第11話 妖精と魔女と金髪美少女


 「いやー、まさか審査員賞をもらえるとは…」

 「3万円の買い物券どうする?どうする?」

 「それより最後の7人の小人にはやられたよ、あそこまで激しいコサックダンスをするとは…」

 「…あなた達、かなりいい線いってたのにね」

 

 わたしと蓮は本日のメインイベントだった仮装ダンス大会が終わった後、サーラと合流して客席にいた。一応ほかの参加者との名刺交換や写真撮影などもあったので時間はかかったが、サーラは年配の方々の日本舞踊発表を興味津々に見ていた。


 「…ところで、その衣装…」

 「あー、やっぱり目立つ?」

 

 先ほどから着替えずに来たので、わたしたちはステージ衣装のままだ。一応会場の隅のほうだが、はた目には3人で異世界ファンタジーのような空気を醸し出していた。


 「いや、似合っているわよ、ただその…、モチーフはなんなの?」

 「あー、最初は双子コーデだったんだけど、着付けに時間がかかるから…」

 「ふふん、わたしたちの自信作だよ」

 「へぇ…」


 サーラはわたしたちをまじまじと見ていた。よほど興味を持ったらしい。


 「…あ、そろそろライブ始まるよ」

 「そうそう!これ海外でも人気あるのよね!」

 「…!!そうなの!これを見にわざわざ来たのよ!」


 そうしてライブが始まるまであと数分というところで____


 緊急警報が鳴った。


==================================


 (…時間通りね)


 急な警報で緊張が走る観客席。大体の人間がその瞳にともすのは、恐怖。


 (…あれは警察の動きね、あっちは奥さんを守ろうとしてるわ。その奥のはパニックになってそうだし…)


 これがプルデンテチャールズが打った一手。県庁内にある緊急警報装置(*1)を誤作動させ、会場内の人間に聞かせる偽報の作戦。

 

___________

 『仮に一般人の中に候補者が紛れ込んでいるとしたら、平時は尻尾をつかませないようにしているだろう。しかし、異生物が現れたとなったら、他人とは違うアクションを起こす可能性が高い』

 『それを見分けろと?』

 『偽装した定点カメラはボブ達に運ばせてある。お前さんには念のため、現地で見極めをしてくれると助かる』

 『…それで見つかると思ってるの?』

 『いや、半ばダメもとだ。ただ同業者を吊り上げる罠としての側面が強いな』

 『そう…』

___________


 (まぁ、『10メートル級出現』を15秒だけ流すのが、プルデンテらしいけど)


 そうして私は5,6秒で会場内の人間の観察をした後、レンとミズキをみた。

 レンのほうは、ミズキを見て心配そうな顔をしている。その瞳に映るのは、恐れ。

 一方のミズキのほうは、わたしと同様あたりを見回していた。その瞳に映るのは___


 (…?)


 ミズキはこの状況を見て、何かを覚悟している眼をしていた。自己犠牲すらいとわないような、覚悟を決めたもののみが灯す瞳。その凛々しさはコンタクト越しでもわかるほど、場違いな雰囲気を出していた。

 

 (…ミズキ、あなたは一体…)


 そうして動揺していると、こちらに気づいたミズキが、話しかけてきた。


 「サーラ、これわかる?」

 「…ア、異生物が出現したのね?」

 「そう、すぐにでも避難指示があると思うから、いまはジッとして…」


 そうしているうちに警報が鳴りやむ。とりあえず、仕掛けは終わりらしい。


 「…短くない?」

 「秒で消えたとか?」

 「以前、一分で消えた(*2)ことはあったみたいだけど」


 そうこうしていると、イベントスタッフのアナウンスがあり、現在確認中とのことだった。


 「…大丈夫かな?」

 「みずき、楽屋のどうする?」

 「多分大丈夫だと思うけど…」


 そう話す二人は、お互いの手をつないで震えを押さえていた。


 (…PTSD、で説明着かないわね。あの瞳は…)


 長年の勘で私は、ミズキにただならぬ気配を感じていた。平凡な少女がしない瞳をともし、タイタンのことになると何かを含んだような感情を表す彼女。


 (多分、タイタンと何かつながりがる…ミズキのこと、精査しないとダメかもね)


 そう心に決めた私は、遠い瞳に個人的な気持ちを隠した。


==================================== 


 「ふぁー、楽しかった!」

 「私もよ」


 あの警報の後、結局異生物の存在を確認できなかったので30分遅れでイベントは再開。地元出身のコーラスグループのライブを楽しんだ後、会場を出ると空は黄色くなり始めていた。


