第15話  本当に何のために見に来たのか?

「雀くん。雀くん、雀」

春野さんが、少し叫んでこちらをジッと見ていた。


「……すいません。」

少し集中しすぎたのか知れない。


「いや、いいのよ。私も強く言い過ぎたわ。とりあえず、一区切り、読み終えたから傘を交代するわ。」

彼女は、そう言いながら、僕が持つ日傘に手を伸ばしてきた。


「えっ、いや大丈夫ですよ。」

味玉を貰うので、別に日傘は何時間でも持った。それで、何となく、日傘を持っている手の高さを挙げた。


彼女は、僕の挙げた手を見て、無表情になり、本を鞄にしまってから、深く息を吸って、傘を取るためにピョンピョン飛び始めた。

彼女は、飛びながら

「…遠慮は無用よ。君も日傘に入れてあげるわ」

そう無表情で言っていた。ぴょんぴょんと飛ぶ姿は……なんか可愛かった。


「日傘の相合傘って聞いたことないですよ。今もしてますけど。」


「人類初ね。雀くん」


「日傘相合傘を合法にしたら、相合傘の特別性が無くなりますよ。まあ、そんなことは、どうでも良くて、大丈夫です。」

まあ、彼女に傘を持たせない理由は、別に僕が持っていても疲れない他に理由があった。


「そんな遠慮しなくても良いのよ。」


「いや、だって、君が傘を持つと高さ的に」

春野さんが傘を持つと、高さが低くて危険だ。


僕の言葉に彼女は飛び跳ねるのをやめて笑った。

それから、僕の右足を軽く蹴りながら

「持つわ。…私持つわ」

そう言ってこちらを見上げた。

……はぁ。


僕は諦めて彼女に日傘を渡すことにした。

「……お願いします。」


「よろしい。それで、何を見てたの雀くんは」


「サッカーです」


「……?スマホでよ。なんか見てたでしょ。」

うん?ああ。


「サッカーです。プロの?」


「……何故?」

彼女は無表情で小首を傾げていた。


「ああ、いや、君がさ、本を読み始めた後も、僕はサッカーを調べ続けたんですよ。それで、プロのってどんな感じかなって」


「なるほど、それで分かった。」


「プロが凄いって分かりました。まあどのぐらいすごいかは分からないけど」

なんか、凄いなってことぐらいしか分からなかった。


「……調べた意味あった?」


「無い。こんどテレビで試合あったら見ようかなって思っただけですね。」

まあ、今度、真剣にスポーツを見てみようと思った。


「では、今度鑑賞会でもしましょう。雀くん」


「今度っていつですかね?」


「知らないわよ。まあ、そこまで偽造恋人が続いてたら、それはそれで問題ね。」


ああ、そうか。

「……まあ、友人としてなら良いんじゃないですか?」


「それもそうね。」


「それで、実際、今やっている試合の残り何分ぐらい残ってるんですかね?」


「……分からないわ。雀くん。」


二人とも試合は見てなかった。それで、改めてグランドを見ると、コートの中には人がいなくて……


「……ねえ、鈴華さん。試合終わってませんか?」


「……奇遇ね。私もそんな気がするわ。」

練習試合は終わっていた。


「結局、どっちが勝ったんですかね?」


「知らないわ。何しに来たんですかね?雀君。」


「……とりあえず、ラーメン屋行きますか?」

何しに来たかは、考えないことにした。


「流石にまだ、空腹じゃないわ。」


まあ、まだ12時にもなってなししな。

「じゃあ、本屋にでも行きますか?」


「……前に君にモテないって言ったかもだけど、撤回するわ。イケメンよ。」


「いや、本屋で喜ぶ君がちょろいだけでは?」

春野さんは、本屋が好きだと思った。そして、本屋に行けば喜ぶと思った。知ってた。


「そんな事無いわ。そんなことより、早く行きましょ。」

彼女は何故か、真剣な表情でそう言っていた。

うん?ああ、


「ああ、なんかこっちに成志さん近づいてきてますね。でも、ここで逃げたら、アピール意味ないのでは」

ここに来た目的を思い出した。


「でも、何を喋る?普段ですら話すことないのに、試合を見ていたら話す内容はあるはずだけど。でも、私たちは試合すら見てないのよ。」

…やばいな、うん、気まずい。


「よし、気が付かないフリして、行きましょう。僕の右手は空いてますよ。」

手を繋いでどっかに言っていれば止められないだろう。それに、アピールにもなるだろう。それにしても、不思議な事は、僕が二股しているって嘘の噂が流れているなら、そこをついてきそうだと思うけど。そんな雰囲気ないんだよな。


「そうね、手を繋いで歩けば、少しはアピールになるわ。行きましょう。」

彼女の差し出された左手を取り、本屋の方に向かって歩き出した。

慣れないもので左手は絶対に繫ぐことが出来なかった。

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