第9話 銃口は誰に向くか
(…この子、本当に何者だろう?)
わたしは先ほど助けた少女___サーラをちらちらと横目で見ていた。
(観光で来ているって言っていたけど、このイベントそんな知名度ないしなぁ)
「…サーラ、どうしてこのイベントに来たの?」
わたしは疑問に思い、サーラに問いかける。先ほどの行動から善良な人間だと判断しているが、もしもなにか…例えばここにいた目的があるなら、はっきりさせてもらいたい。
「あぁ、午後に例のステージがあるでしょ。それを聞きに来たの」
「あー、そっちかぁ」
「てっきり午後から始まる仮装コンテストのほうが目あてかと思った」
「それはわたしたちでしょうが」
「仮装コンテスト?…あぁ、そっちも気になってたのよ」
そうサーラは言うが、何か引っかかる。例えばコート。サイズが合っていない割に揺れが少なく、妙に硬質な布を使っている感じがする。さらに右腰あたりについているポシェットも、なにか円筒形のふくらみがあるのが気になる。
蓮を見ると、本物の外国人の美少女に見とれている…ふりをして、やはり違和感を抱いているのがわかる。きっと私と同じ違和感を感じているのだろう。
ただそれ以上に…
「…ハムッ、そういえばレンたちは、プチミスコンの参加者ってことよね?」
「そうだよー」
「なら応援するわ、頑張ってね」
そういって彼女がほおばるのは先ほど買った抹茶味のかき氷。それを食べながら浮かべる笑みは、小動物を思わせるかわいさだが…
((いや、食べ過ぎ!!))
これまでの道中で彼女は牛串4本、焼き鳥7本、大盛焼きそば、だんご3本、そしてあんまんと、かなりの量(*1)を食べており、さすがに胃もたれしてきた。一個一個味わっているからかペースは遅いが、一体どこに入っているのだろう…
「…ん、あれは…」
そうして広場の片隅のベンチを目指して歩いていると、広場の脇に人だかりができていた。小さい子供たちが笑いあって囲むその中心には…
(…ミニス…いや、あれもコスプレか)
ミニステールが2体いた。
片方は段ボールか何かでできており、明らかに2メートルを超えるサイズ。もう片方はそれより小さい代わりにクオリティーが高く、片手にレクレールもどきを持っていた。
2体はがっちりと握手をしており、何も知らなければ夢の競演に見えるだろう。…本人ここにいるんだけどなぁ。
(…え、そうするとわたし、服着てないのに剣だけ持ってるってこと?頭隠して尻隠さずどころじゃないよ!?これ!?)
そうしてみていると、急に羞恥心が湧いてきてしまい、心の中で羞恥心にかられ始めた。テレビなどで見る自分の姿には抵抗がないが、自身のコスプレというなかなかない光景を見てパニックになった心は、急激にネガティブに傾く。
(あぁぁぁー!やめて、そんなに動かないで。できれば彫像のように静止しててぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
「あー、あれが例のロボットか…」
サーラはミニステールを見て目をしかめていた。…えーと、恥ずかしいんでやめてもらえませんか?
「お、サーラちゃんも興味ある口で―?」
「まぁ、一応ニュースは見ているから…」
そう言いつつ何か複雑そうな表情を浮かべるサーラ。
「…なんかバカらしいのよね」
「へ…?」
「こんな強いのに、誰にもわからないものがあるなんて…今は好意的に見てる人が多いけど、もしも異生物以外にその力が向いたらどうするんだろうって」
そういうサーラの瞳には、疑念が浮かんでいた。
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(タイタン…か。)
そのコードネームはギリシア神話の巨神族に由来する。人類を超えた、絶大なる力を持つたちの総称。
(人類が制御できるかも怪しい力。そんなものを手に入れようと、今も多くの人間が欲望に飲まれていく)
その力の一端だけでも多くの人間を生かすことも殺すこともができる技術的価値。誰が作ったのか、そもそも人間が乗っているのかすらも分からない不透明さ。そしてただ人を救うだけという、得体のしれない不気味さ。
『タイタンはタイタンでも、あれはプロメテウス(*2)だろう』
そういう意見が出るほど、あのロボットに対する世界の動きは好意的かつ、欲にまみれていた。
(正直、私たち日陰者にはまぶしすぎる存在。でも…)
コスプレのタイタンの周りにいて騒いでいる子供を見る。あの子たちは今、何の不安もなく遊び回っている。けれどもし、中央にいるタイタンが突然子供たちを襲ったら?あの衣装の中に、ナイフを仕込んでいたら?そして万が一があったら、だれか責任をとれるのか?
