第5話 大旋風!!第4号異生物リリア―
ジョォォォウゥゥ!!ジョォォォウゥゥ!!
「巨大異生物!!なおも進行中!!」
「近隣市内の避難誘導、まだ完了していません!!」
『こちら第七駐屯所!!救援求む、救援もと___』
「第三防衛ライン、間もなく突破されます!!」
市役所に臨時で作られた前線司令部は、今混沌の坩堝と化していた。
発見当初から三〇分で東北方面の防衛を司る第二防衛師団が動けたのは、徹底的な対策プランの実践例として合格だろう。しかし、それ以上に異生物の進行が速すぎた。
まるでホバー艇のように下から空気を出して地面を滑りながら進行することで、それまで歩いていた他の巨大異生物たちの倍以上の速さを得ていた。そして、その源になっている風によって付近に強力な突風が吹き荒れ、大量のがれきが舞い思うような攻撃も出せずにいた。
「防衛ラインを後退させろ!第四戦車部隊と第六隊を合流させ、急ぎ予想ラインから撤退させろ!!」
「関東総本部から連絡です!!」
「っ!!繋げろ!!」
今回の前線指揮を執る前田一佐に、関東からの通信が入る。
もしや援護か?という希望を抱きながら通信をつなげた。
「こちら前線司令部です」
『大山田だ。手短に言うと、新型の地対空ミサイルを使う』
「あの異生物が出す風は風速40メートル(*1)を超えています!仮に突破しても、あのつぼみ付近で消滅現象を起こしているんです!当たるとは思えないのですが」
『そうだ、だから当たらずとも効果のある弾頭を使う』
その報告に前田は絶句した。その威力が示す武器はいくらか心当たりがある。だがそれらは、付近の被害を顧みずに使うべき代物のハズだ。
「…正気ですか!?」
『事は一刻を争う。場合によってはミサイル以上の被害が出るかもしれないものを、君は放置すると?』
「…了解しました」
大のために小を切り捨てる。これ以上の被害拡大を防ぐために、今この場で劇薬を使うことを、前田は了承した。
本来だったらこんなやり方は突っぱねたい。だが相手が止まる見込みのない異生物であることと、今後方にいる隊員を無駄死にさせることを悔いた結果だった(*2)。
(せめてコアさえわかれば…)
「!!前田一佐!!モニターを!!」
通信要員の一人がモニターを指さすと、巨大異生物の前にそれがいた。
紅白に塗られた銀族の胴体、背中のバーニアノズル、そして視界が不良な中でも明るく見えるオレンジ色の目と思わしき発光___
「っ!!R-1か!!」
そこにいたのは仮称Rー1。
前田の心に、わずかだか希望の光が灯った。
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(うわー、最悪なぐらい被害出ている)
わたしは心の中で愚痴っていた。
ワープしてきてみれば、目の前には花のような何かが風を出して歩いているという
想像以上の姿。しかも、木や車が強風で空中を舞う地獄絵図。
(ところで本当にどこに消えていくんだろう)
時々つぼみの付近で紫色の光が発生すると、その周辺にあった物品が消えていく。
異生物特有の消失現象だ。
(たしか10メートル級の大型でも、軽乗用車サイズで精いっぱいとかって言われていたっけ。でもあれ消えているってことは、中に人がいることに…いや想像しないでおこう)
目の前の地獄絵図に怯みそうになるが、そこはこらえて戦闘準備を始める。
左肩の装甲部分に手を伸ばし手に取ると、それはみるみる変形し大型実体サーベルのレクルーレになる。銀色の刀身に一筋の赤い線が走った、接近用のメイン武装だ。
さらに左手を腰の部分に持ってくると、いつの間にか懸架されていたレーザーライフルのブルスが手に収まる。こちらはチャージで威力が変わる(*3)が、その分隙をさらしやすい。
まずはブルスで小威力にして打つが、触手の張ったバリアではじかれてしまう。
やはりレーザーレベルで皮膚部分は切れなくはないらしい。
(うーん、多分あのつぼみの中心にコアがあると思うけど…)
異生物共通として存在するコア。ここを破壊すると異生物は塵のように消えるという特徴を持つ。ただこのコアはサイズが大きいほど固くなる性質を持ち、それまで現れていた10メートル級ともなると戦車が必要となる耐久力だ。
(まぁ、わたしは超振動で切っているみたいだから硬さあんまり関係ないけど)
そうこうしているうちに3本の触手がこちらに向き、紫の単眼をこちらに向けた。そして中心の部分が少しづつおりていき…
(はい?)
