第34話 面倒な頼み1

「雀くんおはよう。」

朝、『着いた』という短いメッセージに導かれてドアを開けると鈴華さんと、その後ろに知らない人が立っていた。


「おはようございます。鈴華さん、それで、その後ろの女の人は?」


「ストーカーです」

鈴華さんは、そう言って、小さく溜息をついた。まあ、大丈夫な人っぽいな。


「ええ、違うでしょ。春野さん。」


「それで誰なんですか?」

大丈夫な人でも何の人か分からないのは、少しモヤモヤするものだ。


「先輩です。二人にお願いがあってきました。」


「お願いですか?」

先輩の知り合いか。うーん、どっかで見たことがあるような気もしてきたな。


「聞かないほうが良いわ。行きましょう、雀くん」

鈴華さんは、そう言うと僕に早く家の鍵を閉めるように急かして、閉まったのが分かったら、僕の手を引っ張り歩き始めた。


「そうですか。行きましょう」


「待って待て。お願いします。待ってください」

先輩は、懇願していた。


「……無視で良いんですか?鈴華さん」


「良いわよ。面倒な事だし。手紙以外にややこしいこと増やす訳にはいかないわ」


「ああ、関係ないことなんですね。ていうか、あの人どっかで見たことありますね。」

絶対に何処かで見たことある気がするのだ。思い出せないけど。


「図書室で会ったことあるでしょ。記憶力よわよわバカップル。」


「……ああ」

先輩は、図書委員だっけ?まあそれの先輩だ。確かに言われればそんな気がする。

でも、僕と鈴華さんはバカップルではないでしょ。


「それで、二人に頼みたいことがあるんだけどさ。」


「聞こえないです。行きましょう。雀くん」

鈴華さんは既に聞かされたのだろう。まあ面倒ごとに、巻き込まれるのだろうか。


早歩きの僕らを追いかけながら先輩が、大きな声で

「私先輩ですよ。まあ、二人に頼みたいことは、二人三脚で一番になって欲しいのよ。」

良く分からないことを叫んだ。


それに思わず僕は、

「何でですか?」

そう答えてしまった。


「…雀君なんで聞いちゃうわけ。バカなのかしら。」

鈴華さんは、そう言って溜息をついていた。


「…聞いたからには手伝ってくださいよ。後輩たち。」


「……ごめん、鈴華」


「ゆるさいないわ。」

鈴華さんは、そう言って笑っていた。

とりあえず、逃げるのは諦めて僕らは立ち止まった。


「まず、君たちが一番になるというより。君たち以外が一番になったら困るんですよ。」


「誰と同じ組とか分かってるんですか?」


「それは、分かってますよ。では、こちらをご覧ください。」


なんか、紙を用意してるし。


『今回は、分かりやすいように記号で人物を表します。知らない人名前たくさんとか嫌でしょ、多分二人とも。

まず、二人三脚は1レース4組出場します。

君らを除く3組6人は、全員幼馴染で私の中学の後輩です。

6人が綺麗に六角関係です。

男の子は、A,B,Cで女の子は、X,Y,Zです。

1組 A,X

2組 B,Y

3組 C,Z


恋愛の好意の向きは

A→X→B→Y→C→Z→A

そして、全員が二人三脚で1位を取ったら告白するとか言ってる。』


「なるほど、凄いですね。」

凄いは、マジでラブコメみたいじゃん。


「でも、私たちには何も関係ありませんよね。これ、面倒でややこしいだけでしょ。雀君。」

鈴華さんは、そう言って僕が貰った紙を僕の手から奪い取り、それを先輩に返納していた。


「待って違うじゃん。どの組かが1位になって、それで。この感じで気まずくなって終わるのは。そう思わない?お二人とも、そもそも告白とかは勢いでするものじゃないでしょ。1位を取った勢いでするものじゃないでしょ。だから、お願い」


先輩は何故か必死だった。何でこんなに必死なのだろうか?

「そうなんですか?鈴華さん」


「……先輩。告白は勢いよ。」

鈴華さんはそう言って少し顔を赤くして笑った。……少し照れてる。鈴華さんが照れてる。


「……とにかく1位になってほしいの。それに、君ら以外が1位になれば全員に相談された私が凄い事になる。」

ああ、全員にそんな事を言われたら、うん、まあ、告白失敗して、この先輩は全員のヘイトが集まってもおかしくない。


鈴華さんは、立ち止まりため息をついた。

「……先輩。言われなくても1位を目指しますけど。……ここは、息を揃えて言いましょう。雀。」


鈴華さんはこっちをみた。まあ、そもそもこれの問題は、先輩の頼みを聞くとか以前の問題なのだ。


「分かりましたよ。鈴華さん」

そもそもの問題があるのだ。この先輩は可哀想だと思うでも


「「無理だと思いますよ。一位を取るのは」」

シンプルに僕ら2人で二人三脚で1位を取るのが無理なのだ。いや頑張るけど、無理でしょ。理想と現実は違うのだ。


「雀君、声揃ったわね。」

鈴華さんは上機嫌に笑っていた。可愛い。


「そうですね。今日は良い事ありそうです。では、頑張って下さい先輩」

そう言い残して僕と鈴華さんは学校に向かって歩き出した。先輩は膝から崩れ落ちていた。


……不憫だった。

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