第55話 白い薬
おばさんの元に戻って、みんなが女の人に視線が集中する中ゆっくりと荷物を開けていく。
まずは大きいものから。どこの物かわからない人形と、変わった形状をしている食器類。その他諸々。
全部出させたけど、違法と呼ばれるまでのものは見つからない。北方から来たことはわかったけど。
これらも出所を聞いてみたいけど……もっと珍しいものとかないかしら。それとも、本当に珍しいものを売りつけているだけなのか……。
「ちょっと、いいですか?」
ロザリアが隣にやってくる。
「何?」
「こういう商人によくあるのが、袋自体に細工が施してある場合です」
「聞いたことがある。薬物の取り締まりの人から、カバンとか身に着けている物に隠し場所があって、そこに違法な薬物を仕込んでいるって」
考えられないわけじゃない。さっきまでの食品は、面白そうではあるが高額で取引をするには物足りない。移動費を考えるとこれでは利益が出ているとは考えられない。これらは何か言われたときに説明するためのもので、本当の目的は別にあるのだろうか。
ちらりと女の人に視線を向ける。ピクリと額が動いたのを見逃さなかった。やっぱり何かありそう。
もう一度麻の袋をまさぐる。心理的に、一番下の方に細工を仕掛けようとする可能性が高い。こういうのはバレたくないから入り口から遠い方に細工をしがち。よく調べてみてわかった。
これ、2重になってるかも。
一番下の部分、継ぎ目だったから気付かなかったけど、そこを良く探ると袋が2重になっていて隠し場所のような空間があった。そこに腕を伸ばして、何かないか探って──何かを見つけた。小さくて、布袋に入っている柔らかい物体。複数あるみたい、一つ取り出してみよう。
茶色の布袋の紐を解いて、開けて確認。女の人にも見せないと。
「これ、あなたのカバンの隠し場所にありました」
「えっ? マジ??」
ミシェウが見せたものにびっくりして一歩引いた。それは無理もないそこにあったもの何を隠そう白い粉──。くんくん、匂いは──特にないか。この人から聞かないと……ごくりと息をのんで、じっと見つめて質問。
「これ何ですか?」
女の人は答えない。ふてくされているかのように、こっちから目をそらしている。
「言わないなら、あなたと、あなたの親族に飲ませます。それで医者に判断させます。嫌なら正直に伝えてください」
「あまり乱暴なことはしたくないけど、放っておくわけにはいかない。そうなりたくなかったら、ちゃんとこれは何か、あなたの口から教えて欲しいな」
ミシェウが優しい笑みを女の子に向ける。女の子は、観念したのか安心したのか言葉を返す。
「そ、それは……エイボンです」
エイボン──麻薬に近い、違法とされる薬物。口にすると精神の高揚、幻覚、感情の興奮など麻薬やコカインに近い系統の法律で禁止されている薬物。
これで黒確定ね。ここで販売しているのか──それともここでの売買は理由付けで他の場所で取引を行っているのか。
「これで、あなたが罪人であることは確定しました。
「ちょっと、聞きたいことがあります。よろしいですか?」
「どうぞ」
ロザリアの質問に女の人は、不満そうに顔を膨らませて、そっぽを向いた。
「まず、名前教えてください」
顔を膨らませて、そっぽを向いた。
プイっと顔を向けた時にかぶっていたフードが取れる。
そう言えば、毛耳が付いてる。亜人だったんだ、彼女。
「そういえば、名前教えてください」
「マリーといいます」
「マリーね、これからよろしく」
良かった、名前が知れて。薬物のことは、あまり外で聞きたくはないかな。変な噂されたくないし取り調べの部屋で聞こう。まずはどこから来たからかな。
「これは、どこの地方の物なんですか? 見たことがない小物類に食器」
「……」
質問をしても、マリーは黙りこくったまま答えない。視線を左上に向けたまま何か考えているのだろうか。
「黙っていればこっちが諦めると思ったなら大間違いです」
険しい表情。さっきから断片的で最小限の事しか言わないことから、本当は言いたくないんだというのがわかる。でも、逃がすつもりなんてないから。ミシェウが引いてるけど、気に留めたりしない。
逃げても、最後まで質問し続ける。
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