第23話 アルルの庭園

 私達は、王都の城壁を抜けて、郊外の草原をしばらく馬車で行く。

 そして、道の前方に見えてきた。


「あの宮殿じゃない?」


「そうですね」


 街を外れて、草原が広がるナント平野。しばらく馬に乗って道を進むと、山際にある白亜の城壁が視界に入る。


「初めて見る宮殿ですね」


 今日は、アルルの家で占星術の研究。

 ミシェウが突然言い出したのだ。


「この先、戦いが多くなりそうだから占星術の研究を進めたい」


 占星術は、この前知り合ったアルルと一緒に研究を進めている。話を聞くと、ホーネルカーの作戦の前にミシェウの占星術の研究を少しでもしておきたいとのことだ。



 私にとっても、ミシェウの力が強くなることはうれしいことだし反対する理由はない。コクリとうなづいて、一緒についていった。この先、アルルの力も借りていきたいし進行も深めておきたい。


 それからも、ミシェウは今までのアルルとの関わりについて楽しく話す。


 何でも、彼女は吸血鬼らしく何百年も生きてきた。その長い寿命の中で、禁断の様々な魔術の研究をしてきたとか。


 まあ、アルルは変わり者だって聞いていた。この前訪れた変な場所だったり、怪しい研究を続けていたり、他人とのかかわりが少ないミステリアスな雰囲気をしていたり。しかし、名前を知っていた程度で彼女の素性や詳しいことは初めて知ったという感じだ。


 そんなことを話していると、私たちはアルルの住んでいる宮殿へとたどり着いた。


 草原地帯の先にあった山のふもとにそびえ立つのは、頭のおかしい吸血鬼に相応しい、白い石積みの壁に囲まれた立派で美しい宮殿。明らかに自分が訪れたことのない場所であることを感じながら、その宮殿に近づいていく。



 入り口に近づくと、一瞬灰色の城門が光る。ミシェウによると、人が接近すると城門が反応して光を見せるらしい。そして、アルルにもそれが伝って彼女がこっちへ来るらしい。言葉通り、すぐに城門が開いてアルルが顔を見せてきた。


「こんにちは、入って」


「こんにちは。じゃあお邪魔しま~~す」


 門が開かれると、圧巻の景色がその全貌を現す。というか、独特な庭園という印象ね。広大な庭、芝生には千輪の花が咲き、果樹園には珍しい果実がぶら下がっていた。

 チューリップやバラなどの華やかな花が輝き、美しさに魅了される。こんな庭園初めて見た。


「シャマシュ、珍しい?」


「少なくとも、初めて見る景色がちらほら。普通の庭でないことは一目でわかるわ」


「わかる。不思議な雰囲気! なんていうか、見たことがない植物や花とか、装置が並んでいる。


「本当に神秘的で、すごいですね」


「ありがとう。私の故郷の花や植物を持ってきて生やしているわ」



「へぇ~~っ。アルルの故郷ってこんなんなんだ~~」


 そこから、樹齢百年を超えるらしい古木が立ち並んだ後、果物が実っている場所へ。黄色く、星の形をした果物が実っている。初めて見たわ、きれいね……。


「そうだおもてなし。それ食べられるわ。1個どうぞ」


「えーいいの? ありがとう」


「初めて見る果物ですね、いただきます」



 素敵な庭園にいる喜びに満たされながら、果物を一つもぎ取って口に入れる。甘酸っぱくて、みずみずしさがあっておいしい。思わず笑みがこぼれる。


「あっ、これ甘くておいしいですね」


「うん、もし良かったら領地で栽培したい。お金出すから種買っていい?」

 ミシェウが嬉しそうに言う。栽培って……。


「誰が管理するのよ」


「農家の人に試食してもらって、安く種を売るっていうのはどう? 絶対買い手がつくと思う」


「それはいいかもしれないわ」


「いいわね。研究資金にしておきましょうか」


 簡単に商談が成立した。でも、みんなが美味しいものを享受で来て豊かになれるならそれはいいことだ。

 ドライフルーツにして、他国に販売して外貨を得るのも悪くはないわ。

 甘く溶ける果肉に心を奪われてしまう。そして、この庭はまるで楽園のようにも感じる。果物やお花から甘い香りがして、鼻腔をくすぐってくる。


 そして、この楽園の隣に、珍しいものを見つける。


「あれ、すごい装置だね──」


 見たことがない大きな装置が視界に入って、思わず見ってしまう。銅で出来た、大きくて円形。周りにいろいろな棒状の何かがついている。何かの機械っぽい。円形の真ん中には、ガラスのようなものが入っている。何なのあれ……。


「確かに──見たことないです」


「あそこは、天体観測器。あれから、夜の空や星を観察するの。ちなみに、あの場所は天文台っていうのよ」


「星空を見て観察する? すごいロマンチックだねぇ」



 ミシェウが思わず目を輝かせる。私も見てみたいなぁ……。そういえば、天文学の人から聞いたことあるかも。そこまで重要じゃないって思って、忘れちゃってたけど。


 ミシェウは息目を輝かせながら、優雅な台座の上に位置する天文台を見上げた。美しく精巧に作られた天体観測用の器具。星を観察って、神秘的よね。何が見えるんだろう……。


「ああ……思い出しました。見たことあります。遠くの世界で、すごい装置を作って、夜の空を観察しているって」


「あなた、博識ね。さすが令嬢様」


 冷静な表情で、コクリと頷く。


「ありがとうございます」



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