第8話 その出会いは劇的に


 架空県県庁中央広場___

 

 『本日は、架空県大ハロウィンパーティーにご来場くださりありがとうございます。11時から、広場中央特設ステージで防衛軍音楽隊による演奏パフォーマンスがあります。ぜひ、ご来場のほど___』


 「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃお菓子を上げないぞー!」

 「いやそれ、意味ないから」


 土曜日、わたしと蓮はイベントに来ていた。

 蓮は古典的な魔女の衣装。茶髪ウィッグに三角帽子にローブ、手に箒となかなかの完成度だ。

 ただ、ローブの中のドレスが体のラインをそのまま出しており、少し目のやり場の困るので閉じてもらっている。

 

 「いやー、子供にお菓子を貰うのはきついでしょ」

 「まぁ。そうだけど」


 一方のわたしの衣装はというと、妖精をイメージした赤色のドレス。銀髪ウィッグとご丁寧にエルフ耳をつけ、透明な羽をたたんで動く姿は会心の出来だ。横には金平糖をいれた籠をもち、子供に挙げる準備は万端だ。

 なお例のステッキは、施設のロッカーに預けてある。ただ人目に付くところでは作動しないが、どうもある程度の距離を離れると自動的に手元に転送されることがある。そのためスカートの横に帯剣できる鞘も一応用意してある。

 …もしかしたらステッキ自体に意思があるかもしれないと蓮は言っているが…

  

 「ふふふ、今日は一日このまんま練り歩くぞ!」

 「はいはい、プランA(*1)ね」

 

 周りにもそこそこコスプレしている人もいるし、付近に警察の人たちもいる。

このイベントは安全に楽しめそうだ。


 「まずは午後のイベントのエントリーだね」

 「うん」


 そうして会場入り口脇のテントで手続きを済ませると、一路広場のほうへ。


 「しかし、けっこう来てるねー」

 「そうだね、店も多いし」

 

 広場にはあちこちに屋台が並び、いろいろなおいしそうな匂いが漂っていた。

 見えるだけでも綿あめにチョコバナナ、かき氷に焼きトウモロコシ、牛串に焼きそば、そして店長…


 「「店長⁉」」


 そこにいたのはキッチンカーの店長だった。


 「ヘイ、ガールズ!!今日はいい天気ですね!」


 そう言いながら手を振る返す店長。


 「…えっと、車は?」

 「本日は出張デェス。」

 「あぁ、そういう…」

 「ドーしますか?本日限定小さい角煮バーガーがありますが?」

 「「気になるんでください」」


 気になる単語があったので注文することにした。


 「…あれ、妖精って肉食べられたっけ?」

 「あ、設定がぶれるかも…(*2)」

 「うーん、ヴィーガン設定あったかな?」

 「イヤー、そんなの気にしてたら生きてけませんよー(*3)」


 そして出てきたのは普段の三分の二ほどのサイズのハンバーガー。レタスと角煮だけというシンプルさだが、逆に作りやすいのを選んで販売しているのかもかもしれない。


 「…う、これは」

 「匂いだけで美味しいのがわかる…」


 意を決して一口ほおばると、豚の脂がしみ込んだバンズとみずみずしいレタス、そして柔らかい角煮が織りなすハーモニーがわたしの胃を直撃した。


 「…今日もおいしいです」

 「ありがとうございます店長!」

 「ハハッ、その笑顔だけで満足です」


 完食したわたしたちは、店長に礼を言って次なるグルメを探しに行くのだった。


 「ウエーン!!」


 そんな声に聞こえて顔を向けると、近くで幼稚園ぐらいの男の子が泣いていた。どうやら持っていた飴を落としてしまったらしい。


 「あー、これは…」

 「さすがに…」


 金平糖を上げようと近くまで歩いて行こうとしたところで___風が吹いた。

 いつの間にか男の子の近くにはきれいな女の子がいた。

 細く金細工のように輝く金髪に、赤いベレー帽。わたしたちより小さい身長を覆い隠す藍色のコート。そして、サファイアを思わせる蒼色の瞳。

 

 「ぼく?大丈夫?」


 そう彼女が聞くと、男の子はその女の子に気づいた。


 「お姉ちゃん、苦手なフレーバーの飴を当てちゃったの。できれば捨てたくないんだけど…」


 そう言って右手に持っていたのは、(たしか)メロン味だった飴だ。

それを見ると男の子はびっくりして、不安そうな表情を見せてしまう。どうやら見ず知らずの女の人から物を貰うのに抵抗があるらしい。

 そんな男の子の表情を見て、女の子は瞳が動揺していた。こちらはすんなり貰うだろうと思っていたらしい。

 隣の蓮に目配せした。やることは一つ……

 

 「…こら!その子が動揺しているじゃない!」

 「もう、あなたはいつもそうやって人を驚かせて…ごめんね、この子いつもこうなんだ」


 わたしは女の子を叱り、その横で蓮が男の子に謝る。これぞコスプレ道秘儀『身内の振り作戦』!!そうすると男の子は最初はびっくりしていたが、悪人ではないと判断したのか緊張を解く。

 

 「…ほら、今よ」


 横目でわたしは少女に目配せすると、少女は驚いた顔を見せつつも男の子に再度飴を差し出した。


 「…ありがとうお姉ちゃんたち!」


 そうして男の子が笑顔になって感謝の言葉を述べると、後ろを向いて走っていった。


 「もう落とさないよう気を付けるんだよー」

 「バイバーイ」


 そして蓮とすかさず締めの言葉を述べる。これでとりあえず男の子の問題は解決。あとは…


 「ごめんなさい、急に出てきて。でもなんかお互い困っているみたいだったから」

 「イ、イえ、こちらこそすみません!ちょっと私もパニックになってたわ」

 

