第9話 木曜日の帰り道
全く何も無かった。何か問題が起きるかも知れないと思っていたが、特に何も起きなかった。まあ、平和なら何よりである。平和なお陰か、ラーメン屋が通学路にあることに気が付いた。ああ、ラーメン食べたい。
「春野さん、良いですか?」
「呼び方」
彼女は、無表情で首を傾げた。ああ、だったよ。
「鈴華さん」
「何かしら」
彼女は小さく笑った。彼女は、上機嫌だった。多分、読書の後だからだろう。
「明日の放課後暇ですか?」
「暇よ。」
「ラーメン食べに行きたいです。」
流石に今からラーメン屋に行くことは無理だろう。でも、ラーメン食べたい気持ちはあった。一人で行く気力は無かった。
「唐突ね。」
「本当は、今、食べたいんですけど。流石に今は無理ですからね。」
「ああ、そう言えば、そこにラーメン屋あるわね。まあ、そうね。今食べたら、夕食で死ぬ未来が見えるわ」
今食べてすぐに夕食がやってくる。
「だから、明日は図書室行かないで、ラーメン行きませんか?それが対価で良いですよ。」
これでルールの対価もクリア出来る。特に思いつかなし、ラーメン屋に付き合ってもらおう。まあ、読書の時間を奪うのだから十分な対価だろう。
「対価?ああ、なるほど、ルールの話ね。私が奢れば良いんですね。」
うん?
「いや、別に、一人でラーメン屋に行く気力はないからついてきてほしいだけですよ。なんか、一人ではいくほどの気力は無くても、人と行けばいけるかなって?」
「ごめん、何を言っているか良く分からないわ。まあ、ラーメン屋に行きたいってことね。それにしても対価安すぎないかしら。」
彼女は無表情は首を傾げた。
「うん?十分ですよ。」
「そう、でも、断るわ、明日は。行くなら休みの日に行きましょう。」
「休日ですか?」
「ええ、それにちょうど、日曜日に私も君を誘いたい場所があったのよ。」
多分、偽造のそれに関係する何かだろう。
「おお、丁度よいですね。」
「ええ。今朝、雀くんが席を外している時間にあの人がやって来て、サッカーの練習試合があるから、雀くんと見に来て欲しいって言っていたのよ。」
やっぱり、成志さんは、何というか脳筋というか強行突破してこようとするよな。僕の目の前で自分の良いところを見せようって魂胆か。馬鹿で、ナルシズムが入っているだけで、悪ではないのか。やっぱり、いろいろしているのは別の人か。じゃあ、誰だよ。ダルう。
「それに行くんですか?行く必要ありますか?」
「あるわよ。ええ、多分あの人は、運動神経の良さを見せつけたいのよ。だから逆に私たちのラブラブ度合いを見せつけましょう。それで、終らせましょう。」
ラブラブ度合いを見せるなんて難しいミッションが発生した。
「分かりました、最大限努力します。でも、疑問なんですけど。練習試合でも出れるんですかね?1年ですよね。」
「レギュラーらしいのよ。なんか、めちゃくちゃ自慢してたわ。」
「凄いですね。」
「ええ、ビックリしたわ。まあ、だからなんだって感じだけどね。」
彼女は無表情だった。
「……」
酷いな春野さんは、いや、こんなもんか。
「だって、そうでしょ。興味ない人がレギュラーだろうが、ハイオクだろうがどうでも良いもの。」
「ガソリンスタンドに来ましたか?」
レギュラーとハイオクの違いが僕には分からなかった。
「それに、運動神経良かったからって別に好きにならないわよ。」
確かに、基準が少ない小学校低学年ならまだしも、判断基準が多くなってきた高校生では、確かに運動神経はまあ、全てではなくなる。
「逆に、どんな人なら好きになるんですか?」
「そうね。うーん。そうね。私の読書を邪魔しないで、それでいて面白い人よ。それと、」
彼女は指を一つ、二つと折りながら話し始めた。条件は止まりそうに無かった。
「条件いくつありますか?」
「108個よ。」
「煩悩の数ですか?……そんな条件を満たすよな人いないんじゃないですか?」
「そうね。いないかもね。逆に雀くんは」
考えたこと無かった。
「……考えておきます。」
「面白回答楽しみにしてるわ。それじゃあ、また明日。」
気が付けば、いつもの公園に辿り着いていた。彼女は小さく笑い、それから小さく手を振りながら、彼女の家の方向に帰っていった。
「では、」
そう小さく言って僕も小さく手を振り替えした。
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