第8話 探偵?2
「図書室ってホワイトボードあったんですね。」
放課後、図書室を貸し切っていた。図書室の僕らが座った場所の近くに、移動出来るそれなりの大きさのホワイトボードを春野さんは運んできた。
「ええ、それと真面目な君に先に教えてあげるわ。今日は放課後の図書室の貸し出し日じゃ無いから、部屋を閉じてても問題無いわ。」
彼女は、そう言うとホワイトボード用のマーカーを持ってきた。
「そうなんですね。」
「本題に入りましょう。ねえ、雀くん。」
「何ですか?」
「私君の彼女を名乗る人物にあったんだけど。」
「何処で?」
「男子の君が行けない場所よ。」
なるほど。
「……それで、誰だったんですか?」
「それが、私の中学の同級生だったのよ。知らないわよね、中学校違うし。」
「うん知りませんよ。それは、噂を伝えて来た人ですか?」
「違うわよ。他の中学の同級生よ。まあ、そうね。私中学時代にいろいろあったのよ。」
彼女は、少し申し訳なさそうに小さく呟いた。
「聞いても良いですか?」
「そうね。簡単に説明すると中学時代に恨みを買ったのよ。」
「恨みをですか。」
「まあ説明は面倒だから細かくはしないけど、これだけは言えるわ。逆恨みよ。私、ある人物の告白を断ったのよ。」
ああ、似たような状況。
「それってつまり」
「ええ、君は二つの出来事に巻き込まれてるわ。多分、こう言うことね。」
そう言うと彼女はホワイトボードに背伸びをしながら書き始めた。足がプルプル震えていた。
『私が告白される』
↓
『断る為に嘘をついて君と付き合っている事になる』
↓
『私に彼氏がいる事を知って、逆恨みしている人がそれを壊そうとする』
↓
『君が二股しているって事にして私を絶望させようとする』←今ここ
↓
『君の二股の噂が広がり、あの人が多分君と私の前にやってくる』←次の予想
綺麗な字で状況を書き並べてくれた。捜査会議の感じが出ていた。
「なんか、唐突にミステリーが始まりましたね。」
「捜査会議よ。」
同じこと思ってたし。
そうか……うん?
「いや、これ、一つ不思議じゃ無いですか?」
「不思議?何がかしら?」
「情報が出回るの早すぎませんか?数え方によりますけど、2日目、もしくは3日目ですよ。」
短期間でいろいろ起きすぎだと思う。成志さんから、他のクラスの知らない女子に情報が伝わるのが速すぎる。まるで、誰かが伝えたみたいな速さだ。
「確かに、そうね。あのうるさい人が誰かに言ったとしても、違うクラスの私の同級生に伝わるの速すぎるわね。それからの行動も速すぎるわ。」
それだけじゃない。
「それに、君を落としたいだけなら、僕に君のデマを吹き込むほうが良くないですか?いや、僕の評判もどうして落とされるんですかね。まるでそれも誰かの目的みたいですよね。」
「つまり。もしかしたら3つの出来事が起きてるかもってことですか?」
「そうです。つまり」
僕は彼女からペンを受け取り、ホワイトボードに書き始めた。
『事件1 春野 鈴華 告白断るために彼氏偽装事件』
『事件2 春野 鈴華 逆恨みされてる事件』
『事件3 天野 雀 なんか恨まれてるかも事件』
つまり、僕が二股している疑惑は、春野さん僕だけでなくて僕も嫌がらせの対象なのではないか。
「それで、心あたりはあるの?恨まれてる」
「ないですよ。僕好かれても嫌われてもないと思うんですけどね。」
全く無かった。いや、僕を嫌っている人がいても、ここまでされる覚えはない。
「そうね、雀くんは喋らなければ無害ですもんね。」
「それ、喋ったら有害みたいな言い方ですね。」
「ふふ」
春野さんは小さく笑った。
「ふふ、じゃないですよ。」
「まあ、でも、誰か分からないの犯人ホームズ君。」
「僕が探偵役ですか?いや、分からないですよ。ミステリーだったら犯人は既に出てますけど、ミステリーじゃないですからね。」
「めんどくさいわね」
本当に、面倒だった。
「とりあえず、本でも読みましょう。」
考えることをやめることにした。
「そうね、考えてもどうせ分からないわ。その前にホワイトボードを消して、手を洗いましょう。」
そう言うと春野さんは、背伸びをしながらホワイトボードを消し始めた。足がプルプル震えていた。
「……持ち上げましょうか?それとも上は僕が消しましょうか?」
その様子を見て思わずそんなことを言ってしまった。
彼女は背伸びをやめてこっちを見てニコッと笑い
「全部消してね。」
そう言って、僕にホワイトボードを消す道具を渡して、手を洗いに図書室の外に向かって行った。
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