第6話 会談

 翌日。


 ベッドから起き、用意された朝食を食べてミシェウのところへ。


 それから父上への報告だ。正直、胃が痛くなる。こめかみに指をあて、どういう切り口で行こうか、どうすればましな結果になるか悩んだ。


 ぎゅっと手をつなぎながら重い足取りで、ミシェウの方へ向かってから、2人で父上のほうへと向かっていく。

 ミシェウは、戸惑っているような表情で額をかきながら話しかけてくる。


「シャマシュは、気まずいなって思ったりしないの?」


「いいえ」


 冷静な表情で言葉を返す。確かにそんな感情がないってわけじゃないけど、ここまで大事になったのだから、騒ぎにならないはずがないし、そういった感情の変化を悟られたくない。


 そして、階段を登ってからしばらく歩くと目的の場所にたどり着いた。


 自然とつないでいる手が強くなる。ミシェウの手、柔らかくてほんのりと冷たい。気持ちいな……。

 ごくりと息をのんで、コンコンとノック。

 ミシェウとカイセドの父親である、幼少のころに前国王であるショルツ=アリスター=シュレイダーはミシェウが4歳の時に暗殺された。ミシェウが一度国王になった時は4歳。カイセドがそれから王位継承権を受け継いだ時、まだ13歳だった。


 当然、政務をとることはできない。幼い私たちに変わって、今まで王国を引っ張って来たのが父上だったのだ。



「私です、シャマシュです」


 しばし、帰ってこない。中に父上がいることはわかっている。何か思うことがあるのだろう。


「私もいるよ──」


 となりのミシェウが、元気よく言う。いやいや、そんな空気じゃないでしょ……。

 しばしの時間がたち、重い口調で言葉が返ってきた。


「入れ」


「了解しました」


 

 そう言って、ドアを開ける。


 豪華絢爛な、父上の部屋へ。

 真ん中にある、普段は客人へのおもてなし用のソファーに座る。杖を突いて、長いひげを蓄えた長身で豪華な服を着ている老人。


 私の父上であり、現在実質的な政務のトップでありヘルムート家の家督でもあるヘルムート・コルウィルだ。 今までこの国は、第一貴族であるヘルムート家の家督であるコルウィルが実質的な政務を担っていた。


 今まで、国を背負うという重みを背負ってきたのか表情の中に疲労の色が濃いように感じる。昨日のパーティーにいなかったのも、国境付近の鉱山の使用権について隣国「ウラル」帝国と会談があり出席できなかったからなのだ。


 私のミシェウが廊下側。父上が、その反対の窓側に向かい合うように座った。

 父上が、コーヒーを飲みながら話し始めた。


「大変なことになったな」


「はい」


 一回ミシェウと顔を合わせて、コクリと互いにうなづいた。


「カイセドの婚約破棄の件、知っていたか?」


「知っていたら言ってたわ。今だって信じられないくらいよ」


 ミシェウは、額に手を当て困り果てた表情で言葉を返す。



「ミシェウ」


「はい」


「あいつ、家々の事情も知らずに勝手なことを──あいつは一度こうと決めたら周囲のことも聞かずに突っ走っていくタイプだ。下手に強く反対したら、国王を退位して駆け落ちするくらいのことはしかねん」


「わかる……カイ君。一人でいっちゃうところあるよね」


 私も、婚約をして一緒に過ごした経験があるからわかる。カイセド──まだ若く、政務を父さんにまかせっきりなせいか、情熱的なところがある。仮に、本気でメンデスを好きになってしまえば王国を突然出て言って見知らぬところで暮らすなんて、言っても何もおかしくはない。


「だから、ミシェウ。いざとなったらお前が王位継承権を使って国王になれ」


「えぇぇ~~」


 ミシェウは、明らかに不満そうにぷくっと顔を膨らませている。


 こつんとミシェウの頭をたたいた。



「この馬鹿者が! お前は、この国で2人しかいない王位継承権を持つ人間なんだぞ!」」


「カイセドがいるじゃいん。私は、国王とか向いてないんだもん」


 涙目で、頭を押さえるミシェウ。でも、お父様がそういう行動に出るのは納得できる。

 お父様は、大きくため息を吐くと、何かを思い出すように複雑そうな表情になって口を開いた。


「そうでなくとも先代のようなことだってある。カイセドにもしものことがあったら、お前が国王にならなければならないんだぞ。この暮らしや、例の実験の資金を受け取っている以上それくらいの覚悟をしてもらわないと困る」


「そ、そうだけど……」



 動揺して、視線を逸らすミシェウ。カイセドも、ミシェウも自分の娘息子のように接していた。


 なので、私に対しても結構容赦がない。私が突拍子もないことをしたり、迷惑をかけたりするとこうしてげんこつが飛んでくるのだった。


 当然ミシェウもカイセドにも──。


「しかし、あいつ公衆の面前で婚約破棄とは──どういう神経をしているのだ」


「全くです。何か、目的でもあるのでしょうか?」


「まるで、悪夢を見ているかのようだ。周囲の貴族や、配下への根回しも済んで、とうに結婚する前提で組織を動かしたというのに、すべてが台無しだ」


「──ご期待に応えられず、申し訳ありません」



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