 「…サーラは、今日どうだったのよ?」

 「楽しかったわ。やっぱり日本の文化はクールね」


 そう言ったサーラは、満面の笑みで返答した。


 「…あなた達には感謝ね、こんなに楽しい日を過ごせたんですもの」

 「いやいや、わたしもサーラといて楽しかったわよ」

 「うんうん、わたしも…」


 そう言っていると、少し寂しくなってきた。


 カラスが鳴いている。家路の時間を告げるように…


 「…あ、あれは」 


 そう蓮が言うと、近くのテントに歩を進める。わたしとサーラもついていくと…


 「…アクセサリー?」


 この辺りの伝統工芸の木彫りを用いたストラップだった。形状は小鳥の羽。よく見るとかけひもが赤、白、青の3種類で分かれている。


 「…いいねぇ」

 「ねぇサーラ、今日わたしたちが出会えた記念で、一つづつ買わない?」

 「…いいわよ。わたしは青ね。」

 「じゃあ、わたしは白かな?」

 「えー、みずきは赤でしょ」

 「でも、蓮が白なのもパッとしないけど?」

 「そう?私はレンに似合ってると思うけど?」

 「やっぱり?サーラもそういってくれるんだ」

 

 そうして買ったストラップを、各々もつ。今日会ったことを感謝しながら…


 「…本当にありがとう、レン、そしてミズキ…」


=====================================

 

 【ここからは日本語に翻訳してあります】


 『…随分楽しそうだったな』


 あの二人と別れて少ししてから。私はプルデンテと通信していた。


 「利用しただけよ。あの二人は、最後まで気づかなかったわ」

 『そう言うが、お前さんは本当に楽しくなかったのか?』

 

 …多分ボブが連絡したのだろう。対象に接近した私が、下手に情を持っていないか探っている。

 

 「…あの片方だったミズキ、何かあると思うわ」

 『…小岩井みずきか』

 

 プルデンテの声音が変わった。


 『それはあなたの勘ですか?』

 「彼女の眼は、戦士のものだった。そう言えばわかる?」


 ミズキのことを話すのに、少し抵抗はある。でも、万が一があってはいけない。それが組織の掟なのだから。


 『…最優先で調べましょう(*3)。あとの報告は戻った後に』


 プルデンテはそう言うと、通信を切った。


 「…」

 

 私は先ほど買ったストラップ一瞥した後、胸ポケットに入れた。

 そしてこの街を一時離れるのだった。





 「……ごめんなさい、レン、ミズキ」


==================================


 「…いい子だったねぇ」

 「そうね」


 わたしと蓮は、あの後私服に着替えてから帰路についた。


 サーラはしばらく日本にいるらしく、ホテルの電話番号(*4)を教えてくれた。もう一度逢えたらいいねと言って帰路に就く彼女を見送った。


 「…ねえ、サーラって本当に観光客だったのかな?」

 「うーん、微妙」


 わたしと蓮の共通見解として、サーラが何か隠していることはわかっていた。

ただそのピースが足りず、あまり深堀出来なかった。どこかの大金持ちの娘か、家出少女とか、まさかのスパイとか。可能性はいくつもあったが…


 「まぁ、あんなに善良な子だったらねぇ」

 「そうね」


 見ず知らずの子供に手を差し伸べようとする子が、悪人なはずがない。そう思ったわたし達は、深く考えないことにした。


 (…本当に、あの警報は偶然だったのかな?)


 微かに疑念は残るが、でもサーラのことは信じたい。そう思えるほどに、今日は楽しい日だった。


 「ところで蓮、あしたの勉強会だけど…」

 「おー、予定どおりお昼になったら…」


 こんな日々が続けばいい___それがわたしの願いだ。


=====================================










 











 太平洋側にある或島あるしま___

 土地は200平方メートルあるが、ごつごつした岩肌で人が住みずらい。実際本土から離れたこの島では、周辺の岩礁対策として小さな灯台があるだけだった。。

 その灯台が壊れたらしく、通信が途絶してから13時間。大波のため遅れていた海上保安庁の船がようやく島に到着しようとしたところで、その異変に気付いた。

 島から2キロメートル先からでも見える小さな山、の下に見える謎の緑。それが突然動いたかと思うと、付近にすさまじい雄たけびが響く。


 ジャァァオオォォォォ!!!!!!!

 

 その鳴き声に聞き覚えのあった船員は、甲板で双眼鏡を出し、それを確認する。そこにいたのは……


 「あれは…!!?」

 ____________________________________

(*1)役所においてある市町村レベルの警報自動通知システム

(*2)異生物が出現から消えるまでの時間はまちまち。消えないこともある。

(*3)「最優先で(あなたの友人第一号候補を)調べましょう」

(*4)東京の高級ホテルだったので絶句するのは後日。


____________________________________

後書き

別れのあたりで 【SunSun Swish】の【モザイクカケラ】流したら、筆が乗った気がする。


次回!お家で勉強会!をする前に退治だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る