ラブラブのフリをしよう編
第10話 打ち合せ
「打ち合わせをしましょう。」
打ち合わせ?金曜日の帰り道、思い出したのか、そう春野さん無表情でこっちを見た。
「日曜日のですか?」
「そう。」
「打ち合わせですか?ああ、服とかどうしよう。」
休みとか基本パジャマだった。
「そうね、制服かしら。」
「ダメでしょ。」
流石に違うことは僕でも分かった。
「流石に分かっているわ。君がそれを分かっていることに驚きだわ」
「僕のこと舐めてますか?」
馬鹿にしすぎだろう。そこまで酷くはない。休日制服デートとかも斬新かもしれないが、制服でわざわざ遊ぶ感じがダサい。なんか休日、制服で遊園地に行って写真を撮ってリア充アピールしてるぐらいダサい。
「ふふふ。」
「おい、まあ。服装はバカップルに聞いてくるので僕は大丈夫ですよ。」
「…なるほど、嫌ですけど。私にも姉に聞くとするわ。」
「それで、何の話でしたっけ?」
「雀じゃなくて鶏くんじゃない。予行練習よ」
僕の記憶は3歩しか持たなかった。
「そもそも、恋人って何?」
「知らないわよ。そんな哲学の答え。でも、私一つ問題点に気が付いたのよ。」
「何?」
「私たち距離取りすぎじゃない?」
僕らは、というか僕は生まれたからずっと物理的にも心理的にもソーシャルディスタンスを続けていた。
「そうですか?僕は誰とでもこのぐらいですけど。」
「バカね。他の人と同じ距離感を取ってたら恋人感でないじゃない。」
「確かに……」
そうか、緩急で見せれば良いのか。
「だから、物理的な距離を近づけましょう。」
「……嫌じゃないんですか?」
一つの疑問だった。僕は、まあ嫌じゃない。
「大丈夫よ。私は君を信頼しているわ」
彼女は、笑顔を浮かべていた。
過度な信頼だった。
「そんな、信頼されるようなことしましたか?」
「逆よ。信頼を失う行為をしていないのよ」
まあ、確かに読書の邪魔はほとんどしてないしな。
「はぁあ」
「それと、とりあえず手を繋ぎましょう。いえ、繋ぐわ。」
彼女は、そう言って、左手を差し出した。
「前も言いましたけど、歩きづらいと思いますよ。」
こけた時に絶対に手をつくのが遅れる。
「……そういう問題じゃないのよ。」
「どういう問題なんですか?」
「そうするものだからよ。情報によると。」
彼女は、左手を伸ばして、僕を睨み上げならそう言った。
「それ、どこ情報なんですか?」
「世間と、ラブコメと少女漫画と恋愛小説よ。」
後半3つの信頼性は無かった。
「1個目以外全部ファンタジーですよ。」
「魔法とかは出てきませんよ。」
彼女は首を傾げた。
「魔法を出すよりファンタジーなことが起きるんですよ。手から炎を出すほうが、いきなりモテだすより信憑性ありますよ。何なら、手から炎は出せる気がします。」
「ふっ。でも、雀くん、普通にラブコメ読んでますよね。」
「文句を言いながら面白いって読むんですよ。」
ありえないでしょ、おかしいだろと散々文句を並べながら結局読むのだ。そんなものだ。
「厄介なクレーマーですね。雀くんは」
「まあ、とりあえず手を繋げばいいんですよね。」
僕は、右手を差し出して、彼女の左手と手を繋いだ。なんか、小学生……これを言ったら怒るのは分かる。
「……ええ、意外とためらいがないのね。」
「まあ。」
嘘だった。
「恥ずかしがれ。」
彼女は、少し微妙に顔を赤くしていた。
「いや、腕相撲するときとか繋ぐから。」
嘘である。
「腕相撲するんですか?雀くんは」
「しないけど。」
冗談は僕の心を落ち付かせるためには必要だった。
「……まあ、帰りましょうか。私は、左足、君は右足からですよ。」
そう言って小さく笑う彼女に
「二人三脚かな?」
そう笑い返した。
繋いでない左手が汗びっしょりだということは、まあいう必要はないだろう。
ただやっぱり、手をつなぐのは、いろいろと心臓に悪い気がした。
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