第56話 アトラントローパ
悪いけど、逃がすつもりなんてない。マリーは根負けしたのかな?
こっちから視線をそらしながらぼそぼそと話す。
「よくわからないです」
「わかる範囲で構いません。物資を受け取ったという事があったという事ですよね。顔つき、言語、声。なんでも構わないです。教えてください」
「その人のことは、本当によくわからないです。お金しか興味もないし、全く知りません」
「じゃあ、次その人と取引するところを遠目から観察します。何度も取引してるんですから、次もあるはずですよね」
「言葉は──北方系の言葉です。フードをかぶって正体はわかりませんが、男の人です」
嫌々なのが態度からもにじみ出ているが、少しずつ状況を説明し始めた。多分、相手もこいつが捕まるのは理解してたと思う。だからフードをかぶっていたし、あまり情報を話さなかったのだろう。
「でも、取引の場所は毎回バラバラなんです。」
「あとで覚えている範囲でいいので教えてください。あと、その場所はどうやって知ることができるんですか?」
その言葉に、女の子はうろたえた後ポケットから嫌そうに何かを出してきた。
「紙──?」
マリーが見せてきたのは手のひらサイズの1枚の紙きれ。しわがあって、ちょっと拒んでいる。そして、薄い色の見たことがない幾何学模様がある不思議な紙。何これ。
「これ、旧神の印と呼ばれるものです」
マリーが目を伏せて言葉を返してくる。
「どんなものなの?」
話によると、カラチャイ山で採れる木から作られた特殊な紙だとか。
「2枚1組になっていて、1組が書いた文字が、もう片方の紙に浮かんでくる」
これに、相手が書いた文字が浮かんでくるってことね。簡単な単語しか書けないらしく、時間と場所が浮かんできて、その場所に行くように指示されているのだとか。
「じゃあ、次回やり取りを行う場合教えてください。同行します。それまでは、いろいろ事情聴取を受けてもらいます、いいですね」
そう言ってマリーのシャツの裾をつかんだ。観念したのか、特に抵抗するそぶりはない。
「わかりました」
「拠点のような場所もあるはずよね。案内してほしいな」
「それは、かまいません」
「あなたは──貧困層の生まれで善悪もつかないまま売人をやらされていたという事情もあります。協力してくれれば、罪は軽くします。だから、事情をしっかり話していただけないですか?」
マリーはしばらく黙りこくった後、目を伏せて言った。
「わかった。全部教える」
「ありがとう。感謝するわ」
粘り強い交渉の結果、何とか前回取引した場所を教えてもらった。
場所は、ここからずっと北にあるシュトローネスをさらに北へと進んだアラルという場所。
世界でも有数の湖、アラル湖のほとりにある町。
えっ? 国境超えてるじゃない。
「そこの廃墟で、取引した」
「了解」
それから、次の場所を教えてもらうまで身柄はこっちで拘束することとなった。これで、次取引する場所まで一緒に行ける。
さっきとやることは一緒。彼女に実際に取引をしてもらう。そして現場を見て捕まえる。
今度は国の外に出るのね。
それから、おばあさんは薬物のことは知らなかったらしい。試しに見せや家の中を軽く調べたけど、それらしいものはなかった。
「とりあえず、ここでやれることはもうなさそうね」
「じゃあ、ここを去りましょ」
「そうですね。後は彼女の旧神の印待ちですね」
そうね。こればかりはどうすることもできない。次がいつになるかは全く分からないけど、どこかで出で来るだろう。それまでの辛抱だ。
おばさんが、大きくあくびをする。そういえば夜遅くだったわね。ここも捜査の手が入るとは思うけど、問題はなさそう。
そして、私たちはこの場を去っていった。こうした売買は、マリー以外にもやってそうね。もう少し街の見回りとかを増やす必要があるわね。
それから、色々街のことを見回りをしたり、マリーに対して色々と取り調べとかをしていた。
故郷に、家族がいるみたい。貧しい村で自分の稼ぎが収入源になっているとか。村全体が貧しいと、外とのやり取りが収入源になるというのはよくある。
そして一週間後、旧神の印に文字が刻まれた。そこの場所は──アトラントローパ。
魔王軍が人工的に作り上げた街、シュトローネスよりさらに北にある、ステップ気候の草原の中にある街。
他国の領地に入る、長旅になることがわかった。それも寒い土地と言われる場所。防寒具や保存食などの準備をしっかりしないと。それから、偽造した身分証の作成に馬車の手配とかも。
数日掛けて準備をして、私達2人はローラシアを出発した。
草原地帯を進んでから地平線まで広がる荒野を進んでいく。荒野のあたりでローラシア王国の国境線となる。ここからは魔王軍の土地。緊張が走る。
短い草木が生い茂る草原が広がるステップ気候を抜けた。
色々な亜人や、異民族の人たちともであった。ヤギのチーズをご馳走になったり、ゲルと呼ばれる円形の移動式のテントで泊まらせてもらったり。
そして、数日ほど北へ道を進んでたどり着いた。
「ここが、前回取引した場所ですね?」
「は、はい」
たどり着いたのは、アラル湖というかつては世界でも4番目に大きいと呼ばれていた湖。
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