第37話 体育祭3

テントに戻ると何か騒ぎが起きていた。

鈴華さんはすぐに見つけることができた。

それは、この騒ぎの中心にいたのだ。

着いて来た二人をとりあえず無視して、騒ぎの中心に行くと

鈴華さんは下を向いていた。それから、僕に気が付くと

「雀君、ごめんなさい。」

そう、小さく謝った。


「どうしたんですか?」

僕がいない間に何かが起きていた。


鈴華さんは、下を向いていた。

「こけて足を怪我してしまったわ」

彼女は、足を軽く手当していた。大怪我ではないが、まあ、走るのはあまり良くない気もする。鈴華さんだし。でも、なんで、こんな大騒ぎになっている?


「…大丈夫ですか?えっ、でも何でこんな騒ぎに。」

鈴華さんは、この騒ぎの中心にいるが、騒がしく何かを言い合ってるのは、彼女の周りにいた人々だ。


「押されたわ」

鈴華さんは、無表情でそう言った。


押した相手への敵意と自分への憤りの気持ちが生まれた。

「……僕がいなかったから。」


「…いや、大丈夫よ。二人三脚を厳しいわね。」

鈴華さんは、少し悲しそうな表情をしていた。僕が見たいのは、無表情の彼女か笑顔での彼女であって、そんな悲しい顔は見たくなかった。


「それの謝罪ですか?そんなのいらないです。鈴華さんの身の安全が大事です。」


「ありがとう。でも悔しいわね。あんなに二人三脚練習したのに」

鈴華さんは、小さく笑った。


「練習はしてないでしょ。」

練習はしていないが、しかし、二人三脚は少し、悲しいな。それに、あの人たちにも、ムカついてたし。


「ふふふ、そうね。」


「犯人の顔は?」

とりあえず、尋ねてみた。まあ、多分用心深い手紙の人なら分からないだろう。下手したら、僕の手紙の件も僕を彼女と引き離すための罠だったのかも知れない。


「見てないわ。結構ごちゃごちゃしてた時なのよ。だから誰が犯人かって揉め初めてこんな騒ぎになったわ。多分事故ね。」


「ああ、それなら、いいですけど。まあ、次からは、一緒にいて気を付けますね。」


「お互い。気を付けて警戒しておきましょう。」


「それで、二人三脚は?」


「二人三脚は委員長が変わってくれるって言ってたわ。」

あの人、他に2種目ぐらい出てるのに働きすぎでしょ。


でもな、鈴華さんと一緒に

「……その変更、言いましたか?」


「言ってないわよ。委員長は君を探しに行ったから多分。」


「そうですか。その」

まあ、彼女が走れなくても二人三脚は出来るではないか。


「何?雀君」


小さく小首を傾げる鈴華さんを見ながら

「わがまま言っても良いですか?」

そう僕は言った。

テントには、多くの同級生がいて、多分まだ、押した人は誰かで少し揉めているのか騒がしいはずだったが、この場で僕には、鈴華さん以外はすべて、雑音だった。


「嫌よ。わがままは私が言うは。」

鈴華さんは、そう言うとニヤリと笑った。


「えっ。」


「やっぱり一緒に二人三脚出たいわ。雀」

鈴華さんは、そう言ってこちらを上目遣いで見た。

エスパーかよ。


「出ましょう。走れない鈴華さんがいても、一位になれる、良い案があります。多分失格ですけど。」

まあ、チームには、申し訳ないが、僕は別にチームの順位とかどうでも良いし、自分のほうが大事だ。


「良いわね。でも目立つわよ。雀君」


「目立つのは嫌ですけど。今は鈴華さんと二人三脚に出ることと、失格でも1位を取ることが大事ですから。」

まあ、牛乳を最近よく飲んでカルシウムをたくさん取ってるから大丈夫だろう。


鈴華さんは、ジッとこっちを見て

「ありがとう。大好き。」

そう言って少し顔を赤くして、それからスッと無表情に戻った。


驚きで多分、時間と心臓が一瞬止まった。

「えっ、え、えっ恥ずかしいのでそう言うのいきなり言わないでください。」

何で、何が何でいきなり、何で。


「ふっ、可愛いわね。雀くん。それで、雀くんは、どうなの?」

鈴華さんは、小悪魔のように、ニヤッと笑っていた。


「嫌ですよ。恥ずかしいので言いませんよ。」


「まあ、今回は、許してあげるわ。とりあえず二人三脚勝ちましょう。雀君」


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