 そう言って少女は頭を下げる。根はいい子のようだ。


 「…えっと、わたしはみずき。こっちのは蓮」

 「えーと、あなたの名前は?」


 そう蓮が利くと、少女は顔を上げてバツが悪そうに名前を言った。


 「…サーラよ」


 それが彼女__サーラ・ベルナルディとの出会いだった。


===================================


 (…まさか、こんなところでこの二人組と出会えるとは)


 私は内心驚いていた。目の前の二人組がこちらに介入してきたからではない。


 プルデンテが疑惑をかけている第一号異生物事件の生存者数千人。日本の防衛隊や救護チームの資料を秘密裏にコピーし、集められたデータ。

 その中から疑惑の薄いあたりから調査し、残った40パーセント未満の本命たち。特に当時のバスの映像から、タイタンの出現位置と異生物の発射予想範囲に近かったのにため対象に加えられていた二人。


 (レン・シラヌイとミズキ・コイワイ。ほかの異生物の出現時のアリバイもあやふやなところがあるコンビ。監視カメラに部分的にしか映っていないから(*4)、可能性として何かあるというけど…)


 今日私がここにいたのは偶然ではない。

 県内各所から人が集まるこのイベントで、要観察者たちの一部が来る。そうプルデンテに言われた私は、朝早くに会場入りしてチェックすることにした。途中で現地のエージェントの一部と情報交換(*5)し、ついに対象者が千人を切ったことを報告しながら監視を開始。

 途中でプルデンテの右腕のボブから連絡があり、防衛隊の私服監視(*6)から逃れるために偽装買い食いをしていた矢先___


 男の子の泣き声に反応してしまった。

 

 私の手は血に濡れている。そんな手で子供を助けようなどおこがましいだろう。でも___


 『、あなたは子供ですよ。人殺しの技術を持つだけの』


 ボスの言葉を思い出す。血塗られた私に臆することなく語り掛けるその姿を__


 『そもそも技術とは、人間が生活する上で作った知恵の結晶です。つまり技術とは、人間であるということでもあるのです』


 こんな私に、生きる道を説いてくれた人を__


 『あなたはまだ、その人間をよくわかっていないようです。どうです、それを探してみませんか?』


 そう言ってわたしを誘った大人悪魔の言葉を、思い出す。


 『いつかあなたに、生きる理由が見つかるといいのですが』

 

 そんな大人と同じようなことをやれば何か見つかるのだろうか?そう思って手をとったあの日を思い出してしまった。

 今のあの男の子は、私に似ている。そう感じた私は、すぐにあの子に飴を上げようとしたのだが…


 結果的に失敗してしまった。

 そして…この二人監視対象と出会ってしまった。


 (…き、気まずい…まさか対象の人間と遭遇するとは…)

 

 目の前にいるのは、ただの妖精と魔女のコスプレをした学生にしか見えない。だがその実、タイタンに繋がる何かを持っている可能性もなきにしもあらず。

 だがそれ以上に…


 (あの籠のはまさか伝説の日本菓子コンペ―トウ!?まさかこんなにも早くも接触できるとは)


 コイワイの籠に入っているお菓子に目が行ってしまった。以前本屋で見つけた日本のギフトの特集。その中で一級の評価を得ていたコンペ―トウをまさかこんなに早く拝めるとは…


 「えーと、サーラ…ちゃん?この金平糖お詫びにあげるから、その」

 「イイの!?」

 「え、えぇ…」


 ハッ、しまった。思わず反応してしまった。このままだと目立ってしまう。ど、どうすれば…


 「…サーラちゃん、もしかしてこの辺りの人ではない?」

 「エ、ええそうよ、日本旅行の最中なの」

 「え、一人で?」

 「アー、親が夜に合流するの」

 「そうなんだ…せっかくだから一緒に見て回らない?」


 こ、これはもしや私のことを気にかけて提案してくれている?ここは断りを…

いや待て。この後の防衛隊の目くらましを考えたら、一緒にいたほうがいいかも。対象に接近しすぎだけど、ここは運命の神に委ねよう!

 

 「…そうね!せっかくだし一緒に見て回りませんか、蓮さんみずきさん!」

 「お、じゃあ一緒に行こう!あ、わたしは蓮でいいよ!」

 「あー、わたしもみずきで」

 「わかりました!レン!ミズキ!」


 こうして私はこの二人と祭りを巡ることになった。


=================================


一方そのころ、某通信室にて____

「ボス、こちらが昨日のオンブラの写真です」

『…この緑色のは?』

「抹茶アイスです」

『…あの子は本当に何にはまっているのでしょうか…』


 ____________________________________

(*1)ちなみにプランBは、雨の時は私服にするパターン。

(*2)設定まで忠実に守るものだと考えているのは先輩譲りだったりする。

(*3)店長個人の見解です。

(*4)ほかの候補者はこれまでの四回の出現のうちで監視カメラ等にずっと映っ

    ているのだが、蓮とみずきにはそれがない。

(*5)サーラがプルデンテからの活動用現金を渡すのに対し、エージェントたち

    は恐縮していた。

(*6)私服は対テロ対策要員だが、一応距離をとる判断をした。


_____________________________________

後書き

おかしい…出会いだけで過去最大文字数を記録しただと!?


次回に続く!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る