総評「カクヨムが覇権を取る日が来る。その可能性について」

 小説投稿サイトにおいてもっとも大切なものは何か?


 読者の数です。


 書くためのモチベーションは「読んでもらいたい」との思いから始まりますので、読者の数は切っても切り離すことができません。


 この点、小説投稿サイトの雄・小説家になろうは圧倒的な読者数を誇っています。読者こそパワー! 他の小説投稿サイトはまだまだその足元にも及んでいません。


 しかし、それは今現在の話であり、この先も未来永劫そうであるとは限りません。


 実際、読者数では圧倒的に劣っているカクヨムではありますが、サービスの質においては圧倒的に勝っています。


 サービスの質を高め、ユーザーからの信頼をコツコツ積み上げていく。

 近い将来、カクヨムが覇権を取る日が来るかもしれない。筆者はそう感じました。


 なぜそう感じたか?


 少し昔ばなしをしましょう。


 今では動画投稿サイトといえば「YouTube」と誰もが答えるでしょう。しかし、過去の一時点において、誰もが「ニコニコ動画」と答える時代が確かにありました。


 私はニコニコ動画が大好きでした。

 朝から晩までかじりつき、ランキングを漁り、それでも足りずに自分好みの動画を検索して探す日々を送っていました。


 しかし、大好きだったニコニコ動画は衰退してしまい、今ではYouTubeが台頭し、覇権を握るに至りました。


 私は、今でもニコニコ動画を利用します。けれど、当時の勢いはもはや見る影もありません。衰退と同時に動画製作者が減り、動画のクオリティが下がり、動画のクオリティが下がったことで視聴者が減る。そして視聴者が減ることで、製作者がさらに減り……と、負のスパイラルを繰り返していった結果でしょう。


 ニコニコ動画が衰退した原因は諸説あります。

 以下はあくまで、私個人の見解であることをご留意の上、ご参照ください。


 ①YouTubeはサービスの質を向上させ、無料でも十分なサービスを受けられる体制を構築し、ユーザーを満足させることで人を増やしていった。一方、ニコニコ動画は、目先の利益(黒字化)を優先し、無料ユーザーは劣悪な環境に置かれ、まともに動画を見ることができなかった。また生放送では、無料ユーザーを追い出す機能が実装されていた。(追い出し機能は当時の機能であり、今はありません)


 ②YouTubeは動画投稿者に広告収入の一部を還元し、パートナーという関係を作り上げ、動画投稿者のモチベーションを向上させることで、質の良い動画を提供してもらえるようになった。一方、ニコニコ動画は、動画投稿者に対しての優遇措置は取らなかった。また、公式の動画がランキング上位を占める問題などが発生し、動画投稿者が萎える原因を作ってしまった。


 以上の二点が、衰退の主な原因であると私は考えています。


 企業として、利益を求めることは当然であり、黒字化を目指したことを批判するつもりはありません。有料ユーザーを優遇するのもサイトの戦略として間違ってはいません。しかし、「有料だからよりよいサービスを受けられる」ではなく「有料でないとまともにサイトを利用できない」はやりすぎでした。


 栄華を極めていた頃はそれでも良かったのでしょう。

 しかし、一度衰退がはじまると落ちぶれるのは意外と早かったのです。


 まさに「後悔したってもう遅い!」です。


 当時はドワンゴが運営していましたが、今ではKADOKAWAと経営統合され、KADOKAWA・DWANGOとなっています。統合後は、有料会員に依存しない収益体制を目指し、成功を収めているようです。さすが、天下のKADOKAWAですね。


 おや? と思った方もいるでしょう。


 そう。カクヨムを運営するのもKADOKAWAです。

(今では切り離されてしまいましたが、ニコニコ動画のトップページにカクヨムへのリンクが存在していた時期がありました)


 サービスの質を追求する姿勢は、もしかすると過去の失敗を反省し、次へ生かした結果なのかもしれません。


 そして、カクヨムが覇権を取るんじゃないかと思う理由はここにあります。

 構図が当時のニコニコ動画とYouTubeの関係に似ていますよね。

 今回、カクヨムは追いかける側です。


 ただ、一つ勘違いをしてもらいたくないのは、小説家になろうの運営さんは、ユーザーに対して真摯であり、常に真っすぐな姿勢で向き合っているということです。


 覇者たる絶対強者が、傲慢にならずユーザーに対して真摯に向き合う。

 これは強敵です。カクヨムが覇権を取るのは容易ではないでしょう。


 それでも、現在、カクヨムにはチャンスが訪れていると思います。


 現在、小説家になろうでは、女性向けの作品が人気を博し、ランキング上位を占める事態となっています。男性向けの作品は伸び悩み、書籍化を狙うような上位ランカーはカクヨムへ移籍、あるいは並列投稿をするようになった人もいるようです。


 この事態に危機感を覚えたのかどうかは定かではありませんが、小説家になろうではジャンル別ランキング(トップページにあり一番目立つ)に、隔離しておいた異世界転生・転移ものを含むように仕様を変更しました。


 過去に人気のあったジャンルを統合することで男性向けの作品を盛り返したいとの思惑があったのかもしれません。しかし、これは新たな問題を孕んでいました。


 ジャンル別ランキングへ入るためのボーダーが跳ね上がったのです。


 筆者はランキングに入ったことのない底辺作者です。しかし、ランキング入りを目標にずっと活動してきました。そのボーダーが倍の高さになったとなると、もはや飛ぼうという気にもなれず、現在執筆中の長編を投稿する気が削がれてしまいました。


 これがカクヨムで活動しようと思った、裏の理由でもあります。


 作者とは、同時に読者でもあります。作者が書くことをやめ、サイトの利用をやめれば、それは同時に読者を失うということ。ましてや、作者の9割以上は底辺作者ですから、ここを萎えさせるのは得策ではありません。


 昔、ニコニコ動画において、公式の動画がランキングを占め、投稿者を萎えさせてしまったのと同じ構図ではないでしょうか。


 もっとも、小説家になろうの運営さんは真面目に取り組んでいらっしゃるので、この問題を取り除いて貰える可能性は十分にあります。しかし、彼らも神ではありませんので、すべての問題を取り除くことは容易ではないでしょう。


 となると、カクヨムが付け入る隙は、十二分にあるのではないでしょうか。


 以上がカクヨムが覇権を取るんじゃないかと思う理由であり、また、私がカクヨムを利用しようと思った理由でもあります。


 2024/1/16 追記

 本日、小説家になろうにおいて、ランキングがリニューアルされました。

 本稿の内容は、2024/1/16以前の古い仕様に対するものであり、現在は事情が変わっている可能性があります。その点はご注意ください。




―――― 第一章 終 ――――

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