第27話 遭遇3

「お帰り、雀くん」

家の前に鈴華さんがいた。無表情で彼女はジッとこちらを見ていた。今日は人によく合うな。


「はぁ?えっ、女子会は?」

シンプルにいろいろ思ったが混乱した。


「さっきまでしてましたよ。」


「……なるほど、そこでしてたんですね。」

恐らく幼馴染の家でしていたのだろう。めちゃくちゃ近所だしね。だったら、一緒に帰っても良かったのでは?まあ、そしたら僕がダラダラと友人の雄介と喋ること無くて、一人でボーっ家でしている時間が伸びたのか。


「ええ、そうね。」


「……送りましょうか?」


「当たり前よ。」

彼女はそう言って小さく笑った。


「当たり前なんですね。」


「でも、その前に公園に行きましょ。」


「えっ、遠回りですよ。」

普通に公園経由よりも、直接向かう方が近い。遠回りは面倒だ。


「そうね。間違えたわ。公園に行く。」


「確定なんですか?」


「ええ。確定よ。雀くん」


「カバン置いてきても良いですか。」

まあ、しょうがないか。家がここにあるから邪魔な荷物を


「カバン?」

彼女はわざとらしく首を傾げた。


幼馴染がやって来てカバンを持っていった。

「……カバンないですね。僕の動きを先読みしないでくれませんか?」


「連携プレイよ。」


「…何それ。とりあえず、公園ですね。でも何でですか?」


「行ったら分かるわ。」

そう言って歩き出す、彼女の後ろを急いで追いかけた。



公園に着くと彼女は立ち止まり、こっちを見た。

「ねえ、雀くん。やっぱり私つり合いが取れてないと思うのよ。」


「何が?」

何のつり合いだろうか。僕と春野さんで取れてない釣り合いなどいくらでもあった。


「ラーメンだけじゃ釣り合いが取れてないと思うのよ。」


「いや、本も買って貰いましたよ。」

お礼の話なら、まあ、結構貰っている気がするし、友人になってもらう件は、まあ手紙が解決してからで問題ないだろう。


「いいのよ。あれは布教だから。読んでる?」


「読んでますよ。」


「なら良かったわ。それでちゃんとお礼をさせて欲しいの」


「はぁあ、別に大丈夫ですよ。僕もあの時に、なんか結局覗いていたので」


「それは、忘れ物したからでしょ。でも普通、携帯は忘れないわよ。」


それは、本当にそう。

「……何で忘れたんですかね。」


「知らないわよ。やっぱり、お礼をさせて欲しいわ。なんでも良いわよ。」


何でもね……

「……強いて言うなら友人になってくれますか?」


「それは、無理よ。もう友人じゃない。」

春野さんは首を傾げながら、そう笑った。


「いや、マジでそれ以外だったら特に。自分で結局したことなので、それにお礼してくれる態度の人からお礼とか別に貰いたくないですし。」


「めんどくさい人ですね。……やっぱり埒が明かないわ。そうね、仕方ないわ。」


「はい?」


「まず、一回、そこのブランコに座りなさい。」


「……はぁ」

なんか、そう指を刺されて言われたのでとりあえず、ブランコに座った。

何が始まるのだろうか?不安で胸がいっぱいだった。


「まず、一つ。偽造恋人?彼氏のフリは辞めて良いわよ。」


……えっ?…うん?えっ。うん、まあそうか。

「……そうですか?手紙はどうしますか?」


「それは、大丈夫よ。」

無表情で彼女はそう言っていた。


「そうですか。では……」

終わりか。なるほど、なんか良く分からないけど、終わりか…終わりか。

結果、人間強度が下がっただけか。まあ、楽しかったけど、そんなものか。

手紙は残ってるけど、実際ほとんどの問題は解決したし、友人って言っても、そんな関わることもなくなるだろな……帰るか。


僕が、ブランコから立ち上がろうとすると

「待ちなさい。話は終わってないわ。ブランコに座っておきなさい。」

そう言いながら、彼女はブランコの前に立ちふさがった。


「えっと」



「I love you」

時間が止まったように感じた。


放課後の公園、夕陽のが落ち始めて、周囲を紅く照らしていた。

普段は風景など気にしないで生きている僕でも美しいなと感じる風景の中で、一番美しかったのは、落ちる夕日でも、紅く照らされた公園の遊具でも無かった。目の前でこちらを指さして、いきなり英語で愛の告白をして来た145㎝程度の無表情な少女だった。夕陽のおかげで無表情の彼女が照れて真っ赤になっているように見えた。


その光景に

「えっ」

シンプルに理解が追い付かなかった。



しばらく数秒の間の後に

「可笑しいわ。告白は公園で英語でするものだと思っていたのに」

そう言って彼女は笑っていた。


「情報偏ってませんか?違いますよ。」

それに反射でそう言い返していた。


「じゃあ、教えてよ。雀君」


「………それは…『良いじゃん。彼氏いないんでしょ。試しにさ、付き合ってよ。』ですかね。」


「ふっ、性格悪いわね。雀くん」


「お互いさまでは?」


「そうね。それで、答えは?」


そんないつも通りの会話で僕は少し落ち着きを取り戻した。こういう時に何て言うのが正解か知らないが。


「よろしくお願いします。」

まあ、こう言うしか無かった。


「ふっ、お願いするわ。」


春野さんは、そう言って笑った。心臓の速度が上がって、今、破裂していないのは不思議である。でも、どうして、こんなに緊張しているのか。それは良く分からなかった。……待ってもうこれでもう、ロリコン確定になるのでは……気のせいだ。とりあえず1つ分からないことがあった。

「で、何が変わるんですか?」


「…知らないわ。私も何でこんなことしたか分からないのだから。雀くん。付き合うって何か分かる?」


「ええ?僕が分かるとでも」

結局何が変わるのだろうか?これに何の意味があるのだろうか。分からなかったが、まあ、1人でいるよりは楽しいし、何でも良いか。


「……まあゆっくり考えるわ。手紙の件も、付き合うとは何かの哲学問題も、一緒にね。」


「そうですね。今日は、とりあえず帰りましょう。」

時間はあるのだ。まあゆっくり考えれば良い。1つ分かることはあの日、携帯を忘れたことは、幸運だった。どうやら携帯は、ラッキーアイテムだったらしい。


「ええ、よろしくね。雀君。」

とりあえず、まあ、何も変わらないかもしれないけど。何かが始まった。

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