無論、あのタイタンが本物なわけがない。でも本物がそうしないという保証もどこにもない。
(そう考えると虫唾が走る。こんなにも人に希望と不安を示したタイタンを)
もしもタイタンに繋がる人物を見つけたら。そのあとはボスが最終的な判断を下すだろう。でもその前に___
(よほどの考えなしとかだったら、一発殴ってやる!)
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サーラの言葉に、わたしは硬直してしまった。
いつも異生物の出現を聞いて体が動いて出てしまい、異生物を倒すと羞恥心に駆られてすぐに戻るだけの活動。それがサーラのように疑念を持つことに繋がるのだろう。
でもわたしが、誰かを傷つける?じゃあ、異生物に苦しむ人たちはどうなってもいいの?サーラが言っているのは、結果論でしかない。本当に救いを求めている人に、手を差し伸べるのがわたしの与えられた役目だ。
「…サーラちゃん、それだったら最初から異生物ではなくわたしたちを殺していたと思うよ」
そうして考えていると、隣にいた蓮が無表情で言っていた。
「人間ってね、意外と簡単に死ぬんだよ。火に焼かれたり、瓦礫に押しつぶされたり、爆発に巻き込まれたりして…。そんな大きな力を明らかに持っているのに巨大異生物を倒すのみにそれを使っているみず…見ず知らずの存在を、疑うのは筋違いじゃない?」
蓮は、怒っていた。ミニステールを疑うサーラを。
…ていうか今、一瞬私の名前言いそうだったよね?
「…レン、あれは人類の味方だと?」
「…今のところ人類に対する害意があると言えるの?」
…この子は、わたしを守ろうとしてくれている。思えば学校でも、クラスメイトの話題なんかでミニステールのことが出で来ると、私を連れて教室を出てたっけ。最初はあの日のことを思い出すから…だと思っていたが、多分こんな悪意のある意見を聞かせないようにするためだったのだろう(*3)。
「…私の考えすぎだったかもね。謝るわレン」
そういってサーラは眼を閉じて蓮に謝った。多分分が悪いと判断したのだろう。
「…いやぁ、こっちもムキになったかも」
そう言って蓮は元の笑顔を見せ、サーラを許していた。
「…ごめんね、サーラ。わたしたち、あの日町にいて結構苦労したんだよ」
「エッ…」
「だから、すこしアレに対して感謝の気持ちもあってね」
わたしがそうフォローしておく。それを聞いたサーラは唖然とした表情をしたが、迷惑をかけたと思ったのか震えていた。
「…ア、そうだったんだ…ごめんなさい二人共…」
「…もうサーラ!そんな深刻にとらえない!」
「そうそう、わたしもみずきも幸い生きて帰れたわけだし!」
そう言うとサーラは、震えを止めてようやく笑顔を取り戻した。
「そうね!あなたたちに出会えたと思えば、あのロボットを疑うのは失礼ね!」
そしてサーラと私たちは、ギクシャクしていたのを解決した。
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(…うーん、レンはタイタンをヒーローだと思っているだけ…なの?)
私は先ほどの会話を咀嚼しかねていた。レンの態度はタイタンに対する感謝の念が強い…だけでは済まされない何かを含んでいた。ただの恩人に対する感謝では説明のつかない凄み…表情にすら出さない、狂気すら感じられる感情の発露。
(レンも気になるけど、ミズキも気になるわね)
私と蓮が話してる最中黙ったままだったミズキ。横目で見えた怯えと憤りの入り混じった瞳。
(…PTSDでは説明できる?でもそれにしては何かこう…)
「…レン、ミズキ、あっちにある屋台は何?」
「あぁあれ、あれはたぶん…」
(…この二人、もしかしたらアタリかもしれないわね。午後のアレでもうすこし揺さぶりをかけてみるか…)
そして私は二人と再び会場を回り始めた。
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(*1)お値段合計1万円近く。
(*2)人類に火を与えたというタイタンの一人。
(*3)彼女たちだけが被害者というわけでもないので、中には「遅い」と恨み
を述べる輩がいたのも事実。
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後書き
最近若干スローテンポ……?
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