俺の友達


 俺が彩花と智也が待っているであろう校門に辿り着く頃には新入生のほとんどがもう家に帰っていったのか、桜の木の下で写真を撮りあっている女生徒が数人いるくらいで生徒はほとんど残っていなかった。


「お待たせ」


「おう。それで? なんの呼び出しだったんだ?」


「それは……」


 ここは正直に奈菜さんに話がしたいという理由だけで呼び出されたと答えてしまっていいのだろうか? 一応あれでも生徒会長なのだし、威厳とか名誉的なものの為に誤魔化しておくべきなのかと悩んでいると、彩花が俺の顔を覗き込むようにして身を寄せてきた。


「お姉ちゃんに強引に呼び出されただけでしょ?」


「…………」


「ふふ。図星だね」


 さすがは妹とでも言うべきなのか、大正解である。それにしても、こうやって至近距離で顔を見せられると彩花は本当に可愛くなったんだなということを改めて思い知らされる。これなら、些細なことでもコロッといってしまう男子も多いのでは無いだろうか? 

 男子なんていうのはなんでも自分に都合の良い感じに解釈をするので、軽く肩を叩かれただの、顔を覗き込まれただけでも自分に好意があるのでは……? などとすぐに勘違いする生き物なのだ。

 もちろん、陰キャを極めた俺はそんなことは無い。もちろん俺にだって男子高校生らしい欲求も人並みにはあるが、そんな欲求よりも1人で地味に平凡な生活を送る方が大事なのだ。彼女なんて作ったら嫌でも目立ってしまう。それは俺的には大変よろしくないのだ。


「お姉ちゃん?」


「生徒会長のことだよ」


「えっ!? 生徒会長って柏村の姉貴なのか!?」


「うん。そうだよ」


「はぁ……姉妹そろって美人なこって……」


 智也は関心したような、それとは同時に納得したような顔で彩花を見ている。彩花は美人と言われたことに照れているのか若干俯きながら「そんなことないよ……」などと言っている。


「俺の前でイチャつくのも程々にしてくれよ?」


「別にイチャついてねぇよ!」


「そうだよ悠くん! 悠くんこそお姉ちゃんと何かあったんじゃないの!?」


「奈菜さん……何も変わってなかったな……」


「あっ……うん……本当にね……」


 彩花は俺が何が言いたいのかを瞬時に察してくれたようで、困ったような顔をして苦笑いを浮かべている。もしかしたら、彩花も妹としてそれなりに苦労しているのかもしれない。


「なんの話しだ?」


「智也もそのうち分かると思うよ」


「? まぁ、いいか。そんなことよりも早く飯食いに行こうぜ」


 そう言って智也が歩き始めるので俺と彩花は智也の後ろを追いかけるようにして歩き始める。智也は迷うことなく歩みを進めていいるのだが、俺はどこに連れていかれるのだろうか? そんなことを思いながらも3人でお互いの趣味についてなどを話しながら歩いていると駅周辺へと辿り着く。なるほど、確かにここなら飲食店も集まっている。


「あの店でいいか?」


「俺はなんでもいいよ」


「私もどこでもいいよ」


「そんじゃ、決まりだな」


 智也が指さした店は緑の看板の学生御用達価格のイタリアン料理店だ。イタリアン料理って聞くとそれだけでお高そうなイメージを持つのはきっと俺だけでは無いはずだ。サイ○リヤと言われると急にそんなことも思わなくなるのだが。


 俺達が店内に入ると2組ほど並んでいたが、10分もしない内に席へと案内される。席に着くと店員さんはフォークやナイフの入ったケースを置いて立ち去っていく。メニュー表は渡してくれないのかと思いながらもテーブルの上を見てみるとそこにはタブレットが置いてあり、どうやらこれで注文するらしい。


「へぇ……いつの間に……」


「どうかしたのか?」


「いや、今はタブレットで注文するんだなと思って」


「悠くんこのお店来るの初めてなの?」


「いや、小学生の時に家族と来たことはあったと思うぞ?」


「中学生の時は友達と来たりしなかったのか?」


「うん。というか、友達なんていなかったし」


「……え? 悠くんが?」


「俺がだが?」


「悠……俺はもうお前の友達だからな?」


 俺が中学生の頃は友達がいなかったというと、彩花は信じられないような顔をして俺見てきて、智也は可哀想な子を見るような目で俺を見てくる。俺は好きで友達を作らなかった……というより、1人でいるようにしていたのでそんな風に見られても困るだけなのだが。


「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は好きで1人でいただけだからな?」


「そう思って頑張ってきたんだな……大丈夫だ! 俺は悠を見捨てないから!」


 そう言って智也は俺の肩をバシバシと叩いてくる。もはや、何を言ってもダメだと悟った俺は何も言わずにタブレットを手に取ってメニューを順番に見ていく。彩花は俺を不思議そうに見ていたのだがメニューを見ていた俺はその事に気付くことはなかったのだった。

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