第10話 開催!仮装ダンスパーティー!
架空県県庁庁舎___
ハロウィンイベントに沸くこちらの役所では、数日前からあわただしい準備をしていた。
超巨大異生物出現に対し設置された緊急対策部隊の一部がその任務を終え撤収を始め、入れ代わりに今後の復興を行う内閣肝いりのチームが来るためだ。
あわただしく荷物を外に出しては新しい機材を入れ、人員が変わっていく施設内。イベント当日の今日も、出入りが激しかった。
だからだろうか、その施設に入った侵入者が目的を達成していたことを、ことが起こるまで気づいてなかったのである……
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『はい、始まりました!ハロウィンパーティー午後の部最初のイベントは!みんな大好き!!仮装ダンスパーティー!!』
「「「「「イェエエェェェェ!!!!!!」」」」
『今回は一般参加の皆様から、自慢の仮装を披露していただく場として出場してもらっています!!なのでおさわり禁止!!ただ拍手のみで…』
さて、午後の部が始まったようだ。
あの二人と後で合流すると約束して別れてから一時間近く。結局あのあと普通に屋台を楽しんでしまった。いや、ちょくちょく対象者の顔をチェックしたり同業者がいないか確認していたから遊び一辺倒ではないが。
兎も角あの二人以外に見つけた第一級対象者は58人。そのうち明らかに堅気ではなさそうなのは何人かいたので、あとで情報を送るつもりだ。
(…そしてあの二人もやっぱりクロ…かな?)
会場内で時々現れるタイタンのコスプレに対する態度が、やはり他と違う気がする。何かを含んだ感情を持つということは、情報を持っている可能性もある。
(例えばタイタンに関わる人員を見たとか…)
ここまでの調査でタイタンの性能はだいぶ推測されてきたが、操縦方法については全くのブラックボックスだ。サーモグラフィーも基本均一で映るため(*1)、コックピットや動力などの心臓部も分からない状態だ。大体あのサイズでどうやってコックピットに乗るのか、Gはどうしてるなど問題が多すぎて、そもそもパイロットは乗っておらず遠隔操縦かAIではという意見が大半だ。
(どちらにしろあのサイズを動かすんだもの。こっそりデータを集める人員がいて、そいつがタイタンに指示を出している可能性もある)
あるいはタイタンは某特撮のように人間が変身しているのでは?という意見もあるが、説得力が微妙なので深く掘り進められていないのが現状だ。
(…あの二人がもし、クロだったら…)
先ほど回った時のことを思い出す。はしゃぐレンに、適度に突っ込むミズキ。それを見て笑っていた私…
(…ダメよ私、一時の感情で世界の危機を見過ごすというの)
そういう意味ではこの後の仕掛けがコスプレイベントの後でよかった。あの二人にかける迷惑は、すこしはマシになるはずだ。
(…しかしなんかステージの参加者は淡泊ね?)
今ステージでは黒い燕尾服を着たドラキュラ伯爵が、パートナーのお姫様と一緒にワルツを踊っていた。
(…なんかもっとこうオタ芸とかで派手なイメージがあったんだけど…自粛してるのかしら?)
先ほど出ていた兵士風の参加者たちも儀仗パフォーマンスだけで済ませていた。あまり洗練されているとは言えない動きで素人感が丸出しだったが…
(…まぁ、素人イベントだから、当たり前なのかな?社交ダンスとはまた違った趣があっていいけど)
そう思いながらポップコーンの袋をバックにしまうと、ようやく二人の出番になった。
『続いてはエントリー№12!この辺りではおなじみの黒井山高校裁縫部のお二人で、バラの妖精と引きこもり系魔女!!』
そう司会がいうと、まずはレンが出てきた。来ている服は先ほどと同じ…と思いきやさらに装飾が増えている。緑色の球体型耳飾りに、左目にモノクル。首からシンプルなネックレスをつけ、ローブの中に隠していたドレスはレモン色。箒もタイタンの色を意識した
よく見ると右目を茶色、左目を青のカラーコンタクトで染めている。
(…やっぱり隠していたのね)
多分今、レンは体型変更のためにさらしを巻いている。恐らく作ったのは少し前で、その間に太ったか何かで腹のあたりのサイズが合わなくなっているのだろう。ただそのせいで…
(メリハリがあるのよねぇ…)
出ているところは出て引っ込むところは引っ込んでいるレンの体系は、けっこうな女性がうらやましがるだろう。少なくともサーラが見たことがあるヨーロッパの有名女優の何人かより、今の蓮は美少女といえるだろう(*2)。
(…あとはミズキね…)
今ステージではレンがくるくる回りながら「バラの妖精様―」と叫んでいた。割と迫真の演技で、観客を引き込んでいる。謎のカリスマ性があるのだろうか?
