第57話 旅での会話
しかし、魔王軍たちはこの地に各地から奴隷たちを集め大規模な食糧生産を命じた。それによる過剰な水の使用によりたちまち湖は干上がり、湖の塩分濃度が跳ね上がって生き物が住めない死の湖となった。
漁業で生計を立てていた村人たちは村を捨てることを強要され、全く別の地方や大都市で強制労働を強いられることとなる。
また、自分たちの失態で処罰されるのを恐れた貴族たちは奴隷たちが自分たちの命令に逆らったためと主張。事情を知らない人間は贈賄があったこともあり、食糧を生産するために強制的に集められた奴隷たちの処罰を決定。死刑または極寒の地で過酷な強制労働が課せられたのこと。
事情を無視した無謀ともいえるやり方。人権無視、環境破壊。まさに悪魔という言葉がぴったり。
朽ち果てた港だった場所の近く、その先には、かつては湖だったのだろう──干からびた湖の跡地に古びた小舟が何隻も捨てられている。廃墟となった村の倒壊した家屋が連なる場所から見つめる。
「魔王軍の土地では、このような場所が多くあったわね」
「わかるわかる」
魔王軍──支配体制は一言で言うと上意下達。
魔王様の行いこそが絶対的な正義であり、意見は許されない。そして、魔王様の言葉通りに実行しなければ「国家反逆罪」で処分されるため、どんなに無茶苦茶な考えでも実行しなければならなかった。
そして、世界の3割を占領しているともいえる彼らが現地の事情をすべて理解してるはずがない。
人工的に現地の人を移動させたり、街を作ったり。それだけでなく食料生産のために水源の限界を超えた農業を無人地帯の荒野で行ったり。
勢力を拡大していく魔王軍が、周辺諸国に自らの力を見せつけるため。あるいは独裁的な幹部たちが思い付きで強制させ、失敗すれば厳罰で処刑や極寒の地での強制労働になることを知っていた幹部たちが周囲への影響を顧みずに各地で行った。
結果は、悲惨ともいえるありさま。人工的な人の移動で各地で移民問題が発生。
連れてこられた亜人と現地の人の争いが頻発。新しい街では、宮殿など派手で外受けが良いものばかりにリソースを注ぎ、食糧や衛生問題は軽視された。
そのため、水質汚染の深刻化による感染症の蔓延。食糧不足による飢餓の多発。
それでも、国民たちの声は特権階級と化していた政府の声は届くことはなく、民衆は貧困にあえぐ結果となった。
この先にも、強権によって無謀な開発や都市計画を行った結果このような末路をたどった町は数知れず。それが、マリーのような存在を生み出している原因でもある。
そしてこの廃墟。確かに人目にはつかなそうだし、取引にうってつけな場所だ。
そこまで急いでいる旅路じゃない。約束の時間までは余裕がある。
「取引した場所、教えてもらえるかしら?」
「わかりました」
私達はマリーに先導されて廃墟を歩く。どれも傾いていたり、中には倒壊していたり。周囲を見回すが、人の気配は全くない。
少し廃墟となった村を歩いて、道を曲がると古びた小屋の前でマリーが立ち止まった。
「この中です」
仕事を失い、この場所を去らなければならなくなった人が住んでいたのだろう。
木でできた、埃被っている小舟に漁に使っていたであろう網。壊れた船や、何かに使っていたであろう小道具などがごちゃごちゃと散乱している。その奥に、暗くて開けた場所があった。
「ここです。夜に、周囲に人がいないことを確認してからいろいろな物を取引していました」
「確かに、色々なものを取引できそうね。人気もまったくない場所だし」
「真っ暗で、建物に入らないとよく見えないものね」
ちなみに、ガラクタを少しあさってみると大きな布袋に白い粉。何かはだいたい察しが付く。取引に使うつもりだったのだろう。持っていると捕まりそうだから湖に捨てよう。
特に用事はないし、目的地に行こうか。
かつて栄えたが、今は誰もいない村。生活基盤を失った彼らはどうなっているのか──。そんな感情を抱きながらこの場所を後にする。
村を後にした後は、地平線まで続く草原地帯。広大な景色に、思わず見入ってしまう。
「素敵な風景よね」
「うん」
本当に360度地平線まで何もない。
たまに、遊牧民族の人たちを見かけるくらい。その時は、軽く手を振って挨拶をする。
「こんにちは~~」
白い服を着た遊牧民の人たちは、ミシェウのにこやかな笑顔にご機嫌そうに手を振って対応する。私は──無表情のままだったからあまり反応されなかった。どうせ私は、無愛想ですよ。
それから、また草原地帯。私は、大自然って感じで結構好きかな。
けど、ミシェウは風景に飽きてきたのか、私やマリーにちょっかい掛けてきた。
「シャマシュのほっぺ、あったか~~い」
「ちょっと、頬を擦り付けるのはやめてください!」
ニコニコしながら、じゃれあってきたり。からかって耳に息を掛けてきたり。変な喘ぎ声出しちゃったじゃない。
「もう、こんなところでしないでくださいよ」
「こんなところじゃなかったらいいの?」
ミシェウの言葉に、かぁっと顔が赤くなる。もう、こんなところで言わないでよ。他の人たちに聞こえてるじゃない
バシィィン!!
思いっきりミシェウの背中を叩いた。
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