第22話 最悪4

「春野、君は二股をかけられてるんだぞ」

この状況で、なんか無茶苦茶な事を言って、僕をぶん殴ってるのに、何というか自分が正義であるような立ち回りだ。


「まず、一つ。もし、雀君が二股をしてたら怒れるのは、私だけですよね。それに、絶対にしてませんし。そもそも、何で私に話しかけるんですか?」

無表情で春野さんはそう冷たく言い放った。

まあ、実際は、二股ではなく0股なのだ。春野さんとは付き合ってないし。だから、僕が二股するのはあり得ないのだ。


言葉を詰まらせながら、そう成志さんは

「それは……君が…恩返しをしやすいかなって?」

そう言って、なんかさわやか風な笑顔を浮かべた。何だ、マジでこいつ?


「何がですか?私は、貴方に感謝をしてません。」

春野さんは無表情だった。


その春野さんの言葉に、成志さんの表情は一変した。穏やかに笑っていた表情は、鬼のような形相に変化して、目を血走らせていた。

「……可笑しいだろ。俺は、お前の姉と妹を助けたんだぞ。感謝するのが普通だろ。感謝してしかるべきだろ。」

その声は、たぶん教室を超えて余裕で廊下や近くの教室まで届いた。


怖いな、そもそも、恩返しされる前提のやつは人助けをするなよ。勝手にすることなんだから、恩返しなくても我慢しろよ。いや、せめてここまでブチギレるなよ。


「そもそも、まず私の姉と妹は助けられてませんし。貴方がやったことは迷惑行為ですよ。事情を知らずに人を助けるなら最後までするべきですし。適当にクビを突っ込んで、勝手に自己満足しないでください。それと人の話は聞くべきです。」

春野さんは無表情であった。

本当に、その通りだった。


「何を言っている俺は、迷っているお前の妹を」

ダメだこいつ。クラスの中心でなんかいろいろ進んでやる明るくて面倒な奴だと思っていたが、シンプルに頭が可笑しい。何この人。


「私の妹、中3ですよ。それに家の近所ですよ。」

道に迷っている訳なかった。


「だったら、」


「私の姉は20歳ですし。それに、いい感じになりそうな先輩を貴方が勘違いでぶん殴ったせいで、凄い空気になったらしいですよ。」


「……そんなはずはない。何かの勘違いだ。」


「……まあだから、無理ですし。なんか勝手に一人で盛り上がって、キレないでください。」


無表情でそう春野さんが言ったことで流石に終わると思った。


「……ふざけるな。嘘ばかり。」

ダメだこりゃ。


「ええ……それに、まず、私は雀君とラブラブですから。」


「……証拠を見せろよ。そうだ、これは全部天野が仕組んでるん。だから、全部作り話で俺を騙してるのだろ。」

何この成志って人、本当に何なの?


「……まず雀くんは、優しいです。私が本を読んでいるときに邪魔をして来ません。でも、必要な声はかけてくれます。なので授業に遅れません。」

春野さんの中で読書の重要度高すぎでしょ。


「……それの何処が」


「後は、雀君は話していて面白いです。登下校の時間とか喋るのは楽しいです。退屈だった登下校の時間が楽しくなりました。」

そう言いながら、春野さんは、僕の方向に近づいてきて、僕の目を見て笑いながらそう言った。……ハズイ。いや、これがあれだとしても、騙すための嘘だとしても恥ずかしい。


「……嘘だ、嘘だ。嘘だ。」


「それと、雀くんの意外と照れ屋なところ可愛らしいです。からかうのが楽しいです。それと、」

成志さんを無視して、春野さんは、話し始めた。

ああ、春野さん、アッチがどうしようもないって思って、僕をからかうことに切り替え始めたな。マジで。僕の周りの人は…


そこに救いが現れた。この異様な空気の中で割り込む勇気があるクラスメイトはいなかったが、朝練が終わりやってきたのだ。委員長が。ていうか、成志、多分朝練サボってるじゃん。


「何があったんですか?」

委員長の愛甲 梨花は、まあ普通に喋ったことがあるクラスメイトだった。


「愛甲さん。この変な人を」

春野さんが名前を覚えていた。驚きである。


「……成志君がどうかしましたか?」


愛甲さんは、そう言ってクラスを見回していた。

「俺は悪くない。」

そう、成志さんが叫んだが、何かを察したのか。


「……ふう、とりあえず先生呼んでくるので、そのとりあえず。これ以上喧嘩はしないで下さいよ。特に成志くんは、動かないことですよ。」


そう言って教室から出て行った。まあ終わらない状況だったし、とてもありがたいと思う。本当に、疲れた。まあ、これからまた疲れそうだけどね。





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