第3話 登校1

「おはよう。天野くん」

朝、集合場所の公園に着くとブランコに座りながら本を読んでいる春野さんがいた。


「おはようございます。」


「遅かったわね。」

彼女は、本を閉じて、そう小さく笑っていた。時間ピッタリについていたので飛んだクレーマーだった。


「時間通りですけど。」


「時間より30時間前に来るものよ。」

無表情で彼女は、そう言った、昨日の放課後公園に来てても遅刻だった。


「30分前とかじゃなくて?」


「まあ、冗談は置いて置いて、行きましょう。」

彼女は、本を鞄に入れて、伸びをしていた。それから、ブランコから降りて、こちらに来て歩き始めた。だから僕はその横を一定の距離を保ちながら歩き始めた。


「流石に登校しながら読書はしないんですね。」

普段の彼女は休み時間も授業中以外はいつでも読書をしていた。

だから、もしかしたら、歩きスマホならぬ、歩き読書。リアル二宮金次郎スタイルなの可能性があるのではと考えていた。


「危険ですもん。本当は読みたいですけど。それと荷台じゃ無くて台車だと思うわ。」

流石に常識を有していた。そっか、安全に登校しながら読書する方法か。確かに台車だ。


「……伝わってるからもう荷台で良いんですよ。……明日荷台でも持ってくるので、それに乗りますか?」


「そう、まあ荷台でもう良いけど。それでどういうこと?頭おかしいの?」

彼女は無表情に首を傾げなら、そう言った。辛辣だった。


「だから、君が荷台に乗って本を読む。僕はその荷台を押して学校まで行く。そしたら、君は本を読みながら登校出来ますよ。」

我ながら、頭の悪い発想だと思う。こんなの面白い以外の生産性が何もない。むしろ評判を大量に消費するだろう。


「ふっ、そう言うことね。確かに読書は安全に出来るかも知れないわね。でもそれいろいろと捨てすぎじゃない?」


「でも、これをしたら、登校中に読書を出来ることと、それに加えて周囲のドン引きが得ることが出来るので、一発で成志さんは諦めると思いますよ。」

言ってから気が付いたが、この春野さんの問題を一発で解決できる妙案だったのかも知れない。いや、違うけどね。


「流石に嫌よ。社会的に終わりを迎えたくはないわ。でも改善案を思いついたわよ。」


「……この流れで良い案が浮かぶことなんてないでしょ。」


「まだ、私をドナドナしている光景よりマシな案よ。」


「マシの時点で、もういろいろお察しなんですけど。」


「人力車で行きましょう。」

人力車か。なるほど、確かに人を運んでいる感は増すだろう。


「えっ、僕を見て人力車行けるって思ったんですか?」

ただ、圧倒的に問題があった。荷台なら押して運ぶのに力はそこまで必要ないが、人力車は多分力が必要だ。いや人力車引いたことないから分からないけど。でも、僕には無理だ。そんな力は無い。


「大丈夫よ、私軽いから。そろそろくだらない話は終わりにしましょう。」


彼女は唐突に話を打ち切ろうとした。

「……待ってください。」


「何?他に良い案でもあるの?」


そう言うことではない。

「いや、違いますけど。この話止めるたら何を話せば良いんですか?」

この無駄話は、会話を続ける上で生命線だった。


「……確かにそれも、そうね。続けましょう。」


ただ、もう一つ問題があった。

「まあ、そう言っても僕には、登校しながら本を読む案なんてありませんよ。」

だから、結局この話は終わるのだ。


「そうね。まあ、登校中は本を読むのは我慢するわ。その代わり、面白い話をしてください。」

彼女は無表情で悪魔のようなことを言った。


「えっ、それ一番困る奴じゃないですか。面白い話ってハードル上げられたら出来ないですよ。」


「じゃあ、面白くない話してください。これならいけますね。」


「そういう事じゃないんですよ。」

話せって言われて話したら大体つまらなくなる。


「仕方ないですね。面白くなくても良いので、なんか話してください。」

彼女は小さく笑った。


「なんかですか。そうですね。お勧めの本とかありますか?」


「……そうね。あるわよ。明日持ってくるわ。」


「良いんですか?」


「ええ、良いけど。うん…ああ、本を汚したら明日がないと思いなさい。」


「借りたくないんですけど。」

ふっ…怖すぎるだろ。


「冗談よ。でも、丁寧に扱って下さいね。」


「まあ、流石に人のものなので」

まあ、それで会話が止まったが…まあ放課後はもう少し頑張ろうと思う。

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