第13話  暇1

「暇ね。雀くん」

とりあえず、いつもの公園までやってきて、ブランコに座っていた。

彼女は、無表情で小さく欠伸をしていた。


「暇ですね。どこか…」

どこか行く場所あるか?全く思いつかない。


「そうね、コンビニに行きましょう」


「良いですけど。」

少しお腹すいたし。なんか食べよう。

僕がブランコから降りると彼女もブランコから降りてジッとこっちを見てきた。


「……」

うん?彼女は無言でジッと見ていた。


「……」

何?何?全く分からない。


「はぁ……右手が空いてるわ」

彼女は、そう言って、右手を挙げて見せた。

まだ、偽造恋人をする必要はない。何が目的だ?


「……何で?」


「それは、恥ずかしがる、雀くんを見るのが存外楽しいことに気が付いたからよ。」

彼女は、今までの喋っていた中で一番良い笑顔を浮かべていた。うわぁ。


「……性格悪」


「ふっ、褒めてくれてありがとう」

彼女の耳は自動的に言葉の意味を変換して聞き取っているらしい。


「褒めてない。はぁ、でも君も恥ずかしいですよ。」

マジで、本当に。何だよ。ああ、めんどくさいことに……


「それは、確かにそうね。一理あるは雀くん。」

彼女は無表情で小さく笑っていた。


「それなら、」


「でも、隣にもっと恥ずかしがっている人がいたら話は別よ。」

ダメだ。……完全に、あっちペースだ。これは良くない。


「……ていうか、別に手を繋いだぐらいで」

そうだ、実際、右手なら問題ない。

左手は緊張して汗をかくけど、右手は大丈夫だ。

そうか、この前は、大丈夫だったし。


「私は、情報収集に抜かりがないのよ。雀くん、緊張すると左手。」


「……あいつら、」

ダメだ。味方がいない。あの2人は、僕の敵だ。


「それと、『あの人は、強がりでひねくれてて、天邪鬼だけど意外と、いやだからこそ、緊張したり恥ずかしがったりする』って」


「本当に…」

やめてほしい。


「後は、『というか、ゲームで本気になってコントローラー』」


「もう、やめて下さい」

ああ、本当にめんどくさい。何で、僕がこんなに恥ずかしい思いをしなければならないんだよ。ああ、なんであの時、いや、それは後悔してないけど。なんか悔しいし。


「ふっ、面白いわね。」

彼女は小さく笑った。


「何が目的ですか?本当に」


「面白いのとそれと、とりあえず主導権を私が持っておきたいと思っただけよ。完全勝利ね。」

まだだ、まだ終わっていない。


「……てか、手汗、嫌じゃないですか?」


「……大丈夫よ。」

こっちは、大丈夫じゃないんんだよな。考えろよ、ああ、そうだ。


「……ふっ、でも手は繋ぎません。出しては取りません。一人で手を差し出してどうしたんですかぁ?」

そうだ、これで拒否をすれば、彼女は手を挙げた変な人だ。


彼女は、自分の挙げている右手を見て、ほんの少し顔を赤くした。

「……中々やるわね。」

それから、余裕そうに笑った。ああ、ダメだ。完全に相手のペースだ。

絶対に、この偽造恋人のやつを終わる前に勝利してやる。……そもそも、勝利って何んだよ。まあ、とりあえずここは撤退だ。


「まあとりあえずコンビニ行きましょう。鈴華さん」

とりあえず、この話から逃げよう。


「そうね、コンビニで時間でも潰しましょ。まあ、別に無駄話でも良いわよ。」


「……」

待って、この話さっき、春野さん姉とした…


「姉から聞いたわよ。私の性格好きなんでしょ。ふふふ」


「僕に味方はいないんですかね。」

ああ、絶対に無理では、勝利とか。


「ええ、そうね。君の周りは全員、敵よ。ふふふ」

彼女は、冗談ぽく笑っていた。

死ぬほど可愛かった。凄いムカついた。


「早く、コンビニ行きましょうね。もう、僕の負けなので」


「そうね。ああ、そうだ。褒めてくれるのは嬉しいわ。でも、直接褒めるべきよ。雀くん」


「…死んでも無理ですよ。他人を褒めるだけでもハードル高いんですよ。それだったら、君も」

人を褒めるとか恥ずかしいから無理だ。


「ふふふ。まあ、そのうちするわ。行きましょう。雀くん」

完全に彼女のペースだった。本当に。まあ、自分から巻き込まれたんだし、自業自得か。

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