聞こえた。最初から二人三脚をしないパターンなどあまりないのだ。


走っている僕に、

「なんで、ニヤニヤしてるの雀君。それにしても、めっちゃ目立ってるわね。」


「まあ、これで目立たない方が可笑しいですからね。」

そう言いながら、少しづつ走るペースを上げて、他の三組との距離を詰めた。


会場は、異様な盛り上がり方だった。大笑いする人が大半だったが、ちょいちょい、僕に恨み言を吐いてくる声も聞こえた。


『失格です。天野さんと春野さん失格です。止まってください。』

放送のそんな声が聞こえたころには、半周を超えていた。前の3組は、射程圏内だった。

「だってよ。雀くん」


「どうします?ここで走るのやめますか?」


「嫌よ。走り切って怒られましょう」

鈴華さんなら、そう言ってくれる気がしていた。そういうところが……まあいいや。


「走るのは、僕だけですけどね。」


「…頑張って、雀くん」

そんな風にあまり抑揚のない声で言ういつもの彼女の声を聴いて


「……しょうがないですね。ちゃんと捕まってくださいよ。」

明日筋肉痛になることの覚悟を決めて、さらにスピードを出して走ることに決めた。


こんなに、本気で真剣に走るなんて久しぶりだった

『止まってください。スピードを上げないでください。ごぼう抜きやめてください。あっ……』

そんな、放送を聞きながら、前の三組を抜き去り、そのまま、突き放し、大差で、ゴールテープを切った。



とりあえず、その場でしゃがみこんで、鈴華さんを降ろした。

地面にしゃがみこんで、走った疲れで動けない僕に、彼女はいつもと異なる上からの視線で、こちらを見下ろす形で、

「速いわね。雀くん。楽しかったわ。」

笑いながら、そう言っていた。


明日、筋肉痛になることとこの後の説教とこの目立った恥ずかしさ、それに対して十分すぎる対価を得た。ああ、カメラないのは、惜しいな。


「まあ、ふうう。はあああああ、まあ他の3組が気が散ってるおかげですけどね。」


『失格です。4位』

そんな中で、そんな当たり前な放送が聞こえた。そりゃ足の紐を最初から離してるのだからね。


「本当に、良い思い出になったわね。雀」

そう言って差し出された手を取り、少し引っ張って貰う形で僕は、立ち上がり、4位の場所まで歩いて移動した。その間に、他の組がゴールしていたが、全く何も盛り上がっていなかった。


「まあ、一緒に後で怒られましょう。でも、君が足を怪我したけど、競技に出たかったとか言えば。」


「そうね。それで言い訳になるわね。でも、雀くん照れたりしなかったわね。」


「いや、ここまで目立つと逆に何も思わないっていうか。」

もう、ここまで来たら恥ずかしいとかより、誇らしさが勝るでしょ。


「違うわよ。おんぶの方よ。」


「何がですか?」

おんぶが恥ずかしい?何で?鈴華さんをただおんぶしているだけでしょ?なんで?

全く分からない。


鈴華さんは、一瞬こっちを睨み、それから無表情になり、

「なるほど、雀くん。なるほど、後で右足を踏むわ。」

そう言って笑っていた。


なんか、怒られることをしたらしい。全く分からない。

「えっ、何でですか?」


「やっぱり、雀君モテないわね。」

鈴華さんは、少し笑いながらそう言っていた。


「でも、彼女、いますけど。」


「そうね、本当にその彼女は、趣味悪いわね。」

鈴華さんは、笑いながらそう言っていた。


「鏡見たことない人ですかね。鈴華さんは」

そんな冗談が言えるので、そこまで怒ってはいないのだろう。


「「でもまあ、とりあえず思い出にはなったね。」」

とりあえず、手紙の件とかいろいろあるが、思い出になったのでとりあえず、どうでも良かった。

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