そう、異生物は急に風を止めて地面についたと思うと、つぼみを大きく広げた。
その中から現れたのは、カマキリのような頭を持つ、緑の肌の上半身だけの巨人。ただし複眼のところは紫色に染まっているが。
(…えー、気持ち悪い)
なんでこんなのがいるのかわからないが、兎も角さっさと処理することにした。
ブルスの威力を中にして、上半身の部分だけをねらって打つ。
発生したレーザーは直進し、バリアを貫通して巨大異生物に…
(…え、食べた!!?)
なんと光線自体が口に飛び込み、それを吸うように異生物は顔を動かしている!
やがてレーザーは消え、残るのは異生物の不気味な歯を露わにした口だけだった。
(ということは、飛び道具は効かないってことか!)
そう判断するとわたしはブルスを腰に戻し、レクレールを両手持ちして突貫していく。だが4本の触手たちが鞭のように動き、わたしの足に絡みつく!
(ぎゃー、痛い痛い!!やっぱり痛覚あるわこの体!!)
足に激痛を感じながらやることは一つ、背中のバーニアをふかして巨人部分に近づく!
そして腰の前部分を稼働させ、そこから現れたランチャー発射口から無誘導ロケット弾を発射する(*4)!!
触手の根元部分に当たり、力が緩んだところでバーニアをフルスロットにすることで飛び上がる。そしてレクレールを垂直に掲げ、巨人部分を切り捨てる!!
ジョォォォウゥゥゥゥゥゥゥ!!
たまらず咆哮を上げる巨人部分だが、まだ崩壊現象(*5)を起こしていない!!
だが先ほどの手ごたえからすると
(コアは、巨人と花のつなぎ目――――!!)
だが突如花が発光し始め、何かエネルギーがたまっていく感覚がしてくる。恐らく何かやばいことをしてくるから、その前に!!
(切り捨て、ごめーん!!!!)
先ほど切り切れなかった下の部分をレクレールで突き刺し、確かな手ごたえを感じた!!
異生物はその花の部分を震わせると、突如しぼみ始め、紫色の光とともに大爆発を起こす。花の中心にいた私も巻き込まれてしまうが、
(あっついぃぃぃぃぃー!!)
普通に熱かった。だがその爆発とともに、異生物も少しづつ塵になっていき、いつの間にかその死骸も残さず消えていた。
レクレールを地面に突き刺しながら一息ついたわたしは、ふっと辺りを見回し……
(うわぁーー!!!!防衛軍の皆様がこっちを向いている!!!!!!!)
おそらく今まで巨大異生物に意識が向いていて忘れていた防衛軍の存在を意識してしまい、パニックになってしまう。
というか、見ていたんなら少し位援護してよ!!こっちは下手したら壊されるところだったんだぞ!!
(…もうおうちかえるーーーーー!!!!!!)
急いでワープを意識すると視界がぼやけ始め、少しずつ意識が落ちていく。その中で「ありがとー!!」という大声を聞きながら……
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「……巨大異生物の消失を確認、Rー1も消えていきました」
「了解した。状況終了を宣言する」
臨時指令部で前田は一息つき、椅子に腰を落とした。
モニターに映る戦闘跡は剣の突き刺された跡を残すのみとなり、その周りには突風によって落ちてきた残骸が辺り一面に散らばっていた。
「…はぁ…」
防衛軍の仕事は迎撃だけではない。これから避難先の支援と復興作業を行わなければならない。その前に有効打を見せられなかった前田の立場も変わるだろう。
だが、これ以上の被害が出ずに済んだことに安堵していた。
(前線のやつらには言えないな…Rー1への支援が禁止されていることなど)
この近くからもRー1への感謝を叫ぶ声が聞こえてくる。だが、所属不明のロボットを支援することは禁止されていることは、先日上層部で決まったことだ。もし巨大異生物の自作自演だったら。そんな可能性を言われたためだ。
(だがRー1が敵だとは思えない)
前田個人としては、R―1を好意的に見ていた。無力な市民たちを守る防波堤として国防軍に入った前田には、同じく人類の味方であるR-1に自身の理想像を写していた。
(ともかく、君の活躍に感謝しよう…R-1。多くの命を守ってくれてありがとう)
前田は、次の指示を出しながら、R-1をどう擁護すべきか思索にふけるのだった。
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(*1)超大型台風に匹敵する。なお、1キロ離れた観測所でこれである。
(*2)この時点で250人以上が生死不明。重傷者も100人近くいた。
(*3)イメージするだけで威力を変えられる優れもの。
(*4)セナ―ルという名前があるが、ピンと来なくて使っていない。
(*5)異生物が活動停止とともに塵になっていく現象。
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後書き
なんかあっさり終わった?安心しろ、しょせん奴は巨大異生物の中でも最弱…
というか戦闘をあまり想定していないタイプのやつだからな!
次回は戦後処理
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