第24話 部活動

図書室で読書をしていたら急に春野さんが本を閉じた。

「ねえ雀くん。君、図書委員に入らない?」

無表情で、春野さんはこちらを見た。


「何で急に。」

急だった。何かを思いついたのか、理由は不明である。


「いや、図書委員って知ってると思うけど人手が足りていないのよ。」


図書委員は人手が足りていないのは、外目から見て分かった。先週ほぼ毎日、放課後図書室にやって来たが、数度春野さんが一人で図書委員の仕事をしていた。それ以外の日に図書委員の仕事をしていた人は、二人で仕事をしていたが、一組しか見なかった。つまり、推定だが3人しかいないのだ。

「ポイですよね。」


「ええ、私が週3回図書委員していることから分かるでしょ。」

まあ、でも図書室に本を借りに来る人も少ないから大丈夫な気もするけどな…それに、


「でも、毎日図書室にいるから関係ないのでは?」

春野さんは大体放課後図書室にいた。


「……確かにそうね。でも、君は私が可哀そうだとは思わないの?」

無表情で彼女は、こっちを見上げた。


「何がですか?」

可哀そうな要素は思い浮かばない。いや、成志さんに絡まれてたことは可哀そう。これは分かる。読書好きが図書室で、図書委員の仕事。これは、そんなに可哀そうではない。


「私一人で、図書委員の仕事をしている姿を見て君は心が痛まないの?」

無表情で、春野さんが言っていた。せめて表情筋の努力をして欲しい。無表情でそんなこと言われても、1ミリも響かない。


「……そう言えば図書委員って春野さんの日以外の時は、二人でしてますね。」


「ええ、普通は、二人だけど。嫌って言って断ったのよ。だから二倍で仕事が大変なのよ。分かる?」

そう言って春野さんは小首を傾げた。


ええ、それなら

「自業自得では?」

僕は、彼女が首を傾げた方向に合わせて首を傾げた。


「ふっ、正論なんていらないのよ。」


「はぁあ。」


「ともかく、君は、図書委員に入って私を手伝いなさい。」


「確定なんですか?」


「確定よ。」

彼女は、ドヤ顔でそう言っていた。いや、別に良いけどさ。


「別に良いですけど。部活動ってどうやって入るんですか?」

部活動のことなど知らない、そもそも、面倒だから基本的に入るつもり無かったし。まあ、これぐらい楽なら話は別だけど。


「大丈夫よ、もう入部届は出して置いたから。」


「……いつの間に」

いつだ?ええ、時間は無かったしな。いや、これ、出す準備もっと前からしてたのか?今日、面倒ごとに巻き込まれてそんな時間はなかった気がする。


「用意周到でしょ。大丈夫よ。字の方は、協力者2名に君の字を再現してもらったわ」

なるほど、もっと前から準備していたのか。


「…別に言ってくれれば、書きましたよ。」


「ドッキリ大成功」

彼女は、段ボールで作られた『ドッキリ大成功』と書かれたボードを取り出した。


「……しょうもな」

思わずそう言っていた。


「ふっ、とりあえず次からは、私の仕事を手伝って貰うわ。」


「ああ、良いですけど。それだったら偽造恋人やめた後も。」


「うん?……まあ、そうね。考えておくわ」


何を考えておくのだろうか。まあ、別に何でも良いか。

そんなことをしていたら下校時間に近づいていた。

「そうですか。それじゃあ、とりあえず帰りましょう。」

再び本を読もうとしている春野さんを止めながらそう言った。


「ありがとう、もうそんな時間なのね。雀君。お家まで送ってくれる?」


「分かりました。」

まあ、家は近所だし、送るぐらい余裕だ。


「雀君、さっきのダンボールいる?」

そう言いながら『ドッキリ大成功』と書かれた段ボールを差し出してきた。


「要らないですよ。」


「遠慮は無用よ。」


「……ゴミを片付けたいだけでしょ。」


「分かったわ。」


「では、行きましょう。」


そう言ったが春野さんは何故か、立ち止まっていた。

振り返ると彼女は、渾身の表情で両手を合わせて上目遣いでこっちを見てきて

「……お願い、雀」

そう言った。


「……誰に教わった」


「茉奈さんです。」


「あの、クソ幼馴染が………。帰りますよ。」


僕は、要らないごみの『ドッキリ大成功」と書かれた段ボールを彼女から奪い取りながらそう言って歩き出した。いや、だって仕方ない。これは不可抗力だと思う。



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