第22話 この人、大丈夫?

 そして、私たちは再びホーネルカーの部屋へ。


「ごめんね、ホーネルカーさんの実力は認めるわ」


「当然ですな」


「だから、今度の遠征なんだけど、私たちも参加させてくれない? 戦いだってできるから、何かしらの力になれるし何よりホーネルカーさんの力になりたいのよ」


「おおっそれは構いませんぞ。私の実力にほれ込んだということですかな?」


「まあ……そう思って構わないわ。ホーネルカーさん。本当にありがとう」


「ありがとうございます」


 ミシェウの言葉に続くように、軽く頭を下げた。ミシェウ、こんな時でもとても明るくふるまっている。ホーネルカーもすっかりご機嫌で彼女が味方してくれたと思い込んでいるのがわかる。

 私ひとりじゃこうはならなかった。もっとギスギスしていただろう。こうしてうまく相手の手の内に入っていけるのはミシェウのおかげだ。



 人たらしという言葉がとても似あうと感じる。こういう敵味方問わず人の心をつかむのがとっても上手なのよね。


「わかりましたぞ」


 失敗させて、そこから追及しかない。それだけじゃない、こいつがどんな失敗するかはわかってる。理解したうえで、行動を先回りしてみんながおかしいと感じた時点でやめさせできるだけ損害を少なくするように立ち回る。



 そして、こいつを追い詰める。現状では、これが最善策な気がする。下手に攻撃的に出るよりずっといい。


「しかし、ありがたいですなぁ。特にシャマシュ殿は気難しいお方だと聞いたからなぁ。すんなりと返事してくれて嬉しいぞ。一緒の遠征、力添えしてくれて感謝ですぞ」


「こちらこそ、ともに力を合わせて敵をせん滅いたしましょう」


 その後いろいろんな武勇伝や、自慢話を長々と聞いた後私たちはこの場を去っていく。

 話の内容は、部下とともに視線を潜り抜けたこととか──出世して貴族たちとあって、色々大胆な行動に出て気に入られたとか本当にくだらない話。忘れていいか。


 そして、2人で頭を下げこの場を後にする。


 帰り道、作業場の方から叫び声が聞こえた。思わずミシェウの方を見る。


「行ってみましょう」



 こくりと互いにうなづいて、そっちの方向へ。


「なんでこれしか売り上げがないんだよ無能!」


 また遠くの通路から、怒鳴り声なんなのかしら。物陰からさっきの作業所を見ると2人の姿があった。


 中年くらいの目の吊り上がったいかにも人相が悪そうな人。目の前にいる、さっき作業していた若い男の人に罵声を浴びせているがわかる。



「なんで売り上げノルマを達成できないんだ!」


 中年の方は上司みたいね。

 強く攻める上司。その前にいる、頭を下げている人に対してかなり強く罵声を上げ続ける。

 怯えて肩を震わせている若い人のことなど気にも留めない。


「お前本当に無能でクズなんだな! いつもノルマを達成できないで、やめちまえ!」


「でも、これ以上修理の依頼はありませんし、無理がありますよ」


「依頼がない? だったらこうすればいいんだよ!」



 そう言った中年男は若い人が修理していた剣を手に取り、再び地面に落とした。次の瞬間、男は信じられない行動に出た。


 ガンガン──グシャッッッ!!


 なんと、中年の男は壁に立てかけてあったハンマーを手に取った。そしてなんと冒険者の武器を壊し始めたのだ。特に、槌の部分。何度も執拗に蹴っ飛ばしたせいで、槌がぐにゃぐにゃに曲がってしまった。そして、自分が壊した槌を指さして言う。


「ほら、ここも壊れているじゃないか。よく見ないとだめじゃないか! ちゃんと直せ、これならノルマ達成できるだろ」


 今のやり取りで、すべてを理解した。

 こいつ──修理費用を水増しするためにわざと武器を壊してるの?


 その姿を見て、戸惑う若い人。


「そんなこと、していいんですか?」


「は?」


「ですから、それはさすがにまずいのでは……冒険者にとって、武器というのは相棒のような存在でとても大切なものですし……」



「なんだよ、俺に意見するってのかよ」


「だって、私だって冒険者でしたからわかります。共に戦ってきた相棒のような武器を──自分の金もうけのために壊すというのは──」


「この野郎、黙って俺のことを聞けばいいんだよ、生意気なこと言いやがって!」


 そう叫ぶなり、若い人を突き飛ばして倒れこんだ所に馬乗りになった。

 そしてそのまま、何度もぶん殴り始めたのだ。絶句する私とミシェウ。なんでこんなことするの?



「ぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやる制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁ぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやるぶん殴ってやる」



 何度も殴るけるを何度も繰り返して、さすがに見過ごせなくなった。


「ちょっと、やめてください」


「落ち着いて」


 何とか中年の人を抑えると、ホーネルカーが物音を聞いたのかやってきた。彼が突然大声で暴れだしたことを告げるが、ホーネルカーは大した危機感も持たずに余裕そうな表情を崩さなかった。


「あー驚かせてすまん。こいつ突然暴れて切れることがあるんだ。まあ許してやれよ」


 そして、ホーネルカーはこの場を去って部屋に戻っていく。こんな体質──放っておいて大丈夫なのかしら?


 中年の男は魂が抜けたようにおとなしくなる。ああ、突然感情を爆発させて──出し切ったら抜け殻みたいになるタイプね。


 心配だらけね──彼に任せて。怒鳴られていた若い人に話しかけもしなかったし、興味がないのかしら? 若い人は、ただうなだれていた。

 この後が、とても心配になるわ。




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