第4話 弁当1
「教室ざわついてたわ。」
昼休み、中庭の目立たないベンチで、春野さんと並びながら弁当を食べていた。
「……絶対に君のせいなんですけどね。」
教室から抜け出してここにいたのには理由があった。教室で騒ぎが起きた。正確に言えば騒ぎを起こしてしまった。
「可笑しいですね。私の行動は完璧だったわ。」
彼女は小さく笑った。彼女は割と冗談が好きなのだろう。よく冗談を言って小さく笑っていた。
「……ちょっとこの状況を楽しんでますよね。」
「えっ、それは君もでしょ。」
まあ、否定は、出来なかった。
「……『ダーリーン、お昼ご飯一緒に食べましょう』って何ですか?それも無表情で、普通に言えば良かったじゃないですか。」
昼休みなったときに、春野さんは、僕の席にやって来てまあまあ大きな声でそう言った。
「でも、君も、『分かったよ。マイスイートハニー』ってひと昔、ふた昔前のモテてるって勘違いしているキザ男ですか?」
いや、だってそっちのほうが面白そうだったし、目の前で一人の人物が地獄に行く光景を見るぐらいだったら、一緒に地獄に行く方がマシだと思う。
「……いや、なんか面白いかなって」
「ふっ、まあ良いわよ。良いアピールになったから。後悔はないわ。」
僕らが付き合っているっていう印象は確かに滅茶苦茶付けれたと思う。でも、犠牲にしたものが大きすぎる。もう荷台で彼女と登校しても大丈夫かも知れない。
「僕は後悔してますけどね。携帯に友人から大量に連絡が届いてます。」
「読み上げましょう。天野くん」
彼女は小さく笑った。
「悪魔ですか?」
「天使です。」
見た目は天使だった。いや、悪魔でも良いのか?どっちでもいいか。
「嫌ですよ。」
「……ちょっと待ってくださいね。ゴホン、えっと、ふう。私に見せられないものでもあるんですか?」
彼女は無表情でそう小さく笑っていた。
「ふっ。」
笑ってしまった。
「どう?それっぽい感じじゃない?」
「ポイですね。見ますか?」
面白かったので、来たメッセージを見せることにした。
「結局見せるのね。」
『どうした?悪魔に魂でも売ったのか?
それとも、脅してるの?
君の性格って終わってるのに、どうして?』
そう書かれていた、友人からのメッセージを見せた。
「こんな感じですよ。」
「本当に友達なの?」
「まあ、友達だと思いますよ。正面から悪口言い合えるのは、友達じゃないですか?」
「Mなの?」
彼女は無表情でそう笑った。
「違いますよ。まあ、僕も悪口言い返しますし。」
「そうなのね。私は友達がいないから分からないわ。意外と友達多いのね。」
「まあ、僕も親しいのは、幼馴染とこいつだけですよ。それに、こいつ幼馴染と付き合ってるから狭い範囲の人間関係なので。あてにはならないですよ。」
「……幼馴染いるの?」
「うん。」
「幼馴染には、彼氏がいるのね。修羅場チャンスは無いのね。」
修羅場チャンスって何?彼女はやはりなんか、この状況を楽しんでいた。
「無いですけど。やっぱりこの状況楽しんでますよね。」
「ええ、気が付いたのよ。どうせなら楽しもうと。」
それは、そうか。まあ、うん。それなら、あの人と付き合っても問題無い気もするけど、それも違うのか。
「そうですか。仮に修羅場になったとして、修羅場って楽しいんですか?」
「絶対に楽しく無いわよ。」
「……変な人ですね。」
「鏡見ます?まあでも君は勘違い修羅場に巻き込まれるかも知れないわよ。」
「……えっ。」
「さっき、『君に他に彼女がいる』って聞いたのよ。いないわよね」
なるほど成志さんは、天野って最低なやつでしょ作戦を行うらしい。
「……いる奴が、これに付き合うわけ無いですよね。」
「だよね。まあ、ガンバ。」
彼女は、笑顔でファイトポーズを決めた。
「ねえ、成志さんのことどのぐらい知ってますか?」
「何?急に。ほとんど知らないわよ。」
「いや、何でここまでするのかなって」
「ああ、そうね。不思議ね。じゃあ、放課後探偵でもしましょう。」
「……まあ、良いですよ。どうせ暇なので、でも読書は良いんですか?」
「少し検討するわ」
春野さんは、そう言うと無言で弁当を食べ始めた。小動物感が凄かった。
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