第3話 悪夢とは、幸せを知ったものが見るもの
都内某所某ビル秘密通信室___
【ここからの会話は日本語に訳しております】
『そうですか、やはりタイタンは日本のものではありませんか…』
「ハッ、結論を言うとそうなります」
モニターの向こうの声に、銀髪の男はそう答えた。
彼の名はチャールズ。表向きは大手流通会社の日本支社に出向している部長クラスだが、裏の顔は某諜報機関の日本支部長である。
『あれほど大型の機体、一国家で作るのは容易ではありませんしね』
「ワープ機能の搭載は間違いないかと」
『いえ、他の猟犬たちも動いています。恐らくどこの国のものでもないのでしょう』
『SOUND ONLY』のモニターの向こう側で、紙をめくる音がする。
おそらく相手は、他の報告書も見ながら通信をしているのだろう。
「…つまり、どこの陣営にも所属していないと?」
『所属している可能性より高いでしょう』
チャールズの今の任務。それはタイタンことミニステールの情報入手だった。
日本で出現した規格外の異生物。その異生物を倒した大型メカに、各国が興味を示さないはずがなかった。
ある国は直ちに日本政府に情報開示を請求(*1)、ある国は支援の名目で調査団を派遣し駐屯、ある国は威信をかけて同レベルのロボット開発をぶち上げた。
そしてそれは、一部の力ある非政府組織達をも動かしていた。
『…これ以上は静観できませんね、あなた達にも荷が重いでしょう』
モニターの向こうから発せられたのは、一見するとチャールズ達の神経を逆なでにするような一言だったが、チャールズは事もなげに言った。
「これ以上の調査は、他と競合します。最悪死人が出るかもしれません(*2)」
チャールズは事態を重く見ていた。自身の知るどんな強い兵器をも超えるであろう巨大メカ…日陰者であるチャールズから見ても、あまりにも巨大な光を発するそれに、危機感を覚えていた。
「ただでさえ各国が緊張状態の中、あれほどの兵器です。技術の一端でも恐ろしい価値があるのでしょう?」
『そのとおりです。そしてそれが誰のものかわからないときた…』
部屋に沈黙が落ちる。
この4年で、世界は変わってしまった。
各国の軍拡は国際緊張状態につながり、やがて水面下の争いが激しさを増した。
資源がないなら、あるものから奪う。そんな野蛮な思考が世界には充満していたところでこのミニステールの登場である。
極端に足跡を残さない重力操作。
3000度まで耐えられる特殊合金すら溶かした怪獣の熱線に耐える装甲。
中は人間が動かしているとまで言われる滑らかな挙動。
あまりにもコンパクトになりすぎた光線銃。
そして、証拠を残さない謎の出現方法。
今の人類の科学を結集させてもできないロボットがそこにはいた。
もしもミニステールを手に入れられたら、そのものこそが
そんな考えが出るほど、ミニステールは衝撃だったのだ。
『…調査も継続で。ただし、一刻も早くタイタンの確保を優先とするほうにシフトします』
「できれば人員の増員を」
『すでに第3陣を編成しています。が、先日帰国した
「っ!!オンブラですか!?」
そのコードネームにチャールズは驚いた。なぜならその存在を動かせるのはモニターの向こうの男___チャールズの雇い主のみと言われた、劇薬とも表現される人物だからだ。
『これは世界の危機といっても過言ではありません。ジョーカーは、出せるうちに切っておかないとねぇ』
モニターの向こうの男は、そんな人間すら使ってでもミニステールを確保しようとしている。
それが何を意味するのか、まだ誰も知らなかった______
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「……もうやだぁ」
架空県立黒井山高等学校。それがわたしのいる高校の名前だ。
現在放課後の3時半過ぎ。二人しかいない裁縫部(*3)の部室で、わたしは
「大丈夫、みずき?お腹はすいている?」
そう語りかけてくるのは、
わたしの友人で裁縫部の部長だ。。第一号超大型異生物のときに一緒にいて、ミニステールに変身するところを見ていた。
「無理、もうわたしは羞恥心で死にそうなの…」
連日テレビで映される超大型異生物とミニステールの映像で、わたしの心は絶不調に陥っていた。いつ正体がばれるだろう、バレたらどうなってしまうのだろうという恐怖により、眠りが浅くなってしまっているのを感じている。周りにはサバイバーズギルド(*4)と思われ、要経過観察といわれているが、どちらかというとミニステールとバレることの恐怖のほうが強くなっている。
