第7話 原因
軽く頭を下げる。私の実力があれば、もっと周囲を引き付ける力があればって今も思う。
お父様、政局がスムーズに進むようにいろいろと苦労していた。
対立のにおいがあれば周囲の貴族たちに取り入って夜遅くまで説得に動いていたり。
地方で謀反の気配があった時は、徹夜してでも謀反する貴族の支配が及んでいないような冒険者たちをリストアップ、そして危険を顧みず説得を行った後、冒険者に同行して敵地へと出向き主導していたやつらをとらえたり。
夜も眠れない日だってあった、それで後日ぶっ倒れたりした時だってあった。国を背負うという重圧を、幼い私やカイセド、ミシェウの代わりに背負っていたのだ。
「まあ、こっちも受け身に回らなかったおかげメンツは最低限守られるのがせめてもの救いか」
コルウィルは腕を組んで、かくかくと足を動かしている。
相当困っているというのがわかる。
確かに、メンツというべきものだってある。あの婚約破棄の場面。この世界は、周囲からなめられたらどんどん足元を見られるという側面がある。
あのとっさの機転で、こっちも婚約を破棄するという体となった。
私と結婚の宣言をしなかったら、一歩的にこっちがはしごを外されたという形になり、権威に傷がつく。下手をしたら私達の配下が寝返ってしまうことだってあり得る。
「でも、互いの家を絡めた政略結婚でそれは考えにくいですわ。暴力行為があったならわかりますが、そういった事実はあり得ませんし」
「う~~ん、絶対に何かあるわよね」
一応、私にも婚約について大丈夫かと秘密裏に意思を確認してはいる。
「問題ありません。この私が、カイセド様と婚約することが家にとっても、王国にとっても最適解であることは存じてあります」
一見、これだけ聞くと私の意思を尊重してないように見えるが、私だって自分でこう言った道を選んだうえで自分で選択をしている。
また、自分行動一つに、たくさんの人の生活や未来がかかっているということは理解しているからだ。
だから、自分の感情を押し殺して、自分にとって最善の相手との婚約を結んでいたはずだ。本来だってミシェウとは、その中でよい関係を築いたってかまわなかった。
国を治めるというのは、そういうことなのだ。特に、私やミシェウのように先祖代々からの名門ならそう。豪華な生活と引き換えに、どうしたって不自由な生活を強いられてしまう。
伝統があればあるほど、周囲の貴族や支持団体との関係は深くなる。
なので、やることはどうしても彼らの口利きや代弁者になることが多くなり、自分の意志や意見が主張しずらくなってしまう。
周囲は恵まれているとか親のおかげでいい思いをしているとか言われているが、世襲は世襲で悩み所も多いのだ。
「それに、カイセドのやつ。なんでコンラート家の無名の奴と婚約などを決めた。そんな奴を正室に加えて、王国をどうするつもりだ?」
お父様、無意識に足を何度も地面につけている。相当考え込んでいるのがわかる。
一応、私とカイセドとの関係がうまくいってないことをなんとなく理解していたらしい。2人になった時、私のことをそれとなく聞いてみたらあまりいい表情をしていなかったのだそう。
「あまりにも感情というものがなさすぎる。もう少しカイセドに心から接してみてはどうか?」
感情というものが全く分からなかった私は、その必要性が全く理解できず精神的な信頼が不足したままここまで来てしまった。確かに、政局のことばかりで夫婦仲なんて概念がなかったものね。もうちょっと、彼のことを考えたほうがよかったわ。
「シャマシュ、いつも笑顔が少なくて人によっては近寄りがたいんじゃん。それなんじゃない?」
ミシェウの言う通りかもしれない。
まず、カイセドとの婚約は王家シュレーダー家と 帝国の第一貴族、ヘルムート家の間で帝国の安定を目的にかわされたものだ。
ミシェウの父である前国王が暗殺された後、王家に変わり実質的な政務を務めていた管領コルウィル。
コルウィルは私やシャマシュに対して厳しく接していたが、それもシャマシュを想って、配下の貴族や国民達のことを想ってのことだ。
だから、ミシェウが突拍子もないことをそてげんこつを食らったりしてもなんだかんだについて言っているのだ。
「一応カイセドにも聞いてみるわ。あの子のどこが好きなのかは」
「しかし──あの、メンデスとかいうコンラート家の娘。教育は受けているのか? 国家元首と婚約を結ぶというのは、それ相応の礼儀作法が求められる」
そう言って、父がミシェウに視線を向けた。ミシェウは、口を尖らせ不満そうな表情になる。
「何よその目」
「私は、メンデスと何度か面識があるからわかります。作法については、一般的な令嬢としては問題ないですが、国王の男爵令嬢としては──未熟なところが目立つ感じでした」
「本当か? あやつめ、何を考えておる。一般人が好きな人と付き合うのと感覚が違うんだぞ。他国との外交──、他貴族とのやり取り。正直不安だ」
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