第5話 犯人と娘

 「止まれ!」

私は博士の足付近の地面に弾を撃ち込む。

「いやぁぁ!許してくれ!頼む、俺には娘がいるんだ!」

「娘?」

 ハーゼル博士に娘なんて居たか?紅知さんから貰ったハーゼル博士の事前情報を見た感じ結婚履歴のない独身だったはずなんだが。

 「俺の大事な娘なんだ……あの子は繊細ですぐ壊れてしまうから…」

ハーゼル博士は泣きながら私にそう訴えた。

 「隊長、どうしますか」

「……博士を捕獲しろ。連絡を皆にしてくれ集合場所に行くぞ」

「はっ!」

「嫌だ!待ってくれ、娘がまだ………」

私は博士の言葉を無視して隊員に博士を捕獲させた。まずは皆に報告だ。


 「んで?博士を連れてきたってわけか」

「それで博士、あの時君は改心したと言っていたはずだ。何故こんな事をまた繰り返すのカナ?」

「俺は、やりたくなかったんだ!娘が人質に…」

「さっきからその娘ってのは誰なんだよ」

博士を尋問するノイさんは少し怒っているように見えた。確かに前の事件では博士は改心して我々政府の為に働いていた、だが何時の間にか博士は脱走し今回の事件を起こしていた。

 「娘は…俺の大事な大事な子供なんだ。たった一人の家族なんだよ」

「精神が崩壊してきてる。娘の話を聞くのは無理っぽいネ」

「……娘」

「どうした紫柏、何かわかったか?」

 私の中で何かが引っ掛かった。

 「博士、その子の場所って何処?」

「地下の実験室だ。あの子は今も一人なんだ」

実験室か…なら私の予想は合っているだろう。

 私の考えはこれだ。娘が研究者から見ての家族というものなら博士の言っている娘とはきっと実験体の事だ。壊れると言っていた博士の言葉に私は急がなければ行けない気がした。

 「ちょっと紫柏君!?」

「待てよ紫柏!」

私は思い立ったが故に地下に走り出した。マップは貰ってあるから迷うことはない…後は時間の問題だ。

 「姐さんや功次君、あれは紫柏ちゃんに任せヨウ」

「だけど!」

「紫柏ちゃんだって時には活躍したいだろう。それにあの子なら上手くやれるだろうカラ」

 後ろからの声に私は責任感を感じた。でも、始めたのは自分だ、最後までやりきらなくては…


 私は地下室の前まで辿り着いた。

 埃っぽいな…こんな所で研究してたのか。って、扉に鍵かかってるじゃないか!おいおいこれだと入れないぞ。こじ開けるか?でもなあ…仕方無い、ここは苦手な爆弾でこじ開けるしか無い。

 「設置完了……………うわぁぁ!マジで怖いこれ」

 私は設置型爆弾に怯えながらも起動ボタンを押す。

 大きな音がし、隣で物が落ちた音がした。

 いけたか?これで開いた?私はゆっくりと目を開くと横には落ちた扉があった。

 良く見たらこれ鉄じゃないか、本当に厳重なんだな。まるで牢獄みたいな感じだ。ここでずっと研究をしていたのかな…

 私は研究室へと歩いて行くと、目を疑うものがあった。

 それは中身が出ている薬品とガラスの破片だらけの部屋だった。その中で最も目を奪われたのはぬいぐるみを持ったゴスロリの少女だ。彼女の口は縫われており笑顔を強制されているような感じがした。

 『んー?お父さん…来てくれたの?』

「…私は君のお父さんじゃない」

彼女の口は開かず、抱きかかえているクマの人形が喋るように身振り手振りをする。

ただ、喋る言葉は少女が思っている事そのものだった。

 『お客さんだったんだね。私の名前はシャーロットだよ』

「こんにちは、私は…」

『知ってるよ紫柏さんでしょ?お父さんが話してたの』

彼女は令嬢の挨拶の様に礼儀正しくお辞儀をし私も返そうとすると言葉を遮り言う。

 私は彼女の目を見て話そうとするが、彼女の目を見ると頭がおかしくなるように激しい目眩が私を襲ってきた。

 頭が…まるで考えることを妨げるように頭痛が来る。うぅ、気持ち悪い…目眩と頭痛…こんなにも体調が悪くなるなんて彼女の仕業か。

『お父さんね、私の事構ってくれなくなったの。それも全部貴方達のせい。貴方達がお父さんを沢山困らせるから、私の『家族』を壊すから』

「私等だってしたくてしてるわけじゃないんだ。出来るのなら壊したく無い。きっとあの量を作るのは大変だと思うからさ。でも私等は上には逆らえない、政府は私等下のことなんか考えていないから」

『それなら上を壊せばいいじゃないの、そうしたらお姉ちゃん達は私達の『家族』を傷付けなくて良いでしょ?』

彼女は手を合わせ名案!と言うように私に微笑んだ。

 政府には逆らえない、いいや逆らえたのかもしれない。でも私の一存で桜瀬さん達に迷惑をかける訳にはいかないんだ。

『…その感じ、駄目なんだね?なら私が壊して上げる!私ね!色んな人と喋りたいの、こんな狭い世界じゃなくて外の大きい世界で私の知らない感情というのを見てみたいんだ!』

口が変わらずとも目を見ればわかる、光のなかった彼女の目に少し光が灯ったように見えた。

 同時に私には彼女を止めなくてはいけない気がした。博士の言っていた壊れると言うのはこういうことなのか?彼女というより、世界が壊れるように見えるな。

 「ごめんけど、私は貴方を止めなくてはいけない。私の言う通りにすればお父さんと一緒にいれるから」

『お姉ちゃんも邪魔をするの?私は遊びたいの、皆と笑ってみたいの。お父さんと一緒じゃない!お父さんだって私が外に行こうとすると駄目だって言ってたもの!』

彼女が頭を抱えながらそう言うと、周りの空気が重くなった。息がしづらく声が出なかった。

『お父さんがね私が外に出たらきっと虐められちゃうって言ったの。私が周りの皆と違うから皆が持ってないものを私が持っているからって』

「違う!貴方のお父さんは貴方を心配してそう言ったのよ邪魔をしているんじゃない。貴方が大事だからよ!」

私は声が上手く出ない中、精一杯声を出して彼女に近付こうとする。でも、彼女の周りには何かが張ってあるように近付けなかった。

 彼女の様態が落ち着くと立ち上がり、そして彼女は私に攻撃を仕掛けてきた。

何だこのリボン…地面に刺さっているな。リボンが地面に刺さり天井へと張り巡らされていた。避けれたから良かったけど当たったら貫通してたかな…攻撃されたのなら仕返しても良い、私は銃を手に取り大きな声で言う。

 「これよりSCC隊の紫柏は敵の討伐へと移る!敵はシャーロット一人!」

私は無線機を起動し部隊の皆に伝える。

 私だってやれるんだ。一人でも出来るってことを証明しなくては………

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