「…まぁ、こんなに各紙で報道されてちゃねえ」
そう言って蓮が見るのは本日の新聞(*5)。
『またもや出現巨大ロボット!!』
『異生物を切る辻切ロボ!』
『敵か味方か!?人類の危機か⁉』
『政府はR-1と公式決定!?』
「いやー、ここまで大々的になっちゃうと、言いずらいのもあるだろうし」
そう言って彼女は、心の底からわたしを心配している眼をした。
「いいのよ、どうせみんな中身が女子高生だなんて思いもしていないでしょうし」
「みずき……。うん、こんな地味な女子高生だとはだれも思わないでしょう」
「地味…ですって…」
蓮にそう言われてわたしはショックを受けた。確かに目の前の蓮は美少女だ、黒い短髪も割と小さめな身長も、かわいらしい印象を与えて人受けはするだろう。
しかし、ひそかに自分の容姿に自信を持っていたのだ。最近変えたシャンプーがいいのか、肌艶もいいし。
「だーれーがー地味ですって?」
そんなわたしの逆鱗に触れた蓮。許すまじ。
「いや、さすがにそんな気落ちしていたら魅力がなくなる的な意味で行ったんだけど」
「それは地味とは関係ある?」
「みずきは元がいいんだから、少しのコーデで魅力が増すよ?」
「言ったわね、じゃあ蓮はどんなのがいいと思うのよ」
売り言葉に買い言葉。わたしは連の言葉に応じてしまった。
「…ならこんなのはどうかな?」
そう言って蓮は、簡素な更衣スペースに入って行った。そういえば今朝、なんだか重そうなキャリーケースを持ってきてたような?
「みずき、用意できたから入ってきて」
連の言葉に私は立ち上がり、更衣室に入ってみた。
するとそこには……
「じゃじゃーん、どうでしょう」
マネキンに着せられていたのは、紅白のドレスだった。胸のあたりを黒い布で巻き、大量の銀色のフリルで飾られたその衣装は……
「…えっと、ミニステールの衣装版?」
「おー、よくぞ気づいた!」
ミニステールを意識したのが丸わかりだった。
「……これを、着ろと?」
「いや待って、その拳引っ込めて!」
頭痛の種なのにこんなものを用意した
「あのね、今全国でミニステール…ロボットブームなんだよ」
「ほうほう」
「ロボットにあやかったグッズを作るオタクが増えているんだよ」
「ほうほう」
「つまりみずきがこれを着ても、コスプレで押し通すことができる可能性が高いんだよ」
「いやどうしてそうなる?」
蓮の主張を聞いて、わたしはあきれ果てた。
ただでさえあの姿になるのも抵抗があるのに、それを模したものを着てと言われても、ただの羞恥プレイでしかない。
「…やっぱりだめ?」
彼女は瞳を潤ませて上目遣いで聞いてきた。
やめて、さすがにわたしの良心が痛むから…
「みずきに似合うと思ったのに……」
…あぁ、そうだった。この子は根はやさしいのだった。
一皮むけばコスプレオタクだが、他人に迷惑をかけていないかいつも気にする
今回も多分、こういう服を着てるんだよとかいうイメージでこのドレスを作ったのだろう(*6)。
「…はぁ、わかった。今この場で一度だけ着る」
「本当に⁉よしじゃあ今からプチコレだー!!」
そう言うと蓮は、飛び跳ねながら服を着せる準備を始めた。
まったく、現金な子だよ。
その後着たドレスは、悔しいぐらいにわたしにピッタリだった。
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(*1)のちに日本政府が関与を否定し、恥をかいたのは別の話。
(*2)それがチャールズとその仲間たちとは限らない。
(*3)この高校では7人以上で部、それ未満でクラブとなる。
本来二人ではクラブとなり部屋を持てないのだが、他の学生が受験その
他でいなくなったため部室のままになってる。
(*4)生き残ってしまったことへの罪悪感。
(*5)パソコン関係の新品が高いため、むしろ発行部数が増えた。
(*6)なお、このドレスを作るのに10日かかったことをみずきは知らない。
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後書き
実を言うと、前半の陰謀パートのほうとかが書きやすいのよねー。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は1話以来の戦闘パートあり。
…これ書いてる時点で構想だけだけど。
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