そうして待っていると、ミズキも出てきたのだか…
(…誰よあの美少女!?)
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(…やはり挑戦しすぎでは?)
今回のステージの私の格好。それは朝からきている妖精衣装…の豪華版だ。
わざわざ白い化粧と赤いカラコンで人外レベルをあげた顔。頭につけたバラのカチューシャに、赤いガラスのついた黒いチョーカー。マジックテープではがせるフリルの下からのぞく黒い布生地。両手に持ったバラの造花の花束に、枝を模した腕輪。そして黒いサンダルと、ここまでやるか感の強いゴシック風妖精衣装。テーマ的には赤バラの妖精。蓮と休日返上で作り上げた(*3)甲斐があったというものだ。
ただ一点気にしているのは、腰に例のステッキを鞘に入れて下げているということ以外は。
なぜつけているかというと____
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『これあったほうがいい?』
『予定してた短剣が燃えちゃったからねー』
『…人前に出すべき?』
『でもこの間の抜き打ち部室検査の時は衣装っていってでごまかせたけど、さすがに使ってないと怪しまれない?』
『…木の葉を隠すなら、てこと?』
『そうそう、わたしもこんな杖作ったからさ。あとこれ張りぼてのレプリカね』
『いつの間に⁉』
_____
…冷静に考えればさらにリスクが増えるかもしれない行為だが、幸いこのカラーリングの物品が全国的に人気らしい。今日もこのイベントに参加している
この場でステッキを出すことでただのコスプレ道具として認識させ、何かわたしたちが調べられたときに特別なものではないと判断させるのが狙いだ。
…そう言っていたが、単純にアクセントとしてよかったというのもあるが…
「まぁ!!?妖精様!?その花束は?」
蓮はすごく驚きながら私を迎え入れる。
「ふふ、引きこもりの魔女。あなたにはいつも感謝していますの。これを受け取りなさい」
そう言って渡すのはのは、持っているバラの花束。これを貰って感激するレン。
「クゥーーーー!!この命、魔女様のために使いますわ!!」
「そう、ならば魔女よ。私と踊りあかそうぞ」
そういって音楽が始まり、短いワルツを披露する。
今回のイベントの目的はあくまで慰問が主だと書かれていたので、あまり派手過ぎないパフォーマンスが求められている。なので二人でできるワルツで挑んでみたが…
((…よし、取り込めているわね!))
会場内はわたしたちに見惚れていた。魔女と妖精というなかなか難しい組み合わせのまま踊るのは、さすがに難しいからだろう。
(あ、サーラ見つけた)
サーラもわたしたちを見て顔を赤らめていた。多分ばれていないと思うが、合流するときは注意しておこう。
その後わたしと蓮はそのまま踊り終わり、一礼して舞台を離れるのだった。
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(…え、あの足運び…まさか)
私は先ほどの光景を反芻していた。ミズキの化粧とか衣装の花束の本数とか鞘に入れていた何かとかで非常に様になっていたのはすごかったが、それ以上に…
(気のせい…なの?タイタンに似た足運びだなんて)
この業界の技術として、足運びを解析するというものがある。その動き方で相手の足の不調や職業、場合によっては持っているものなどを分析する手法だ。ただし歩き方で人物を特定するのは困難を極めるため、あくまで参考程度の情報を得る技術だ(*4)。
だが、いくつもの映像を頭に叩き込んだ私には、先ほどのミズキの歩き方にタイタンに近いものを感じていた。
(…ほかの候補者の足運びとは違うのよね…)
さすがにすべての対象者の歩き方を見ているわけではないが、そのなかで一番近いのはと聞かれれば、ミズキと答えるだろう。先ほどまでロングスカートだったので気づけなかったが。
実際この技術で変装していたターゲットを見つける切っ掛けになったことが一度だけあるので、今回もアタリという可能性はある。
(…でも、特定に失敗したことのほうが多いのよね)
今まで50回以上特定を試みたが、そのほとんどが失敗に終わった過去を思い出し、私は一端保留することにした。
(…あくまで似ているだけよ。大体ロボットの足運びを比較するなんてバカげているわ……やはり例の仕掛けに賭けるしかないみたいね)
そう考えた私は、一先ずあの二人との合流までステージを楽しむのだった。
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(*1)スラスターやビームの熱はさすがに見える。
(*2)サーラ本人も十分美少女だが、その自覚が薄い。
(*3)なお、蓮用の衣装も製作したが、着付け役の問題で今回はみずきのみ。
(*4)加齢やけが、そのほか来ているものなどで歩き方が変化していくのも大
きい。
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後書き
…異生物君最近出ないなー。
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